第6話 お友達

「昨日のなるさん格好良かったね!」


そう話しかけてきたのは、昨日お客様にブス認定された美人さんのナナさん。


「そうですね」


控え室での過ごし方にはいつも迷う。

5人くらいで会話するのが正解なんだろうな、私は3人以上の会話が苦手だ。


いざ仕事になればこなせるけど、同年代の人と話す時には、自分が変なことを言わないように頭の中で発言を添削している間に話はどんどん進んでしまう。


だから、昔から「無口な人」っいう印象が強いようで、友達ができづらい。


なるさんが私しか指名しない理由は、似たような事情があるのかもしれない。


そんな私によく声をかけてくれる優しい人が、このナナさんだ。


「ちょっとヤバい人なのかもって思ってたけど、ああいう時に人のために動けるんだから、きっと良い人だね!」


「そうですね。喋ってる感じ、とても穏やかで可愛らしい人ですよ」


なるさんが褒められていると私まで嬉しくなる。


「そうなんだ。顔もよく見ると整ってるもんね」


ナナさんは、少しの間を置いてこう言った。


「サラちゃん。お願いがあるんだけど、ちょっと聞いてもらっても良い?」


なんだか面倒ごとに巻き込まれそうな切り出しだったけど、いつもお世話になってるナナさんに「ダメです」とは言えなかった。


「昨日、助けてもらったお礼を言えなかったんだよね・・・なるさんがサラちゃん以外の人と話すのが苦手だってことは分かってるんだけど、次きた時、お礼だけでもしにそっちのテーブルに行っていいかな?」


メチャクチャ真面目なお願いだった。


面倒だとか思った自分に自己嫌悪しながら、「もちろんです」と答える。


なるさんとナナさん。

どっちも好きな2人だけど、近いうちに直接会うことを考えると、なんだか不思議な気持ちになった。

\



「先週は大変助かりました。何か、私にできることはないでしょうか?」


「と、とんでもない!私があれにムカついて勝手にやったことですから!」


首をブンブン横に振るなるさん。


大人数で来られたら怖がってしまうが、喋ったことない人でも、ちゃんと用事があって、ちゃんと話せば真摯に向き合ってくれるようだ。


ナナさんが何故か王子様キャラになっていたのには、少し笑いそうになったが、おそらく、感謝を最大限に伝えようとした結果なのだろう。笑っては失礼だ。


「なんて謙虚な方だ。私とお友達になっては頂けませんか?」


「え!えっと・・・」


真っ赤な顔で私を見る。

いや、見られても困る。

困った結果、とりあえず笑ってみた。


それをGOと受け取ったのか、「わ、私なんかでよければ」と、か細い声を出した。


ナナさんが喜んでいたが、ヘルプに呼ばれたため、別のテーブルに行かなくてはならなくなった。


「すみません!また後で!」


普段の快活な口調で戻って、去っていった。


なるさんを見ると、まだほんのり顔が赤い。

その赤い顔を元に戻したい衝動に駆られた。


「サ、サラさん、どうひました」

「はい?」

「いや、なんへ私のほっぺをつまむんふか?」

「なんとなくでーす」


なるさんのほっぺは子供みたいに柔らかかったので、つまんでいるうちに楽しくなってきた。冗談にしてはちょっと長い時間が流れる。


「え、ええふふふ」


困惑していたなるさんが笑い出してからは、私もなんだかおかしくなってきて、ケラケラ笑いながらつまみ続けた。

\



「あれはダメ」

「はい」

閉店後、しっかりオーナーに怒られましたとさ。



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