忠告
「ふふっ。そうです、その空良木雄星。彼は私の祖父になります」
「とんでもない人を祖父に持ったもんだな。ってことは、あれか。資金源はダンジョン教か。……ま、あいつらなら神剣に金出すか。なんせダンジョンに神がいるって信じてる教団だ。実際神を名乗るヤツがいたんだから、そりゃな」
世界各地にある高難易度ダンジョンに神器が1つずつあるとすれば、日本では神剣以外にないということになる。ダンジョン教自体にダンジョンを攻略する力がないのだとしたら、これを逃した場合一生手にすることはできないかもしれないからな。
まぁ、ダンジョン教はダンジョン教で結構面倒な連中みたいだが。今のところ実害がないから放置している。
「そういうことになります。神剣を購入したいと言ったら快く資金を預けてくださいました」
「つまり、あなたもダンジョン教の一員ってわけか」
「いいえ。私の立場としては、一応教祖様の秘書がありますが。ダンジョンや神を信奉しているわけではありません」
「へぇ? じゃあなんでそうまでして神剣を買ったんだ? 教団で飾るためか? それともお爺ちゃんへの誕生日プレゼントか?」
「ふふ、それも面白そうですが。もちろん、私が使うためですよ」
案外まともな理由だった。……これが本当だとしたら、今回のオークションで唯一ちゃんとした理由で買いに来た参加者ということになるが。
「あなた剣士なの?」
「ええ、まぁ。私は……そうですね。一応魔法剣士の部類でしょうか。様々なことができる才を持って生まれ、努力を重ねてきましたから」
ようやく、彼女の誇りが見えた。
俺達も、第二陣パーティの人達も、他の上位探索者も。皆なにかしらの誇りがある。これだけは誰にも負けないという誇りが。
「ふぅん、そう。なら存分に使ってあげて。発見したあたし達が扱う気ないんだから、ちょっと可哀想と言うか。宝の持ち腐れだったし」
「はい。神剣を扱えるように精進します」
無名の探索者でありながら、加護なしなら俺達と同等レベルの探索者。それも様々なことができると言ったので、手札も多いだろう。なんなら俺や凪咲よりもずっと。
「話は変わりますが、皆様にご忠告と言いますか、お伝えしたいことがありまして。本日は警備にいらっしゃるとお聞きしていたのでついでにお伝えしておきます」
彼女はそう言って話題を変えた。
「忠告?」
「はい。ダンジョン教の過激派と呼ばれる派閥が、あなた方に弓引くことを計画しているようでして。一体なにを企んでいるのか、詳細まではわかりませんが。……第二陣パーティの富士山のダンジョン挑戦中に、事を起こすつもりのようです」
どうやら厄介事のようだ。
「ダンジョン教が? そこまでわかってるなら、事前に止めてくれてもいいんじゃねぇか?」
「おや。その必要がありますか? あなた方をどうこうできる存在など、およそ存在しないでしょうに」
彼女は飄々と言った。
「第二陣挑戦中というのが気になりますねぇ。あの子達がいない時を狙うのはなぜでしょうか?」
「さぁ、私にもそこまでは。ただ、過激派は宝玉というモノを使って真なる神の力を見せつける……などと言っていたようですから。深い考えはなく、単純に加護を持っているあなた方となにかを戦わせるために、戦力が分散している隙を狙おうというつもりなのでしょう」
「真なる神って……。それと会えないからダンジョン教がうだうだ言ってるんでしょ? 意味がわからないわ」
気になる話ではあるが。俺としては、ダンジョン教より宝玉とやらが気になるな。そんなアイテムが存在しているのか。流石にここまで来てブラフということはないだろうが。
「んで? あんたはそのダンジョン教に金を出してもらって神剣買ったんだろ? なんでダンジョン教の企みをバラすような真似をする?」
「皆様もご存知かもしれませんが、ダンジョン教は少し前、あなた方が富士山のダンジョンを攻略するまでは完全に落ち目でした。士気も低く、活躍したという話も今は昔の話。ダンジョン教内には派閥がありますが、各派閥のトップもあまり有能な人物とは言えません。反して、皆様は今後世界を左右する力を持った方々。どちらについた方が賢明かは……考えるまでもないことです」
身内の団体だというのに、あっさり切り捨ててしまうらしい。空良木雄星がどう思っているかはわからないが、この話振りからするに各派閥がそれぞれ動いているような感じか。教祖であるはずの彼の思惑が全然見えてこない。あるいは、あえてそういう話し方をしているのか。
「ですので、これを機に資金を使い果たした上で失態を犯していただき、終わりにしてしまおうかと思いまして」
彼女はにっこりと微笑んだ。
礼儀正しく、容赦のないことを言うモノだ。
「その尻拭いがオレ達ってのは気に食わねぇが。ま、なにが来ても対処するだけか」
「面倒なことにならないといいけど」
「なることは確定してますよねぇ」
「ふふふ、ご武運を」
どうにも狙いが読めない人だが、まぁ俺達と顔を合わせたいのは目的の1つではあるのだろう。そして身内の情報を漏らすことである程度の信用を得ると。考えられた立ち回りだな。
「そういえば、あなた名前は? 祖父の話ばっかりで聞いてなかったわね」
「あぁ、そうでしたね。申し遅れました。私は紅葉と申します。深層のソロ攻略を基本に活動している探索者、というのが生業になりますね」
本人の名前すら聞くのを忘れていたとは。彼女の祖父の話でかなり話し込んでしまった。それだけ空良木雄星という男は、なんというか。稀有な人物ということだ。
「こっちは……改めての自己紹介はいらねぇか」
「ええ、もちろんです。以後お見知りおきを。皆様に私の顔を覚えていただければ、オークションに参加した甲斐もあるというモノです」
恭しくお辞儀しているが、本当に読めない人。腹の内を明かされていないような、そんな気がする。いや、少しだけ彼女のことがわかるようにはしているが。
「……これからは個人的なお話になるのですが、村正様」
顔を上げた紅葉さんは、真っ直ぐに俺を見据えていた。
これまで会話に参加せずただ聞くだけにしていたが、まさか鍛冶の依頼だろうか。
「なんだ?」
仕方なく、正面から彼女に向き合うことにした。
「――私と、結婚していただけませんか?」
「……は?」
一瞬、なにを言われたかわからなかった。
呆然と返した直後、傍らから刃が振り抜かれた――。
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