第36話 素敵な駄菓子屋さん

ナルの頭をむんずと掴み、私は家を出た。

ほらみろ、幽霊なんかいなかったじゃないかと思うと同時に、ナルと再開できたことを嬉しく思う自分もいる。


「あとは・・・言葉を喋る猫と、座敷童が出る旅館か」


旅館は泊まればいいけど、猫はどうするか。


「1時間くらい歩いてみて、いなかったら諦めれば?」

「そうだねー」


ナルが、ぬいぐるみが喋った。

いよいよ私もヤバいなぁ。幻聴まで聞こえてきた。


「久しぶりに来たんだからさ、一緒に遊ぼうよ」

「よしきた」


自分でも不思議なんだけど、ぬいぐるみが喋ったことに全く驚いていない。


遊ぶと言っても、私はここ10年、遊びという遊びをしてこなかった。アニメを観たり小説を読んだりするのは遊びに含まれるかも怪しい。もっとこう・・・友人ときゃっきゃする感じの遊びがしたい。


「ぼくも遊ぶのは久しぶりだから、最初は疲れないやつにしよう」

「疲れないやつ?田舎の遊びなんか、全部疲れるでしょ」

「友達が東京に染まってしまった・・・」

「なんたってキャバ嬢ですから」

「キャバ嬢?君が?」

「そうだよー。人生って分かんないよねー」

「そっかー。いつも喋る仕事なんだね。じゃあ、喋らないで済むやつにしよう」


こいつ、こんな気遣いができたんだ。

いや、チビの私には、気遣いする必要がないくらい元気だっただけか。よっぽど、今の私が疲れて見えるんだろう。


ぬいぐるみが指示する道順に従いダラダラ歩く。途中で駄菓子屋さんがあったのであずきバーとラムネを買った。

あずきバーは、冷やすと美味いので、お店の前のアイスの箱で冷やしてもらった。


店員さんは、駄菓子屋では珍しい若い女の子だった。

17歳くらいだろうか。

私の働いているキャバクラだったら、即戦力になれるくらいに可愛い。


なんだって、若い女の子が駄菓子屋でバイトを?

と思っていたら、奥からおばあちゃんが現れて、「スズ、ありがとう。あとはおばあちゃんがやるよ」と優しい声音で言った。

スズちゃんも「うん」と感じよく頷き、奥に引っ込んでいった。


取り残されたボロボロのぬいぐるみを掴んでいる、明らかに成人の女とおばあちゃん。

あずきバーがいい感じに冷えるまでは、ここに居たいので、追加で何かを買うべきかと考えた。


「ぼくは、キャベツ太郎が食べたい」


おー、そうか。具体的な商品名を言ってくれると、行動に移しやすいから助かるよ。

と、ナルに返したかったが、さすがに、この素敵なおばあちゃんにヤバい奴認定は受けなくない。

無言でレジに向かう。


おばあちゃんは、キャベツ太郎を受けとり、ナルに視線を向ける。


「可愛い子だね」


キャベツ太郎は40円だったが、その言葉に合った金額を追加で払いたくなった。



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