模擬ボス戦後
模擬戦が終わったので『夜叉』を解除して、戦闘態勢を解いた彼らに近づいていく。
「あーもう! 村正君強すぎだよー」
フラメルさんは地面に座り込んで言った。
「いやホント、出鱈目な強さですね」
「加護の相手って深層ボスとかだから力の差がわかりにくかった」
ナタ君とハルちゃんも座り込む。
「クソッ……!」
神狩さんは悔し気にどかっと腰を下ろした。彼女が一番消耗してそうだ。息も乱れている。
「はぁ、もう。随分と痛かったわ」
甘奈さんは悔しさよりも最後に受けた攻撃の痛みが気になるようだ。
「最後の武器、カッコ良かった……!」
「わかります! 禍々しさと神々しさが同居していて素晴らしかったですよね!」
マオーさんと虎徹ちゃんが意気投合していた。
「ふぅ」
夜鞠さんは息を吐いてぺたんと座り込む。強化と回復での補助しかしていないが、これまでほぼ彼らが怪我することはなかったと思うので、いい練習になったんじゃないだろうか。
“お疲れ”
“加護ありと加護なしの力の差がよくわかる模擬戦だった”
“あれでも造った武器使ってないから、『夜叉』の能力を最大限すら使ってないという”
“こりゃ『韋駄天』も甘く見れないな”
「概ね、第二陣パーティの成長具合も見れて良かったんじゃないか?」
助言を頼まれたわけではないが、一応言っておく。
「含みのある言い方だね」
「ああ。だって、最後の一撃くらいの威力なら最奥のボスはやってくるぞ」
フラメルさんの苦笑に応えると、全員が黙り込んだ。
“5人が一瞬で灰になったヤツか……”
“確かにあれはヤバかった”
“桃音ちゃんがいたからこそ耐えられた? というか耐えられてないわけで”
「もちろん、対処法はいくつかあると思ってる。俺達がやったことをなぞる必要はないわけだし、回復力を補うための防具でもある。下層で否応なしに成長が求められるわけだから、最奥に辿り着く頃には今とは違った手段も取れるようになってるだろうが」
「忠告、有り難く受け取っておくよ。今の段階で取れる手段は考えてあるけど、それでも完璧とは言えないからね」
ダンジョン挑戦中の成長という不確定要素に全てを委ねる気はないということか。しっかりしている。
「ああ。いらないって言われたから教えてないが、富士山のダンジョンには色んな仕様があるからな。どうやって乗り越えるのか、楽しみにしてる」
「他人事だからって……」
“色々試してるのねw”
“流石、世界で一番攻略が進んでるパーティ”
“富士山のダンジョンの素材を狩り尽くす勢いか”
“ダンジョンの素材は枯れないから何度でも挑んでインフレ進めるゾ”
俺達は何度も行っているから、わかったことも色々とあった。
初挑戦時には苦戦を強いられた、下層ボス戦。分断された後のボス戦ラッシュみたいな場所。そして最奥にいる神力を持つボス。
これらの面白い仕様や攻略法を見つけていた。素材を確保するために深層の探索も結構進めていることだし、富士山のダンジョンに出てくるモンスターの特徴なども知っている。情報が欲しいと言われたら渡す気でいたのだが。
「ま、ボク達も探索者だからね。全てがわかった状態での挑戦より、挑戦の中で発見していくのも醍醐味ってことさ」
フラメルさんは肩を竦めた。俺は素材が欲しい関係で情報を貰うことが多いのだが、本業の探索者は考えが違うらしい。凪咲や牙呂も似たようなことを考えているだろうし、他国の挑戦も観ていないらしい。それならと俺も観ないようにしている。
いつ挑戦しに行くかわからないからな。
と言っても配信しているのはロシアだけで、中国とアメリカはしてないのだが。他の2国は攻略の進捗状況だけ連携していっているような感じだ。
“あえて情報を全部は貰わない感じか”
“未知への探究心ってヤツ?”
