第25話 カフェコーヒーと缶コーヒー

オシャレカフェに男性に呼び出されました。


そんなことをお姉ちゃんに言おうものなら、先日よりうるさく詮索するに違いない。


しかし、その男性は大事な人の仕事のパートナーだ。色っぽい展開になることは万にひとつもない。

それでも、緊張するものは緊張する。

それにしても、なんだこのカフェ。


木彫の作りで、薄暗い照明、オシャレな本棚。

・・・この薄暗い中、本を読む気にはなれない。

待ち合わせ相手を待っている時間も、持参してきた小説を読む気にもなれない店内だ。


そして、コーヒー一杯500円ときた。

私は、缶コーヒーを「美味い美味い」と飲んでいる味音痴だ。さすがに、ちゃんとしたコーヒーの方が美味しいことは分かるが、5倍も値段が違うことには疑問を抱いてしまう。


私の偏見かもしれないが、こういうお店は、素人に厳しい。

「この味の良さが分からないのね・・・ふぅ」と言われている気がして苦手だ。

だから、結局は缶コーヒーを買ってしまう。

あの、甘味がコーヒーの良さ台無しにしている、誰でも買える弱者の味方が好きです。結婚して下さい。

勢いで求婚してしまうくらいに今は愛おしい。


何も頼まないのも悪いからとりあえず頼んだブレンドに砂糖をドッサリかけて罪悪感に苛まれていたら、待ち合わせ相手が来てくれた。


高価であろうスーツに身を包んだ清潔感のある男性が私の正面に座る。


「お忙しいところ、時間を作って下さりありがとうございます」


私のような社会の最下層にいる人間にも丁寧に接してくれる丹羽さん。


「とんでもないです。昼間は暇なので。昼間のキャバ嬢なんか何の生産性もないので、丹羽さんが気を使う必要はないです」

「はは。そんなことないでしょう」


爽やかに笑う丹羽さん。

残念ながら冗談ではないのです。昨日なんか、3時間をスマホゲームで溶かしました・・・と言おうとしたけど、話がズレてしまいそうだから自重した。


丹羽さんの分のコーヒーがテーブルに並んだところで、本題に入る。


「まずは、お礼を言わせて下さい。本当にありがとうございます」


深々と頭を下げる丹羽さん。


「やめて下さいやめて下さい!」


どう考えても人間としてのレベルが上の丹羽さんが私なんかに頭を下げられるなんてことはあってはならない。逆ならいくらでもするが。


「いえ。サラさんが思っている以上のことをしてくれました」


頭を上げてくれない。


「あの、とにかく頭を・・・」

「私なりの誠意です」


頭を上げない。


「長いです!もう2分は経ってます!」

「10分は覚悟しております」

「マジでやめて下さい!男が簡単にそんなことすんもんじゃありません!」

「簡単ではないです。他の人にはこんなことしません。サラさんだけです」

「嬉しくないです!・・・あの、丹羽さん、いい加減にしてくれません・・・」

「・・・すみません。途中から楽しくなってきまして」


あー。

この人も面倒くさい人だった。

さては、この人も缶コーヒー愛好家だな?

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