盾砕きの試験③
「次は吾輩の出番だな!」
威風堂々と宣言したのは、マオーさん。どうやらリーダーのフラメルさんが最後のようだ。
双方準備が整ったことを確認して、開始する。
「ゆくぞ!!
右手を掲げ、黒い魔方陣から黒い雷撃を放った。
珍しい魔法、というか。挙動は雷魔法のサンダーボルテックスなのだが、色が違う。彼女が告げた名前の魔法は、厳密には存在しない。
というのもマオーさんは魔法を使う過程で、今の場合だと「サンダーボルテックスを構築→魔力で黒く色を塗る→黒い雷が発生するように変化→勝手に別名をつけて呼ぶ」ということをしている。
魔法とは魔方陣、詠唱、魔法名称を効率良く構築して放つ一種の体系であり、彼女のそれは無駄な過程を増やしているため魔法使いとしては評価されない。才能は物凄いので間違いなく強いのだが。
なぜそんなことをしているかと言えば。
その方がカッコいいから。
だそうだ。
魔王のロールプレイをするだけはあって譲れない拘りらしい。実際威力は上がっているので余計な手間を挟んでいるとはいえ強いことには変わりないのだが。
「ふははは! これを耐えるか! ならば、どんどんゆくぞ!!」
「はいっ」
マオーさんは魔法を受けても無傷だったことを見て、更に威力の高い魔法を使い始める。多分だが、虎徹ちゃん本人にも攻撃がいくので大丈夫か確認したかったのだと思う。
「宵闇の焔を我が手に!
今度は手から黒炎を放ち、虎徹ちゃんの全身を包み込む。
それからも攻撃を続けていった。黒くなった色々な魔法が飛び出してきて、なかなか面白い光景だ。威力が伴っているのもいい。
「光を呑め、我が魔剣!
マオーさんの手に黒々とした闇で出来たような両手剣が現れる。
これがマオーさんが開発したオリジナル魔法、オーバーロードシリーズ。またの名を魔王魔法。
魔力消費が多い代わりに威力を増し増しにした、ロマンある魔法となっている。
“きちゃ!”
“マオー魔法!”
彼女がその剣を振るうと、黒い斬撃が迸った。室内が抉れて虎徹ちゃんの持つ盾にも傷がついている。
「……まさかこの魔法すら耐えるとはな。いいだろう、ならば吾輩最強の魔法で打ち砕いてくれる!」
マオーさんはそう言うと、両手を前に突き出して全身に黒い魔力を迸らせる。
“まさかアレを出すのか!?”
“黒の純色竜を葬ったアレを!?”
“マオー様にそこまで使わせるとはな……”
コメント欄が楽しそうだ。
配信で黒の純色竜を討伐しているので俺も観させてもらったが、どちらが最強の黒かを決めるために挑んだとのことだった。変わり者ではあるが実力は本物。まさか純色竜を倒した魔法を実際に見れるとは思わなかった。
彼女の前に大きな黒い魔法陣が描かれる。
「Ⅰ:魔王が降臨する」
魔方陣の外側にある6の丸の内、真上から1つ左側にⅠが描かれる。
「Ⅱ:魔王は人間を蹂躙する。Ⅲ:神に選ばれた勇者が誕生する。Ⅳ:魔王は勇者と神の使者を倒す。Ⅴ:魔王は神に叛逆し討ち滅ぼす。Ⅵ:世界は終焉を迎える!」
唱える数字に応じて1つずつ穴が埋まっていく。
魔王が降臨してから世界に終焉を齎すまでの物語を魔法の詠唱として見立てた、独特な魔法詠唱だ。
「吹き飛ぶがいい!! ――
完成した黒の魔方陣から巨大な黒の奔流が放たれる。あまりの大きさに虎徹ちゃんの全身すら呑み込んでいく。
“うおおおぉぉぉぉぉぉ”
“虎徹ちゃん大丈夫かな……”
“純色竜消滅させた魔王の奥義ぞ?”
