第10話 嘘つきピエロ

昼間1時。


いつもだったら、ダラダラ遅めのお昼ご飯の準備をしている時間だったが、私は布団の上で、なるさんの小説1作目『嘘つきピエロ』を再読していた。

よくある設定だし、キャラクターが強いわけでもないけど、読んでいてストレスにならない文体だ。


「・・・やっぱり、好きだなぁ」


家ならではの独り言を呟いてから一度本を閉じて、冷蔵庫のエナジードリンクを飲む。

本日2本目だけど、昨日は1本で抑えたからセーフだろうと自分に言い訳をして一気に飲み干す。


「うあぁぁぁ・・・」


空き缶を台所に置きっぱなしにして布団に戻る。

布団の周りにも空き缶や読みかけの漫画、メモ用紙が散らばっている。


掃除しなきゃなぁ。


2ヶ月くらい前からそう思ってはいるが、行動に起こせていない。


お姉ちゃんと祖父母と住んでいた頃は、嫌われたくない人が3人家に居たから、自分のテリトリーの場所はこまめに掃除していた。


でも、一人暮らしした途端にこれだ。

自分はもっとしっかりした人間だと思っていたので、ちょっとした自己嫌悪もあったけど、誰からも注意されない環境に居心地の良さも感じてしまっている。


独身が長引くコースに入っちゃってるなぁと思いつつ、だらしない生活してを続けている。


布団の上で胡座を描き『嘘つきピエロ』を読み進める。


さすがに20歳を過ぎてからは、小説を読んで「これは、私のことを書いている」と感じることはなくなったが、主人公の女の子に共感はできる。


自分を曝け出せる唯一の男の子に異常なまでの愛情を注げるシーンに、軽く笑う。


夕方頃に読み終わり、仕事用の化粧をする。


お姉ちゃんからは、「景ちゃんは薄い化粧の方が似合うよ」と言っているけど、キャバクラで浮かない少しケバケバしい化粧をする。


化粧をしていない綾川景の時に外を歩くと、避けられるスペースがあってもぶつかられることが多い。

要するに、舐められている。


しかし、キャバ嬢のサラで歩くと、チラチラ見られることはあっても、ぶつかられることは極端に減る。


私にとって、化粧とは武装だ。


こんなにシンプルな違いがあることが、なんだか面白い。


多様性を認めていこうとか、ご立派なことを謳っている社会が、結局は見た目で判断している。

東京のど真ん中でこのザマなんだ。日本のどこに行ってもそうだろう。


だったら、自分が女性だってことを評価される間は、利用させてもらう。


綾川景からサラに変わる儀式を終えて、鏡を見る。


『嘘つきピエロ』


さっきまで読んでいた小説のタイトルが頭に浮かぶ。


ここで悲しい気持ちになるピュアさは両親が消えた時には既に失われている。


さて、今日も仕事だ。



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