第28話 インタビュー2
「お姉さんとは話せましたか?」
「はい」
「どういう話をしましたか?」
「お互いの仕事の愚痴を話しました。お姉ちゃんも本音を少しみせてくれたと思うんですが、同僚のことだけで、利用者のことは言いませんでした」
「福祉職には、利用者さんのお名前などの個人情報を、たとえ家族であっても話してはならない契約を結んでいるので、お姉さんが真面目であればあるほど難しいかもしれないですね」
「・・・」
「何か、思うことがありそうですね」
「いや・・・うーん」
「貴方は福祉職ではないのですから、あからさまな差別でなければ言っても問題ないと思いますよ」
「そうですか・・・?そうですね。あの、お姉ちゃんに限らず福祉職の人達って、自分を傷つけすぎっていうか・・・」
「はい」
「誰だって、殴られたら痛いし、心無いことを言われたらストレスが溜まります。でも、さっきなるさんが言っていた通り、個人情報がどうとかで、そういう目にあったのを人に話すことを禁じられています」
「そういう契約ですしね」
「まあ、その契約の意味が分からないってわけではないんです。職員の支援の仕方が悪かった。だから、もっと頑張りましょう。それで終わりにするのが、色々な人・・・特に利用者には都合が良いでしょう」
「そうですね。問題は問題にしない限り、問題にはなりませんから」
「でも・・・支援支援って言ってるけど、傷ついた職員の心の支援をする人はいません」
「その通りです。そういった職業はありません」
「で、真面目な人が多いから、利用者のために身を粉にして働いて、その結果、鬱病になって退職・・・こんなパターンばっかりですよ」
「えぇ」
「なんで、安い給料で頑張ってきた人が鬱病になって、その後の人生をコソコソ生きなきゃいけないんですか?・・・私は、お姉ちゃんがその内そうなりそうで、怖いんです」
「貴方は、どうすればお姉さんが、これからも健康に生きていけると思いますか?」
「ストレスを吐き出せる相手・辞めてもしばらくはどうにかなる貯金・仕事以外の生きがい」
「妥当だと思います」
「だから、私がストレスを吐き出せる相手になりたい・・・」
「できてるじゃないですか。仕事仲間の愚痴に留まって、利用者さんのことは言わないお姉さんは立派ですよ」
「立派」
「はい」
「お姉ちゃんは、昔からそんに評価をされてきた。『妹の面倒を見ていて立派だね』『困っている人を助けてあげて立派だね』『ボランティアしていて立派だね』・・・無責任な言葉でしょ?」
「無責任とは?』
「褒めるだけなんですよ。偉いって言うだけで、何もメリットがない。でも、褒められていることで『正しいことをしているっていう意識だけは大きくなっていく。その結果、優しすぎる人間が完成する」
「周りに搾取されやすいということでしょうか?」
「そう。人のために動くことが最大のアイデンティティになってしまう。だから、自分のことを考えない。ついでに、自分が傷付いたら悲しむ人がいることにも気づかない」
「それは、貴方のことですか?」
「そう。そうです。結局私は、お姉ちゃんが傷ついているのを見て、自分が傷つくのが嫌なんです」
「それが聞けて、安心しました」
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