第14話 お嬢様
池袋から新宿。
私の活動範囲はこんなものだ。
それよりも遠出するのは、お姉ちゃんに連れられて旅行に行くくらいしかない。
『秋葉原』
有名だけど、一度も降りたことのない駅で降りる。
知らない土地は20歳を過ぎても緊張するもので、軽い吐き気を催す。
「サラちゃん、大丈夫?その辺の喫茶店で休もうか?」
「うん・・・」
先輩に敬語を使う余裕もなかったから、秋葉原で言う喫茶店というものが、どんなものを指すかを考える余裕もなかった。
「おかえりなさいませ!お嬢様!」
確かに私はお嬢だ。キャバ嬢だ。
しかし、この場合のお嬢様は、給仕を受ける側のお嬢様だ。
連れてきたナナさんは、勝手知ったる様子でメイトさんとコミュニケーションをとる。
「お久しぶりのご帰宅ですね!今日は初めてのお嬢様を連れてきてくださったんですか?」
「うん。サラちゃんっていうの」
「サラさん!可愛らしいお名前ですね!」
こっちに会話のボールが飛んできた。
「え、えへへ。ありがとうございます」
めちゃくちゃキモい感じになってしまった。
なるさんみたいに可愛らしい笑顔には絶対になっていない。
席への案内が終わり、手を振りながら、飛び切りの笑顔で去っていくメイドさん。
私は、変わらずキモい顔をしていると自覚しながら手を振りかえす。
「良かった。サラちゃんは気に入ってくれると思ったんだ」
気に入ったのだろうか?
確かなのは、不快ではないということ。
「サラちゃんってさ、女の子の方が好きでしょ?」
「そっすねー」
リアクションを取りすぎるのも、取らなすぎるのも弱みを握られる気がしてのこの返事だ。
決して、先輩に喧嘩を売っているわけではない。
ナナさんは、笑いながら「そっかー。同じだねー」と言う。
2人は、おそらく同じ女性を思い浮かべている。
でも、本気で恋仲になれるなんて微塵も思ってなくて、少しでも深い仲になりたいと願っている、恋愛もののドラマだったら負けヒロイン確定の面倒な女。
負けることが決まっているから、こうして2人で行動することができている。
あまり、変な雰囲気を長いこと流すのもお店の迷惑なので、ナナさんにおすすめメニューを聞く。
「オムライス!メイドさんがキュンしてくれるよ!」
キュンというのが分からなかったが、きっと素敵なサービスなのだろう。
「じゃあ、それで」
本当に好きな人には振り向いてもらえない女2人は、その後、たくさんメイドさんにチヤホヤしてもらいましたとさ。
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