第40話 インタビュー3
「人の部屋に入ることに抵抗はありますか?」
「ある。でも、なるさんの部屋にはお邪魔してみたかった」
「何もお構いできなくて、申し訳ありません」
「いや、りんごジュース美味しいよ」
「良かった。丹羽さんが取引先のホテルの人からもらってきたやつなんです」
「取引先?」
「今度、ホテルとコラボしようとかなんとか・・・」
「え!すごい!コラボってどんなことするの?」
「聞いたけど、よく分からなくて・・・。ていうか、これはサラさんのインタビューですよ」
「ごめんごめん。なるさんのことをもっと知りたくて」
「私の話なんて、つまらないですよ」
「それ、ここ数週間のインタビューで私が感じてることだよ」
「・・・」
「でもね、つまらない人生なんてないと思うの。少なくとも、私にとって、なるさんの話は緊急ニュースよりも知っておきたい」
「・・・お姉さんの次は、私ですか?」
「そう。貴方の話を聞いて、自己満足したいだけ」
「ふふ。分かりましたよ。で?どういう話を聞きたいんですか?」
「小説家になったきっかけ」
「それくらいしかできなかったから。若い頃、コンビニでアルバイトしたことがありますけど、全く使い物になってなかったです。夜勤だったんですけど、やること多すぎてパニックになっちゃいました。だから、1人でできる仕事を探していたら、小説家が1番都合が良かったんです」
「他のクリエイティブな仕事はなんで見送ったの?」
「芸人さんやミュージシャンは、人前に出るから論外。漫画家さんは、アシスタントさんと交流しなきゃいけないイメージがあった。そうやって、消去法で残ったのが小説家だった」
「小説は昔から好きだった?」
「別に。夏休みの読書感想文のために読むくらい」
「文章を書くのが、向いていた?」
「まあ、次の展開や言葉が思いつかないってことはなかった。小説家になるって決めてから、売れ筋のやつをチラッと読んで、法則に当てはめていったら、なんか書けた」
「『なんか書けた』・・・その方法を知りたい人がたくさんいると思うけど、何かアドバイスとかある?」
「書きたいことを書けば良い。書きたいことがなくなったら小説家を辞めろ」
「厳しいね」
「小説なんか書いてたって、世の中に何の貢献もしてない。その上、書けないのに小説家を名乗られたら腹が立つ」
「でも、スランプってもんがあるじゃない」
「一般の仕事をしている人が『調子が悪い』からって休んだらいけない。でも、小説家はスランプって得体の知れない理由で休暇がもらえる・・・その期間にキャバクラに行ったりする」
「キャバクラは、現実逃避する場所だと思ってる」
「・・・」
「小説家が社会の役に立たないっていうなら、キャバ嬢はその上を行く。なんだったら軽蔑されてる。わざわざお金を払って私達を糾弾しにくるお客様もいる。でも、私なキャバクラっていう場所が無くなっても良いとは思えない」
「・・・」
「家族や友達にも言えないことを、訳の分からない格好をした小娘になら話せる。キャバクラはね、戦ってる人が溜めたゴミを捨てるための、大きなゴミ箱なんだ」
「・・・」
「だから、辛い時にキャバクラにくるっていう選択をしたなるさんは、間違ってないよ」
「・・・いつも、そういう感じでお店喋れば、もっと人気出るんじゃない?」
「え?本当?」
「うん。あーでも、女の人のお客限定で」
「せめー」
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