第38話 深夜のテンション

旅館での過ごし方を、私はイマイチわかっていない。

最大のイベントである温泉には、他人に肌を見せることに抵抗があるので、部屋のシャワーで済ませた。

とりあえず、旅館の気分だけでも味わおうと、浴衣を着てみた。


「・・・」


特に感想は無かった。

私が何を着ていようと、興味がない。


やることがないので、ナルとテレビを観て夕飯を待つ。


「やってることが、いつもとあんまり変わんないよ」

「君は楽しむのが下手だね」


そうかもしれない。

私が精神を病みやすいのは、趣味が内に向きすぎていることも関係しているのかもしれない。


「じゃあ、この旅行を勧めてくれた人に感謝だね」


旅行というか仕事だけど、まあ、ああいうことを言われなかったら、自分から遠出することはなかっただろう。


「うん」


詐欺師に感謝するのは癪だったけど、変なプライドは捨てて、そう言うことができた。

\



ご飯は美味しかった。

子供の頃は、菜の花の何が美味しいのか分からなかったが、20を過ぎてからは好きになった。


順調におばあちゃんに近づいてるなぁ。と、駄菓子屋のおばあちゃんを思い出しながら、幸福を感じた。


時刻は、11時半。


このくらいの時間から、座敷童を意識しておいた方が良いだろう。

座敷童。できれば現れて、私をもっと幸せにしてくれ。


1時間経過。

テレビも飽きたので本を読む。


2時間経過。

本が飽きたのでスマホをいじる。


3時間経過。

スマホに飽きたのでナルと喋る。

「座敷童って、可愛いのかな」

「いやー。意外とブスだよ」

「そんなわけないよ。おかっぱ頭の可愛い女の子だよ」


4時間経過。

ナルと喋るのにも飽きたので、人間のなるさんに電話をしてみる。


自分から電話をするのは久しぶりだ。

自分で思っているよりも非日常に当てられているみたいだ。

しかし、呼び出し音を聞いているうちに、我に帰った。

何時だと思ってんだ!

起きてたとしても小説書いてるよ!

切ろうとした瞬間、電話の電波の影響で少し違和感のある声が聞こえた。


『もしもし』


・・・やっちまった。

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