第31話 未来の貴女
コンビニのご飯は美味しいけど、食べた後、眠くなる。
「あ、これ無理だ」
いつもより早く寝ることは、何かに負けた気がするので嫌だ。
私はまだ21歳だ。稼働時間が長ければ長いほど格好いいという頭が悪い考えを持っているけど、そんなもんどうでもよくなるくらい眠かった。
何が入ってるんだ、あのお弁当。
眠りにつくというより、気絶に近い状態で意識を離した。
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「景ちゃん。なんかあった?」
私が通っていた高校の制服を着たなるさんが心配そうに聞いてくる。
場所は・・・教室か。
教室には、なるさんと私しかいない。
あー、これは夢だな。
夢を夢だって分かるのは、明晰夢で言うんだっけ?
睡眠がきちんと取れていない時に見るらしい。
起きた時が心配だったけど、制服姿のなるさんはレア中のレアだったので、せっかくだからよく見ておこう。
まあ、私如きの想像力で形成した制服だし、母校の制服がどんなだったのかも忘れてしまったので、黒のセーラー服ということくらいしか分からなかった。
「なんか、顔色悪いよ?」
そもそも、当時の私にこうやって心配してくれる友達はいなかった。
詐欺師ほど分かりやすく避けられていたわけではないから、ボッチでもなかったけど、ノリの悪い私に、「友達」と胸を張って言える子はいなかった。
「ねぇ。本当に大丈夫?」
ふふ。
大丈夫ではないよ。
特に、この時期は。
でも、私は夢でもこう答えた。
「大丈夫だよ」
私の浅はかな嘘になるさんは、傷ついた顔をした。
小説家モードに入る前のなるさんは、こんな感じだったなぁと、まだ2週間だけど懐かしい気分になる。
でもね、そんな顔しても、この頃の私に弱音を吐くことは無理だよ。
人に話を聞いてもらうことに、意味を見出せなかったんだよ。
「話すだけでも楽になるよ」
誰が言い出したのか知らないけど、私には不必要だった。
私じゃなくてお姉ちゃんに楽になってほしいという、傲慢な悩みを抱えていたから、人に話しても意味がないと思い込んでいた。
「話してよ。友達でしょ?」
良い子だ。
でも、今、私が話したいのは、良い子の貴方じゃない。
怖いけど、本音を引き出してくれる、未来の貴方だ。
「ごめん。行くね」
私は席から立ち、教室から出る。
振り向かなかったから、あの子がどんな顔をしていたかは分からない。
さあ、目を覚まして、あの人に会いに行こう。
そして、私の正体を暴いてもらおう。
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