“探索者だしな、多少はね”
“平然と検証して回ってるのおかしいけど”
「さてと、これで力の差とかはわかったし対ボス想定の作戦とか色々試してみようかな」
フラメルさんは言って立ち上がる。まだまだやる気のようだ。同じ探索者である俺にあっさり負けたことについては、悔しさもあるだろうが今は甘んじているというところだろうか。
俺達6人でも、戦ったら俺とロアは他の4人に勝てないだろうと思っている。本業が戦闘じゃないので別にいいのだが、彼らも俺より強くなって帰ってくるだろう。
もちろん、攻略し切ることが前提だが。
ともあれ、その後も第二陣パーティと模擬戦を続けた。
俺も俺なりの戦い方だけではボス戦を想定できない可能性があったので、武器効果を使って魔法らしき力を再現してみたり、色んな戦法をやってみたりした。できるだけ多くの手段を使った方が立てた作戦が活きるだろう。
当然、俺はこれから挑むボス達を知っているので模倣することもできるわけで。
模擬戦を繰り返して配信を終える時間となった時。
「最後に宣伝があるから伝えておくね」
フラメルさんが神妙な顔をカメラに向ける。
「――ボク達は2ヶ月後、富士山のダンジョンに挑戦する」
“!?”
“遂に!”
“準備は順調ってことか”
“待ってました!”
コメントが一気に加速していく。
視聴者の全員が待っていたことだからだろう。俺もそういったことは聞いていなかったため、純粋に楽しみである。
「2ヶ月っていうのは、装備品の製作期間の問題だね。実力や作戦については、もうそろそろ挑戦したいなって思えるくらいなんだけど。もちろん今回の模擬戦は大事だったけど、勝てるようになるまでとかそういうのじゃなくて、戦い方の課題を見つけたかったんだよね。声をかけない連携なんかは回数や時間が大事だし」
模擬戦は当然と言えば当然だが、俺の全勝で終わっている。課題も残ってはいるだろうが、道中でどう対処していくか。希少なアイテムや装備を使うことで補強できるのか、手段を用意しているのか。
そういったところは俺の知らないところだ。
「ってことで、挑戦する時は応援よろしくねっ」
フラメルさんは可愛らしくウインクして締めた。
「あ、そうだ。村正君さ、なにか宣伝したいこととか予告したいこととかある? 協力してもらったし、なにかあればどうぞ」
フラメルさんが俺に対して聞いてくる。他人のチャンネルで宣伝したいようなこと、か。
「んー……。俺達で貰ってる案件とかはあるけど、宣伝したいようなことはあんまりないな」
直近のスケジュールしかロアから聞いていないというのもあるが。
と思っていたら目の前にウインドウが出てきた。ロアから提示されたモノだ。内容にさっと目を通して、そういえばこれがあったなと思い出す。
「1つ、俺達が主導じゃないんだがある意味一大イベントがあるな」
“おっ”
“なんだなんだ?”
「探索者管理協会が主催する、神剣オークションが来月開催予定だな」
“!?”
“ファッ!?”
“ん? 今なんて言った?w”
“神剣オークション!?”
気になる単語があったからか、コメントも盛り上がっている。
「えっと、それってまさか……」
「ああ。俺達が富士山のダンジョンで手に入れた神剣を探索者管理協会に受け渡したんだが。流石の協会も値段をつけられないってことで、参加者に声をかけてオークションを開いて、皆に値段をつけてもらおうって話になったんだ。オークションの様子は協会公式チャンネルで公開される予定なので、そちらを確認してください」
“とんでもねぇw”
“参加者限られてそー”
「神剣は最低落札価格5000億からスタートしますので、落札に自信のある方は協会にかけ合ってみてください。今ならまだ間に合うかもしれませんよ」
「いや普通の人は無理でしょ」
「私と同じくらいの金額ですので、用意できる方はいそうですね」
“5000億!?”
“最低←ここ重要”
“富豪に声かけてるんだろうし、落札なんて無理や”
“そっか、ロアちゃんは5681億のAVADAだもんな”
“そう考えるとAVADAって高いんだな”
“そら神剣と違って生活に役立つからな”
“草”
深層を単独で攻略しまくっている探索者は購入できるラインだ。ただ値段が吊り上がっていくことを考えると、流石に届かなくなる気もする。
億の上に行く可能性もあるしな。個人資産でそんな額持っているヤツなんて、ほとんどいないんじゃないだろうか。ダンジョン出現初期にダンジョン素材を売り捌きまくって金儲けした人達は、大分儲けてたらしいが。
「まぁ、神剣がどんな人の手に渡るか……。顔出しとかはしないで行われるみたいですけど、インテリアになるか武器になるか、楽しみな人は是非観てくださいね」
大体の参加者は、戦えない富豪だと聞いている。コレクションにする気なのだと思う。
ただし、何人か戦える人物が混じっているようだ。彼らがどこまで戦えるかはわからないが、少し面白くなりそうではあった。
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