第33話 故郷

駅に誰もいない光景を実際に見てみると軽い恐怖を感じる。

人がいるべき場所人がいない。


東京の人混みも異常だけど、ここ、佐江町の人気のなさも不気味だ。


田舎に憧れる。という人がいるらしいけど、観光に留めておいた方が良い。

自然というのは、稀に触れるから癒されるのであり、日常になってしまっては、目障りにされなりうる。


田舎の人は、都会人より温かいという認識も改めるべきだ。

別に田舎の人が本当は悪い人だなんて極論を持ち出すにはない。

もっとシンプルに、「人による」ってだけの話だ。

人間をカテゴリーで雑に分けて判断されては、溜まったものではない。


関西人は面白い。

サッカー部はトイレの鏡の前で前髪をイジイジしといる。

キャバ嬢は、金遣いが荒い。


頼むから、1人の人間として見てあげてくれ。


まあ、何が言いたいかと言うと、故郷に戻ったからといって、20代の女性がノスタルジーに浸っているわけではないということだ。


「・・・はぁ」

無人の駅を出て、ため息をつく。

なんで、こんなところに来てしまったのだろう。

\



時間は戻って2日前のキャバクラ。


6月のジメジメした気候の中、少しでもストレスを解消しようとご来店されるお客様が集まる中、ストレスとは縁が無さそうな人物が訪れた。


「おー。本当にいた」


なるさんの専売特許であった「女性のお客様」というアイデンティティを覆したそいつは、詐欺師だった。


「誰から聞いたの?」


こいつに、私の仕事がキャバ嬢だとカミングアウトした覚えはない。


「はっはっは」


いや、笑われても。

まあ、こいつの情報網は、私なんかでは及びもつかないほど広い。


「まあ、とりあえず座りなさいな」


知り合いが職場に、しかもキャバクラにいる違和感にイライラしつつも座る。


「似合ってんじゃん」


薄ら笑いでそんなことを言われても嬉しくない。

たぶん、いや、絶対、詐欺師の方がこういう派手な服装は似合う。

ムカつくことに、犯罪者のくせに見た目は良いのだ。


「サラちゃん、聞いてほしい話があるんだけど、聞いてくれる?」

「それが仕事ですから」

「お。クールキャラか。良いじゃん」

「いいから、さっさと話して」

「分かった分かった。あのさ、心霊で儲けようと思ってんのよ」


最も不快な詐欺のやり方だ。

顔をしかめる私に、無視して話を進める。


「でさ、サラちゃんの実家のある村が怪異現象で有名なことを思い出したのよ。ちょっと、取材してきてくれない?」


取材。

今、なるさんが私にしていること。


普段なら、こんな舐めたお願いは聞かないけど、詐欺師が続けたこの一言により、愚かな私は引き受けてしまった。

「とりあえず、15万払おう」

「了解」

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