『夜叉』との戯れ
今日はフラメルさんのチャンネルにお呼ばれしていた。
ロアと2人、協会が用意した部屋を訪れると第二陣パーティの面々が来ている。あと桃音。回復役だ。
他の4人以外のチャンネルにお邪魔することは初めてだった。
「皆、お待たせ! 今日も可愛いフラメルさんだよ」
カメラに向かってウインクをかます。まぁ同性とは思えないくらい可愛いのは間違いないのだが、自分で言ってのけるところに可愛さへの自信が窺えた。
“きちゃ”
“第二陣プラスマサロア桃とかいう謎面子”
“装備品のお試し?”
配信タイトルは「【お試し】お願い! 村正君!!」だ。一体なんことやらわからない。
一応企画説明は受けているので俺達は知っているのだが。
「さてさて、本題が気になってるだろうから早速始めちゃおう! 今日はゲストに村正君をお招きして、試したいことがあるんだよね」
フラメルさんが進行していく。
配信前の雰囲気を見ていたが、パーティの空気は悪くなさそうだ。俺としてはナタ君が半分くらい男1人みたいな感じなので肩身の狭い思いをしそうだと思っていたのだが。そんなことはなさそうで安心した。
「で、その試したいことっていうのが、ボク達のパーティ戦の練度なんだよね。深層のボスくらいじゃなかなかパーティ戦にならないし、少しずつ試していくしかできなくて。渋谷で1体残して倒し続けるくらいしないとね」
彼は言った。
それは以前の俺達にも言えることで、ソロ攻略ですら余裕になると縛りを設けるしかなくなる。若しくは未だ踏破されていないダンジョンに挑むか。とはいえどちらも微妙だ。富士山のダンジョンレベルなら兎も角、他のダンジョンで彼らがパーティを組むほどの敵は存在しないだろう。
「そこでボク達は考えたわけ! 先に攻略して神力を得た“最初の6人”ならボス戦想定で戦えるんじゃないかって」
“なるほど!”
“つまり今日は村正君とロアちゃんがボス代わりに戦ってくれると”
“加護はかなりヤバいみたいだからそれだけ差が出てるって考えたのね”
そこで彼らは、俺達加護持ちと戦うことを思いついた。加護を授かったことで俺達の強さは飛躍的に上がり、富士山のダンジョンボスと1人でも戦いになるくらいには強くなっていた。数人で行ってソロ討伐とかもしているくらいなので異常な強さだと思う。
「相手は村正君。加護をお披露目してないのって牙呂君と村正君だけだし、牙呂君の速さに対抗する術がないからね。本気でかかってこられたら勝ち目が薄いっていうのもある」
「そういうことです。俺は元々戦闘が本職じゃないので、戦う能力が手に入ったところで他の4人よりは戦いやすいというわけですね」
ロアの『デウス・エクス・マキナ』は加護としてはかなりの強さと思われるため、やりにくいだろう。
対する俺は膂力上昇、武器の扱いが上手くなるという2つの能力しかない。シンプルだ。
“村正君1人で7人を相手にするってこと?”
“そんなに差があるのか……”
“他の加護を見た感じあり得なくもないかも”
「ルールとしては、こっちは壊れてもいい装備……本番前に最強装備を壊されたら困るからね。村正君は加護も神力もなんでもあり。どんな武器でも使っていいってことで」
準備を進めている中で最強の装備品をここに使うのは勿体ない。万一にも壊れたら準備が無駄になってしまう。
というわけで今回の装備は俺と虎徹ちゃんがそこそこで造ったモノである。本気装備ではないくらいの出来かな。
「ということで、先に『夜叉』の説明お願いね」
「ああ。と言っても最初に言った通り、身体能力が上がって武器の扱いが上手くなる。『夜叉』についてはこの2つだけだ」
本当に。凪咲やロアのような幅広い戦法も、桃音のような特殊能力もない。
「その代わり、身体能力の上がり幅が大きい。ただそれだけの能力だよ」
“控えめな加護、と思いたいが”
“代わりの上がり幅がどんなモノかによるな”
「多分いいボス戦想定になるだろうから、全力で叩きのめしてあげるよ」
フラメルさんがにっこりと言った。言葉にはされないが、どうやら虎徹ちゃんの攻撃を受けさせたことを根に持っているらしい。
……はてさて、そう簡単に行けばいいんだがな。
「開始と同時に双方強化や準備をする。そしてボク達から攻撃。いいね?」
「ああ。そういう話だったからな」
ボスが先制攻撃を仕かけてくることは珍しい。受けて立つ構えのモンスターも多いのだ。人型は攻撃してくることが多いような気がするが。
「じゃあ開始といこうか」
フラメルさんが言って各自武器を持ち強化を施していく。
特に夜鞠さんの全体強化が結構強く、今の段階でも充分な脅威だ。全員が戦えるというのもあるが、総合力は俺達より上という評価も間違ってはいない。
「――『夜叉』」
ただボスはボスらしく、今回については蹂躙させていただこうと思う。
額に生える赤い角が2本。瞳の光彩は赤く、瞳孔は黒く。爪が黒く染まって鋭く伸びる。服の下で黒い墨のような紋様が描かれるのだが、今は関係ないか。
全く以って残念なことに、妖刀を持った時の変化とほとんど同じだった。
“妖刀使った時と同じじゃん”
“変身が既存の使い回し、だと……?”
“また鬼化が見れるとは”
俺は嗤って手招きする。
「かかってこいよ。相手してやる」
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