第32話 全力だった時期

「小さい頃に好きだったアニメは?」

「トトロ」


「何故?」

「理由・・・?好きだから・・・?」


「すみません。トトロが好きな理由を聞くのは無粋でしたね」

「あ、いえ」


「日常系が好きなんですか?」

「うん。起承転結がしっかりある話も大好きなんですけど、ずっと観てられるゆるいアニメが好き」


「昔から、疲れていたんですか?」

「うーん。というより、馬鹿なんだと思う」


「そうですか?サラさんは聡明な女性だと思いますよ」

「はは。リップサービスありがとう。んー・・・例えば、ジブリでは、『千と千尋の神隠し』とか『火垂るの墓』の完成度が凄いことは分かるけど、もう一度観ようとは思えないんだよ」


「なるほど。少し分かる気がします。情報量が多すぎて、気分でない時は見るのが辛いって感じですかね」

「大体合ってる。少しだけ付け加えるなら、物語に教訓とかは、私は求めてないんだと思います。だから、学生時代は、現国が苦手だった。『作者の意図を答えなさい』っていうタイプの問題がよく分からなかった。本を読んだ感想って、『面白かったぁ』じゃダメなのかって」


「そこで、『となりのトトロ』ですか」

「うん。なんか、変な都市伝説があるみたいだけど、あんなのどうでもいい。ただ、あの世界に浸っているのが心地いい」


「名作って、そういうものなのかも知れませんね」

「うん」


「でも、他にもそういった作品はあるでしょう。何故、その中でトトロが特別なんですか?」

「えっと、思い出補正?」


「トトロを観ると、何かを思い出す?」

「・・・お母さんとお父さんが行方不明になる前に住んでいたところが、あんな感じだった」


「へー。雰囲気の良いところに住んでいたんですね」

「さすがに、あそこまで見事な自然があったわけじゃないけれど・・・メイちゃんみたいに、外を駆け回ってた記憶がある」


「あんな感じだったんですね。可愛らしい」

「はは。なんか、今日はよく褒めてくれますね」


「本心で言ってるんですよ」

「そんなに甘やかさないで下さい。調子に乗っちゃうので」


「貴方の場合、少しくらい調子に乗るくらいが丁度良いんですよ」

「調子に乗ったら、排除されるよ?」


「みんな、貴女が思うより、貴女に興味はありません」

「ひどいこと言うなぁ」


「貴女にもあったはずです。周囲の目を気にしないで、ただ全力だった時期が」

「まあ、メイちゃんだからね」


「懐かしいという感覚も良いものですよ。気が向いたら、過去に思いを馳せてみては?」




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