第34話 俊足
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
有名な俳句が世の中の心霊現象と呼ばれるものを説明してくれている。
詐欺師から聞いた怪異とやらは、何一つ具体的な事実はなかった。
もう誰も住んでいない廃墟から女の声が聞こえたとか、猫が人語を喋ったとか、唯一の旅館で座敷童が出たとか。
下らない。
どうせ、何かの見間違いか、目立ちたがりがでっち上げた嘘に違いない。
でも、15万を受け取ってしまったので、頼まれた仕事はしなければならない。
たぶん、「何かいた気がする・・・」って怯えた顔で報告するのが良いのだろう。
一応、写真を撮ってただの壁のシミを女の顔を幽霊だと言い張ろう。後は詐欺師が勝手にビジネスに繋げるだろう。
さて、まずは廃墟か。
地図アプリで調べたら、それなりに遠いので、タクシーかバスを当てにする。
でも、駅の周りにそのどちらも見当たらない。
「・・・歩くか」
ダラダラ歩き始める。
ところで、私は、歩くのが嫌いではない。
何も考えなくても、ただ足を交互に出すだけを繰り返すのは、心が落ち着く。
6月なのに暑い日だったけど、特に辛いと感じることもなく順調に進む。
歩いても歩いても田んぼが広がっているつまらない景色を見ながら、無心で歩く。
\
「・・・私の家だ」
1時間半歩いて着いたのは、かつて私達家族が住んでいた家の、変わり果てた姿だった。
変な噂ができるのも納得できるくらいの廃墟っぷりだ。
植物は生え放題。元々古い家だったから、不気味さに拍車がかかっている。
まだ昼間なので、肝試しに来ている人もいなさそうだったので、扉を開けてみる。
嫌な音を立てながら開く。
この、黒板を引っ掻いた音に似ている音にも、幽霊の噂が集まる一因になっているんだろう。
開いてしまったからには、入るしかない。
玄関に散らばった大人用と子供用の靴に目が行く。
お。俊足。
小さい頃の私は、「足が速い」という肩書きが欲しくて、そこらを走り回っていた。そんなある日、テレビのCMで「履いたら足が速くなる」ドラえもんの秘密道具並みに魅力的な商品の存在を知った。
チビの私は、フォームもめちゃくちゃなので、靴だけ良いものを履いでも劇的な変化はなかったのだが、めちゃくちゃ速くなった気になって、四六時中走り回った。
今では、走らなきゃ電車の時間に間に合わない時でもチンタラ歩くキャバ嬢になってしまった。
懐かしさに感傷に浸るようになる年齢に私もなったのだなぁと、自嘲する。
こんな感じて、この廃墟を探索していれば、懐かしいものがもっと見つかるだろうか。
ちょっと、楽しみになってきた。
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