第15話 夢診断とかはいらない
「簡単なカウンセリングを受けて頂きます」
カウンセリング。
またも、嫌な記憶が呼び起こされるワード。
かつて、心理学をかじっただけのド素人に無理矢理カウンセリングをされたことがある。
勝手に私の心の状況を決めつけてきたあの男は、今、何をしているだろう?
不幸になっているといいけど、きっと楽しくやっているのだろう。
悔しいことに、馬鹿は基本的に楽しめるのだ。
閑話休題。
問診票を渡される。
たくさんの問いがあり、これに全て答えるのかと気が遠くなったが、こうした容姿は全て埋めなくてはならないという脅迫にも似た感情に従い、一つ一つ丁寧に答えた。
中には、問いの意味が分からないものもあった。
例えば、『電車にはどれくらいの頻度で乗りますか?』や『夏にサンダルは履きますか?』とかだ。
私は『週5』・『履かない』と答えた。
全ての欄を埋めて、受付の人に提出する。
ふと、待合室を見渡すと、10人ほどの女性がいる。
年齢・タイプは異なっていたが、髪が短いことは共通していた。
他人の顔をジロジロ見る趣味はないので、顔を伏せた。
たまに『趣味は人間観察です』とか言う痛い人がいるけど、観察される側からしたらたまったものではない。
『あの人は、フラれたばかりと見た』じゃねーよ。見るなよ、気持ち悪い。
病院の待ち時間は、気が滅入るものだ。
私達が呼ばれるのは何分後だろう?
先客が10人で、診察室は3つしかない。これは1時間は覚悟しておくべきか。
ソファに深くもたれかかる。フカフカな座り心地で、眠気を感じる。
基本的に寝不足な私は、久しぶりの眠気に身を任せて、思考を放棄した。
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夢を夢として認識できるのを、なんて言ったっけ?
なんか、格好いい名前だった気がするけど、忘れてしまった。
夢から覚めたら調べてみよう。
「景、そこの絵の具取って」
「はい」
私がかつて通っていた高校の文化祭準備・・・って感じか。
なんで、今になってこんな夢を見るのかは、学がない私には分からない。
教室の床に座って、お化け屋敷の看板を描いているこの子は、田島さんだ。
何かと私を助けてくれた、親切な人。
学級委員で、成績も運動神経も良かったけど、あまり評判は良くなかった。
特に、大人数でおとなしい子を威嚇している派手目な子に目をつけられていた。
「絶対にウチラノコト下に見てる」らしい。
私は「そうなの?なんか言われた?」と聞いてみたが、具体的な話は出てこず、ひたすら「感じが悪い」という意味の悪口が続く。
たぶん、自信のなさから、変な嫉妬をしてしまっていたのだと思う。
日々、色々な経験を積んでいる田島さんと自分を無意識に比較してしまって、気付いたのだろう。
自分は、まだ何もしていないと。
学校帰りにファミレスに寄って騒ぐことは、何かをしたことには含まれない。
「そういう思い出が勉強よりも大切なんだよ」と、無責任な大人が言っているのを本気で信じられるほど、彼女達はピュアではなかった。
このまま大人になって大丈夫かと、必死で考えないようにしていることを、田島さんを見ると思い出してしまう。
・・・考えすぎかな?
まあ、当時の私はそう理解していた。
当の田島さんは、周りの面倒な嫉妬なんて知ったことではないようで、自分のやるべきことをこなすだけだった。
淡々とポスターに色を塗る田島さんの姿は、なるさんと似ていることに気づいた。
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