第21話 同伴

キャバクラには『同伴』というシステムがある。

簡単に言うと、出勤前にお客様とショッピングやカフェで話したりしてから一緒にキャバクラに行くサービスのことだ。


私は、この仕事が苦手だ。


いざという時に頼りになる黒服さんがいない環境だし、私には自分を守る術を持っていないから、何かあったら詰みだ。


もちろん、そういうことがないとお店が太鼓判を押したお客様との同伴なのだが、人間一人を完全に理解することはできない。

まあ、この仕事を選んだ時点でそんな心配をする資格はないのかもしれないけど。


そんな苦手な同伴だったが、今日はむしろ楽しみだった。


午後4時50分。

10分前行動をする社会人の見本である自分を褒めてあげながら、待ち合わせ場所である本屋さんに向かう。


「あ、サラさん・・・今日はよろしくお願いします」


お客様を待たせてしまっていた。次は15分前合同を心がけよう。


「なるさん!早いですね」

「えっと・・・今きたところです」

デートの定番セリフを恥ずかしそうに言う。

可愛い。

「はは。そうなんですね。じゃあ、入りましょうか」

\



「お返しに、私にできることだったらやるよ」


詐欺師に頼むことなんかない・・・と突っぱねられるほど私は善人ではなかった。


「あ、じゃあさ。もっと仲良くなりたいお客様と同伴に行きたいんだけど」


お店では毎回30万円以上使ってくれるなるさんは、同伴を一度もしたことがなかった。


「ん?んー。その人の職業は?」

「小説家」

なるさんの情報を伝える。

私欲のためにお客様の話をしてしまう私は、やっぱりプロではないのだろう。


「んー。分かった。1ヶ月ちょうだい」


そう言って席を立ってお店を出た。


・・・あいつ、お金払ってなくない?

詐欺師の分のオムライス代を900円を払った。

\



その甲斐があって、1ヶ月後になるさんから同伴の依頼があった。


どういう手段を使ったのかは一旦置いておこう。

私は、なるさんの1番になるしか、お姉ちゃんと私を救う方法がないんだ。


老後も心配いらないくらいの貯蓄をするんだ。


「あ、これ前になるさんがオススメしてくれた作品と同じ作者さんですね」

「そうですね。新刊出てたんだ・・・」

買い物カゴに単行本を入れるなるさん。

本屋さんで買い物カゴに持っている人初めて見たな・・・。


もうこれで7冊目だ。


これから移動するときに重くならないか聞いてみたら「出版社の人にホテルまで車で運んでもらう」そうだ。


やっぱり、お金がある人は発想が違う。


それからも駄菓子を買っているのかと錯覚しそうになるほど、次々と買い物カゴに本を入れていく。


本の話をしながら歩いていると、アラキタアリスの特集コーナーがあった。


なるさんは、少し早足になり、そのコーナーを通り過ぎようとする。

置いていかれないように、私は一冊の本を慌てて手に取りカゴに入れる。


「これも、お願いしていいてすか?」


『嘘つきピエロ』と印刷された本を一瞬見る。


「・・・つまらないですよ」

「それは、読んでみなくちゃ分からないですよ」

まあ、私は3回読んでるんだけど。


「・・・そうですね」


なるさんは、それだけ言うと別の作家さんの本の物色へと戻っていった。


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