第二陣パーティVS『夜叉』
俺の挑発に、かちんと来た人もいそうだ。
“凶悪な笑み浮かべてら”
“あれ? 性格変わってない?”
“妖刀持った時に近いような気がする”
“平気なのか?”
“危ない力感出てるゾイ”
「挑発に乗っちゃダメだよ。ボクとマオー様で魔法準備、前衛は抑えてて!」
パーティ戦の基本戦法で来るようだ。
パーティで戦う時、大抵の場合前衛よりも魔法使いの方が火力を出せる。詠唱という溜めが必要な分攻撃力が高めになるのだ。もちろん剣や素手で魔法と撃ち合える化け物もいるが、そういうのは除いて。
故にパーティ戦の基本戦法は、前衛がモンスターと戦っている間に魔法使いが強力な魔法の詠唱をして、タイミングを合わせて魔法を放つというモノになっている。
俺達も第二陣もそこまでして戦うほど強い相手がいなかったのだが、今回はそれを想定していた。
「嘗めんじゃねぇぞ!!
神狩さんが真っ先に突っ込んできた。聞いたことのない名前だが、頭部が猪のようであり、脚も変化して蹄がある。蹄は牛とヤギのモノで左右が違う。蛇の尾もあって身体もどうやら別になっているようだ。5種類の組み合わせか。
盾砕きの試験の時よりも数が多い。パワータイプではなく素早い動きが特徴のようで、真正面からと思わせて背後に回り込んできた。俺は振り返って蹴りを腕で受け止める。もう片方の手で足首を掴み、徐にぶん投げた。物凄い勢いで壁まで飛んでいく。
神狩さんが時間を稼いでいる間にナタ君とハルちゃんが到着していた。
双子特有の剣舞が始まり、回避に専念してみる。実際に受けてみるとわかるが、どちらが攻撃してくるか読みにくく、逆に2人は一心同体の攻撃を繰り出している。モンスターも賢ければ混乱するし、対人戦でも強そうだ。
「だが、当たらないな」
俺は回し蹴りをした。咄嗟に回避したのは流石だが、衝撃波で後衛の後ろまで吹っ飛んでいく。
「いきますっ!」
残る前衛は甘奈さんだけか、と思っていたら後衛より前に出ていた虎徹ちゃんが両手でハンマーを振り被っていた。流石に虎徹ちゃんの全力フルスイングを受けたら怪我するだろうか。やってみないとわからないが、今やる必要はないか。
拳を握って振り被り、虎徹ちゃんの攻撃に合わせて突き出し衝撃波を放つ。轟音が衝撃と共にぶつかり合い、相殺した。
“虎徹ちゃんのフルスイングをパンチで相殺!?”
“身体能力の上がり幅エグいって”
“もしかして加護って、能力が多い少ないに関わらずとんでもなく強い?”
“自称神が与えた力ってスゲー!”
“こんなに強くしてなにと戦わせる気なんだw”
「微塵切り」
無数の斬撃が襲ってくる。甘奈さんだ。こちらには近づいてこず、遠距離から斬撃を放ってきていた。流石に最前線に出る気はないのだろう。良くも悪くも、彼女は俺と違って攻撃寄りに過ぎる。俺は即興鍛冶という防御というか、カウンターを持っているが。
爪を立てた片手を振り抜く。斬撃が放たれてぶつかり合い、相殺した。
夜叉、鬼神とは恐ろしいモノで、全身が暴力的でそれこそが武器となり得る。しかし、これでもまだ全力でなく。武器を持った時に本領が発揮される。
身体能力自体は妖刀を持っていた時の上位互換だが、俺の意思で戦えて且つ武器を自在に扱えるというのが大きすぎる。
「皆離れて! ――
甘奈さんの攻撃を迎撃させた後で、おそらくパーティ最大火力であるクロノスワールド・エンドをぶつけてくるか。きちんとパーティ戦ができている。当然、詠唱は聞こえていたので来るとはわかっていたが。
大きな時計が現れ、ヒビが入る。砕け散れば時間魔法と空間魔法、両方が合わさった、歴代最高威力とも言われる魔法を受けることになる。果たして耐えられるか、試してみてもいいが。
俺はそこに右手を突き出した。
「材質――魔法。形状――大剣。構築完了――
時計と空間が砕ける前に、それらを俺の魔力と神力で素材にしてしまう。
出来上がったのは、黒白の大剣だ。神々しい輝きを放っている。流石に神剣レベルとは言わないが、普通に即興鍛冶をするよりも格段に強化できる。これまでの魔力だけでしていた即興鍛冶に神力を加えたのだから、当然性能が上がっていた。
“おいw”
“やっと出てきた最高レベルの魔法を素材にすな!”