“消し飛んだら蘇生できるのか?”
コメント欄には虎徹ちゃんを心配する声も多かった。実際目で見てわかったが、純色竜を消し飛ばす威力というのも納得だ。
奔流が収束すると人影が見えてきた。
持っていた盾は跡形もなく消失している。ただし、装甲は一切破損していなかった。
「!?」
マオーさんが驚愕している。
「凄いです! 盾が消し飛んじゃいましたっ!」
そんな様子を知ってか知らずか、虎徹ちゃんは嬉しそうにはしゃいでいる。
「う、うむ! 吾輩の魔法を以ってすれば当然である!」
マオーさんは慌てて取り繕うと踏ん反り返る。本心では耐え切る、どころか無傷の虎徹ちゃんに戦慄していることだろう。
“嘘だろwww”
“純色竜ですら消し飛ぶ魔法食らって無傷?”
“化け物だわw”
“村正が防具で敵わないと断言するはずだわ”
コメントは騒然としているが、これくらいは当然だ。
「……いや、凄ぇな。どっちもだけどよ」
「そらそうだろ。なにせ虎徹ちゃんは、日本最硬の防具職人だからな」
総合で親父さんが上回っているだけで、虎徹ちゃんは突き抜けた防具性能を誇っている。特殊能力やなんかで迫ることはできるが、正直勝てる気がしていない理由の1つでもあった。
“すっご”
“マオー様の魔法の前より威力上がってるっぽかったのにな”
“これがマサが認めた鍛冶師よ”
ただ、マオーさんの魔法も凄かった。ダンジョンに挑む前からあの上位純色竜を消し飛ばすに足るだけの魔法を持っているのだから。なるほど、魔法寄りではあるが奏枠と言っても過言ではないな。
「じゃあ最後はボクだねー。ボクはさくっといっちゃうよ」
満を持して、リーダーであるフラメルさんの番となった。
虎徹ちゃんが新たな盾を構えてから、早々に開始させる。どうやら強い魔法の1発で決める気のようだ。
杖を高々と掲げて詠唱を開始した。
「流れ、積み、重ね、永劫の世界を冠する。天と地を分けるよりも早く、其は完成した。時間と空間を掌握せし魔導の力よ。世界を破滅させる刻を告げよ」
詠唱は全く聞き覚えがないのだが、彼がなんの魔法を撃とうとしているかはわかった。
“えっ?”
“今空間って……?”
“おいおいおいおい”
“まさかあれを使うのか!?”
コメント欄も騒然としている。まさかこんなところで見れるとは思っていなかったのだろう。
ライバルの魔法を見る凪咲は不敵に笑っていた。あんたならそれくらいやるでしょ、と思っていそうな顔だ。
「いくよ、これがボクの最大威力。――
富士山のダンジョンで凪咲が会得した、時空間破壊魔法。現時点、確認されている魔法の中では屈指の威力を誇る魔法が放たれ、虎徹ちゃんの盾を襲った。
大きな時計が現れ、ヒビが入り、時計ごと空間が砕け散る。
持っていた盾は粉々に砕け散り、盾を持っていた虎徹ちゃんも、籠手が砕けて両手が露わになった。
「あれ?」
フラメルさんは首を傾げていた。まるで、虎徹ちゃんの装甲すら粉砕しようと思っていたかのような仕草だ。
“あっさり砕いてるのは流石”
“それより虎徹ちゃん五体満足なんだけど”
“無事なのはいいが、あの防具硬すぎないか?”
“化け物鎧だな”
広域殲滅用の魔法なので、当然部屋の床やらにはダメージがある。というか籠手を砕けただけでも快挙だろう。使える魔法だけなら、当時の凪咲より上なわけだし。
かくして、盾砕きの試験は終わった。全員無事達成、である。
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