第17話 調子の良い日

「・・・10時?」


仕事がある日に、こんな時間に起きれたのは、いつぶりだろう。

昨日は、午前6時に寝たから、4時間は寝たのか。

いつもだったら、7時間寝ても眠気がしつこく残っていているのだけど、今は目がしっかり開ける。


早起きとか言ったら、朝方の人達に怒られる時間だけど、なんだか得した気分だった。


久しぶりに、朝ごはんとか食べちゃおうかなーと冷蔵庫を見る。

ヨーグルトがあったので、それを食べる。


食べながら、髪を触ってみたが、長くはなっていない。


まあ、昨日の今日で効果は出なくても仕方ない。


夕食後に一錠。

1日に何回も飲まなくてはならないパターンじゃなくてよかった。絶対に忘れちゃうから。


さて、せっかく早起きできたんだから、なんかしよう。

自由時間ができたことに、思考がポジティブになっている。


プライベートでは、基本的に家を出ないで過ごしている私だけど、今日は外に出てみようと思った。

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平日の昼間の商店街は、人が少なくて歩きやすい。


最近、キャッチを厳しく取り締まるようになったからか、安心して歩くことができた。


ラーメン屋さんで昼食を食べた。

ラーメンは美味しかったけど、セルフサービスのお茶のクセが強かったな。薬味?と言えばいいのか、私のような味に鈍感な人間には良さが分からなかった。


仕事までには、まだたくさんの時間がある。


映画でも観るかと思っていたら、行列を見つける。

ここは、何のお店だっけ?


ご高齢の方が多い。

視線を看板に向けると、『落語寄席』と、渋い習字で書かれていた。


そうだった。池袋には落語を聞けるところがあるのだった。


私の落語の知識は、小さい頃に見ていた『笑点』の人達が、落語家らしいということくらい。あの人たの大喜利はたくさん見ていたが、『落語』をしているのは見たことはない。


いつもだったら、新しい世界に飛び込む勇気を振り絞るのに時間がかかるが、今日はすぐに並ぶ決心をすることができた。

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格好いい。

終わった頃に、そう思っていた。


こちらの知識不足で全ては理解できなかったが、さすが「噺家」と名乗るだけはある。結局は引き込まれてしまった。


1人で喋るだけの演芸。


シンプルだからこそ逃げ場がないところで戦っている彼らは、本当に格好良かった。


同じ「お客様を楽しませる」仕事をしている身としては、尊敬するしかない。


自分とは雲泥の差だなぁとも思ったが、私は私のやり方でお客様を楽しませたい。


私は、軽い足取りで、職場に向かうために駅に向かう。

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