“なんか光ってるんやが”
生憎と、これは仕方のないことだ。
元々フラメルさんは魔法の火力という面で凪咲に劣っていた。これは本人も自覚しており、下層のコピーではそこを補ってくるのではないかと本人も予想していた。
だから、例え空間魔法に手を出してクロノスワールド・エンドへと至ったとしても、その威力は凪咲が放ったアレよりも低い。もちろん富士山挑戦前に会得したことは称賛すべきことだ。だがまだ彼は富士山を経ていない。
まだ、あの時の凪咲にも届いていないのだ。
しかしこれは、おそらく彼らも織り込み済み。
「――
マオーさんの最強魔法が放たれた。俺は右手を即興鍛冶で使っており、剣を引き抜いた直後だ。
ただまぁ、もう片方の手が空いている。
俺は左手を突き出した。
「材質――魔法。形状――大剣。構築完了――
そしてそれも即興鍛冶で武器にしてしまう。
相手がマオーさんでもなければ創れる機会もそうない魔法だ。この機会に、勝手に創ってしまおう。
禍々しい光を放つ漆黒の大剣を創り出した。魔王が持っていそうな荘厳な大剣をイメージしてみた。
「ふおおぉぉぉ……!!」
“魔王魔法ですら!?”
“片手ずつでパーティの最高火力魔法を無効化してて草”
“マオー様www”
“敵であるはずのマオー様が目をキラキラさせてて草なんだ”
“フラメルくんは普通に悔しそうな顔してるのにw”
“マオー様は村正の武器がコラボで出てくるって聞いてゲームやるって言ってたくらいファンだし”
“推しが自分のために武器創ってくれたようなもんよ”
“そら喜ぶかw”
「そんなもん、想定内だっての! ――
神狩さんが漆黒のオーラを纏い、オーラで6枚の小さくなっていく翼と尻尾を形成する。頭にドラゴンの頭部のようなオーラを纏った上で肩から同じような頭をしたオーラが出ている。
漆黒をした3つ首のドラゴン。そもそも、ドラゴンが蜥蜴または鰐と蝙蝠の翼を持つ生物だ。ただのドラゴンなら2種類とそう強くないが、頭の数だけ足し算される。3つの首と6枚の翼があるだけで、6種類のかけ合わせだとわかる。
……なるほど。単純なことだが、多頭の竜などは強くなる傾向にあるわけか。となると、まだまだ上はありそうだ。地力や練度を上げれば数に対するラインも上がっていくだろう。
両手が塞がっていれば多少なり隙が出来ると思っての攻撃か。
神狩さんは大幅に強化された身体で拳を振り被り、殴りかかってくる。だが、まだ俺の方が身体能力が高い。振り向き様に蹴りを放って打ち合う。流石に容易く吹っ飛ばせなかったが、打ち合う1秒の間に神狩さんの強化が解除されてしまい、思っていたよりも強く吹き飛ばしてしまった。流石に3種類融合から一気に高めてきたせいか、まだまだ持続時間は少ないようだな。
冷静に分析していたら、頭上から光を感じた。顔を上げると、跳び上がった双子が俺に向けて剣を突き出して突っ込んでくるところだった。
「「双子流星撃!!」」
剣を突き出した恰好のまま回転して加速、威力を跳ね上げる。深層のボスすら一撃で穿つ2人の必殺技とも言える技だが。
俺は少し顔を逸らして、突っ込んでくる2人に合わせて前に振るう。
「「嘘っ!?」」
2人の驚く声が聞こえてきた。
“角で受けた!?”
“妖刀使った時の出鱈目加減が見える見えるw”
“暴走状態だからこそ許された身体能力を村正の意思で操れるの強すぎじゃね?”
コメントでも言われているが、俺は頭に生えた角を、文字通り使ってみた。双子の突きを角で弾いてみたのだ。それができる出鱈目な強化状態だからこそ、力技をやってみたかった。
さて、遊びは終わりにしてトドメを刺すか。
「――融合鍛冶」
即興鍛冶に改良を加えた、新技のお披露目である。
“!?”
“聞いたことない”
“新技お披露目で草”
俺は、両手に持った2本の大剣を合わせるように溶け合わせていく。
「ちょ、それはマズ――」
フラメルさんが慌てていたが、関係ない。まぁ、ボスの大技だと思って受けてくれ。
クロノスワールド・エンドから創った武器と、オーバーロード・レクイエムから創った武器を合わせて1つの武器に昇華させていく。
「構築完了――
出来上がったのは全長2メートルもある巨大な剣。8割方が黒で出来た、白混じりの大剣。禍々しさを湛えつつも神々しい光を放っている。
俺はその柄を両手で握り、横に振り被った。彼らは防御態勢を取っているか避けようと構えているが、不可能だ。
ブゥン、と大剣を振るった。思い切りではない。速くある必要はない。刃が通った直線上がそのまま亀裂になり、割れる。防御はできない。跳んで回避したのは神狩さんとナタ君とハルちゃんだけか。しかし避けただけでは逃れられない。奔った亀裂から禍々しいオーラが広がり、それに触れたモノからヒビ割れていく。最初の亀裂で割れた者も、跳び上がった3人も。
ヒビが入った者は破滅から逃れられない。
パキン、という音と共に全員がバラバラに砕け散った。
“ひっ”
“怖すぎ”
“あれだけ懐いてる虎徹ちゃんすらバラバラにする村正エグいて”
血塗れのバラバラ死体が映る放送事故な光景だが、次の瞬間には全員が漏れなく完治していた。こういう時のために桃音を呼んでいたわけだしな。
これで終わりだ。一旦『夜叉』を解除した。
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