落札者

 リモート参加の富豪達はホログラムが消えて去った。


 残されたのは俺達と現地に来ている2人、そして司会だけだ。


「では7番の方、こちらへ。神剣をお渡しいたします」


 司会に言われて、7番の女性が壇上へ上がる。飾られていた神剣が渡された。


「本物をこの場に飾るとは、大胆なことをされましたね」


 彼女は仄かに笑って言った。


「はい。この会場は、世界で最も厳重な警備がされた場所ですから」

「そのようです」


 俺達のことを言っていて、それを彼女もわかっているのだろう。ただの雑談だ。


空良木かららぎさん。神剣は……やはりご自身で武器として使うのですか?」


 神剣を異次元格納ポーチへ収納した彼女に、司会が尋ねた。オークションでは他の参加者と同じように扱っていたが、彼女が探索者だからだろう。様づけしていなかった。


「ええ、そのつもりです。『世界を背負う者』になるという自覚はありませんが」

「そちらについては、置いておくしかないでしょう。ともあれ、あなたが落札してくださったおかげで一先ず神剣が飾られるだけの存在にはならなさそうです」

「それはなによりです。ですが、神剣などなくとも世界をどうにかすることはできるでしょう」

「えっ?」


 彼女はこちらを振り向いた。


「少なくとも、彼らはそのつもりのようですから」


 明らかに俺達を意識しての発言だ。無論、俺も神剣が完全に人の手では造れない代物だと思っていないところはある。

 ただ俺が造りたいのはあくまで神剣そのモノではなく、神剣に匹敵する武器だ。いくら特殊能力を付与するのが得意と言っても、『世界を背負う者』は再現できないと思う。神器にそういった能力が必ずついてくるのだとしたら、そのモノは造れない。だがなくても、あいつらには世界を背負うだけの力はあると思っている。


 そういうことを言っているのだろう。


「そう、ですね。では私はこれで。皆様も、ご自由に退出してくださって大丈夫です。本日はご足労いただきありがとうございました」


 司会の人はまだ仕事があるのか、俺達に声をかけた後に会場を出てしまった。

 もしかしたら、彼女の俺達と話したい空気を感じ取ったのかもしれない。


 俺達は配置していた場所から出入り口のある壇上近くまで歩き、集合する。必然彼女とも近い位置だ。


「こんにちは、“最初の6人”の皆様」


 そして神剣を落札した彼女が、集まった俺達に声をかけてくる。

 微笑みを湛えて、綺麗にお辞儀した。スーツ姿も相俟って様になっている。


「神剣落札おめでとう。まさか飛び入り参加であれだけの資金を用意してるとは思ってもいなかったわ。それも、あたし達と同年代くらいなのに」


 コミュ力の高い凪咲が真っ先に返す。


「ふふ、ありがとうございます。ですが、実は私だけで集めた資金ではありませんので。祖父の保有する団体の力を借りまして。……空良木雄星ゆうせいをご存知でしょうか?」


 彼女は微笑みを湛えたまま話を続ける。……空良木雄星、か。色んな話を聞く人物だな。というかまだ爺さんいるんだが話してもいいことなのだろうか。爺さんは多分、彼女が出ていくのを待っているのだろうが。


「空良木雄星って……、あの?」


 凪咲は複雑な表情をした。

 牙呂も似たような顔をしていて、桃音は苦笑、奏は相変わらず興味なさそうだったが。


「はい。ご存知なら良かったです」

「ご存知って言うか、ねぇ?」


 凪咲は微妙な表情をしたまま牙呂の方を向いた。


「ああ。ぶっちゃけ、知らない人はいないんじゃねぇかっていう人物だ。学生くらい若いと知らないヤツはいるかもしれないけどな」

「そうそう。例えば、日本初の探索者育成学校での、1番最初の2人しかいない成功例の内1人だとか。当時ではデストロイ・メテオを使える数少ない人物で、魔法剣士として大成した世界で5本指に入る実力者……だったっけ」

「だな。魔法でも世界レベルの上、剣士としても結構いけてた。当時のダンジョン出現初期の時代じゃ、両刀使いってのは珍しい部類だったしな。んで、聞いた話じゃ100人の妻を持って孫もたくさんいるとか……。あんたもその1人ってわけか」

「日本で重婚を認めさせるために、あらゆる伝手を使って法律を変えさせたそうですよねぇ。強さだけじゃなくて、コネクションを築く方向にも力を入れていたみたいですねぇ」

「ま、今も世界で結構な勢力を誇るダンジョン教の教祖様だしね。上手いことやってるわ、ホント」


 3人の話で結構な情報が出てきた。

 今から50年前くらいの話。ダンジョンが出現して魔力が発現した。平和で戦う術を持たない人達がダンジョンに挑戦しても殺されるしかない。そこで逸早く戦う術を見出した人達が探索者管理協会を設立。数あるダンジョンを攻略していくには未来ある若者を育成する必要があるとして、試験的に探索者育成学校を設立したのだ。

 そこで最初に有名になったのが、2人いる。その内の1人が空良木雄星という男だ。

 彼は世界屈指の強さを誇る魔法剣士で、ダンジョンの深層にも挑戦できる当時数少ない探索者だった。探索者として稼ぎながら媚びを売ってくるヤツとのコネクションを築いていき、ダンジョン教を設立して一躍有名になった、と。

 有名になった後で日本で重婚を認めさせるためにコネクションを費やして法律を変えさせた。直後にハワイだかで数十人の女性と盛大な結婚式を挙げたとかなんとか。


「? 検索してみましたが、人物名は出てきますが写真などはないようですね」


 ロアが言うと、凪咲が苦笑した。


「そ。そんな色々やらかしてる人物なのに、一切表舞台には出てきてないの。そういう人物がいるという話題はあるのに、本人は決して姿を現さない。当時の魔法レベルでは難しい無詠唱テレポートまで使えたんじゃないかって言われるくらい見つからなかった人物でもあるの」

「一応学生時代の写真っぽいのはいくつかあるんだけどな。一時は架空の人物なんじゃねぇかって噂が出回ってたくらいらしい。実在してるのに身バレ防止半端ねぇみたいなんだよなぁ。あまりの経歴と活動内容のイカレ具合に、メディアへの露出とかがねぇのにまとめサイトが出来上がったくらいだからな」

「一部じゃハーレム作るために活動してるーなんてバカな噂があったくらいだしね」

「ああ。ホント、聞いた話じゃバカなのか天才なのか。稀代の変人にして傑物とも言われてんな」


 身内の前でよくもまぁ好き勝手言えるモノだ。……彼女もくすくすと笑っているから、怒ってはいないのだろうが。

 まぁ、色々言ってはいるが貶してはないしな。


 やってきたことがおかしすぎて、バカと天才は紙一重という言葉がぴったり当て嵌まるといった印象だ。もちろん、あることないこと囁かれている可能性はあるが。

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