豊穣の神が如き②
渋谷のダンジョン深層を突き進む桃音。
「えぇっとぉ、実は3つ目で能力は終わりなんですよねぇ」
言いながら、歩いてモンスターに近づいていく。気づかれて迫ってきた。
「なので、また攻撃を受けますよぉ」
“3つだけなの?”
“少ないような……?”
“『ソロモン』と『デウス・エクス・マキナ』が例外ってことかな”
“『武御雷』、『韋駄天』、『夜叉』は能力が多くなさそうな感じだった”
『デメテル』はそこまで能力の多い加護ではなかったようだ。
と言うか、凪咲とロアが得た加護が例外なのだろう。
桃音はモンスターの攻撃を受けて上半身が弾け飛ぶ。カメラには飛び散らなかったが、充分グロテスクだろう。
飛び散ったモノはそのままに桃音が蘇生する。メイスを軽く振ってモンスターを呆気なく倒した。
「では3つ目の能力ですねぇ」
桃音はカメラの方を向いて手を伸ばす。ドローンカメラを掴んで、地面に飛び散った自分の残骸を映した。
「ではいきますよぉ」
視聴者がなんだなんだと困惑する中で、桃音は手を翳して能力を発動する。
残骸が光り始め、そこから頭が生えてきた。ピンク髪であることから桃音らしく、首から下も徐々に生えてきてやがて全身が形作られた。装備もそのまま再現されている。
“!?!?”
“なにこれ!?”
“桃音ちゃんが2人!?”
“増えた!?”
まさかの能力に騒然となっていた。
「これが『デメテル』最後の能力。自分の身体を種として、自分の身体を生やすことができるんですぅ。もちろん、能力は自分と全く同じですよぉ」
「こうして喋ることもできるようになりますから、手分けできますねぇ」
並んだ2人の桃音が笑顔でカメラに話しかけてくる。異常な光景だった。
“すっご”
“桃音ちゃんが増えた!”
“なんだこれ天国か?”
“なるほど、ただの蘇生魔法じゃ実現できないわけだ”
「ではでは、どんどん殖やしていきましょうねぇ」
「一階層につき1人ずつにしますよぉ。能力には使用間隔がありますからねぇ」
そうして桃音の人数が階層毎に1人ずつ増殖していくというとんでもない光景がカメラに映し出されていくのだった。
1人でも充分な強さを誇る桃音が9人もいれば全く苦戦しない。わざと殺されているだけで。
「ボス部屋着きましたねぇ」
「早速挑戦しますよぉ」
使用間隔があるとはいえどれだけ増殖していけるのか。桃音を倒せるかという談義をしていた者達が頭を抱える光景である。
“とんでもないwww”
“能力が少ないだけで、1つヤバいのがあったな”
“跡形もなく一瞬で消し飛ばすことができなければ桃音ちゃんが増えていくだけ”
“相手が絶望する光景だ”
ボス部屋に入り、30体のモンスターが現れた。直後、1人の桃音がメイスを振るって全滅させる。
“速攻w”
“流石に瞬か”
“容赦ないね”
群れが全滅したら倒した分だけのモンスターが融合したキメラが出現した。
「じゃあ皆でいきますよぉ。せ~の」
10人の桃音が武器を振り被り、ぱわーを合わせて攻撃する。
轟音が鳴り響き、敵は肉片すら残らずほぼ液状となって消し飛んだ。ダンジョンの壁が大きく凹むおまけつきである。
“うおおおおぉぉぉぉぉ”
“相手になりません”
“桃音ちゃん強い!”
“どうやったら負けるんだ……?”
わかってはいたが圧倒的な強さを見せつけた桃音。
「ただ、頭1つで動かさないといけないので、皆で走り回って戦うようなことは難しいですねぇ。同時に動かすのも10人ぐらいがちょうどいいですぅ」
“桃音ちゃん1人でたくさんある身体を動かしてるってことなんだね”
“増やすだけなら無限なのかな?”
“脳の処理どうこうがありそうだけど”
“桃音ちゃんが2人になるだけでも充分よ”
もしこの増殖する能力が凪咲かロアにあれば無限に増殖して同時に動かしとんでもないことをやらかしていただろうが。桃音は10人が限度だった。それでも充分なので、間違いなく異常な能力ではあったが。
「それではこれくらいで終わりますねぇ。また観に来てください~」
桃音は10人でカメラに向かって手を振り、配信を終えた。
カメラを切ってから能力を解除すると、9人の桃音が消えていく。油断するとどの自分が本体かわからなくなりそうな能力であった。昔の彼女であれば使いたがらなかっただろうが。
(村正くんが本体をわかってくれるおかげで、迷わずに使えますぅ)
誰にも見えないところで、普段よりも緩い笑顔を見せる。能力を6人で試していた時に本体クイズをしてあっさりと正解したのだ。
桃音の増殖能力は、魔力や神力を完全に再現する。故に凪咲の目であってもどれが本体かを見破ることは難しかったのだが。村正はなんとなくの勘で正解してしまうのだから、彼女にとっては相変わらずの存在となっている。
ただし、最初に使った時は身体だけで生えたため全裸で現れて非常に恥ずかしい目に遭ったのだが。
増殖しても全く同じ装備になるように村正と装備品を調整してから配信に映さなければ1発でアウトの可能性もあったのは余談である。
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