第27話 ズル
深夜3時の新宿のコンビニのイートイン。
そこは、休憩中のキャバ嬢の溜まり場となる。
申し訳程度にお菓子と飲み物を買い、派手な女達が集結している。
私達のせいで入りづらい人もいると思うと心苦しいが、どうか許してほしい。
キャバクラにも、休憩室と呼ばれる部屋があるにはあるが、どうしても外に出たい時もある。
公園という選択肢もあるけど私達は暗闇の公園で語り合えるエネルギーがもう無い。
照明があって、空調が整っている場所でないと会話する気が起きない大人になってしまった。
実際、今イートインには私を含めて6人のキャバ嬢がいるが、大した話はしていない。
あの客ウザいだとか、最近話題のイケメン俳優の話をダラダラしているだけだ。
私は、相槌をミスらないように気をつけてこの場に参加している。
仲間に対する相槌は、お客様とは違う種類の技術が必要になる。
例えば、誰かの悪口をしている時は、その人物をフォローすることは御法度だ。
彼女達はとにかく攻撃したいだけだ。その人の良いところなどを言おうものなら「空気読めない子」と認定されてしまう。
なにも、捻った感想はいらない。
たた、共感してあげていれば良い。
自分の意見は殺して。
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「最近、なるさん来ないねー」
順調に死んでいた私に会話を試みる人がいた。
いつの間のにか隣に座っていたナナさんだ。
「あ。えっと、お仕事の方が忙しいらしくて」
久しぶりに自分の言葉を発したので、たどたどしくなってしまう。
あー。たぶん今の私、気持ち悪い顔してるだろうなぁ。
「そうなんだー。じゃあ仕方ないねー」
一方のナナさんは、良い意味で適当に喋っている。言葉を脳で検索するまでもなくスルスル言葉が出てくるコミュニケーション強者だ。
「サラちゃんも寂しいでしょ?」
いや、明日もインタビューで会うんですと言うわけにもいかないので、頷くしかない。
・・・なんだか、ズルをしている気がしてきた。
キャバクラから離れた場所でお客様と会っている私は、明確にルールを犯している。
せめて、ナナさんも同じ土俵に上げられないかな?
「そっかそっか。寂しいか。よし、小枝を3本あげよう」
私が罪の意識に苛まれているのが、寂しい表情に見えたのか、ナナさんは小さいチョコをくれた。
うん。安定の味。
明日、ナナさんを召喚して良いか聞いてみよう。
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