盾砕きの試験②
「次は私がやろうかしら」
神狩さんに代わって前に歩み出てきたのは、料理人を兼任する甘奈さんだった。
彼女の立場は謂わば俺と同じ。戦闘もできるが、本領は別のところにある。
モンスターの調理が得意なので、ダンジョン中の食事についてはなんら問題ないだろう。
虎徹ちゃんは砕けた代わりの盾を取り出して構えている。
「了解。じゃあ、スタートで」
俺が言った途端、彼女は自身へ魔法による強化を施していく。神狩さんの様子を見て全力で挑まなければクリアが危ういと思ったのかもしれない。
間合いを詰め、出刃包丁を振るう。
「三枚下ろし」
包丁を振るった後、2本の斬撃が放たれて盾に激突した。まだ傷はつかない。
「微塵切り」
一振りで無数の斬撃を放つ。奏がよく使う手と似ているが、流石に規模が小さい。
それでもなかなかの威力で、戦えるというのも事実なようだ。
その後も包丁捌きに由来した技を放ち続けて、10分に間に合うよう全力で挑んでいた。
やがて、盾が砕け散る。残り時間は40秒。9分20秒を費やした形だ。戦闘が本職でなく、彼女が得意とする対モンスターではないというのにきっちり間に合ったのだから流石と言える。
こんな風に全力で技を出し続けることはなかったのだろう。息を切らし、汗ばんでいた。
「いい盾ね、虎徹ちゃん」
「ありがとうございます!」
終わった後には虎徹ちゃんと握手。そしてなぜか俺の方を見てきた。
「5分以内でもいけるって言い返したかったんだけど、あなたの見立て通りだったわ。悔しいけど、それだけ虎徹ちゃんの盾が素晴らしいってことで許してあげる」
なんだかトゲを感じる。俺が彼女になにかした覚えはないのだが。
“草”
“どうした急に?”
“そういや雑談で、マサのせいで戦闘もできる○○のハードルが上がったとか言ってたなw”
“私怨じゃねぇかw”
コメント欄を見てなるほど、と思った。ただそれ俺のせいじゃなくない?
「次は僕達が」
「挑戦します」
次に挑戦するのは噂の“双子剣士”か。この中だと確か最年少、虎徹ちゃんの1個下だったか。去年度に高校を卒業したばかりだったはずだ。
珍しいというのもあるが、コンビ・デュオ部門のダンジョン記録は世界記録を誇っている。
虎徹ちゃんの準備は整っているようなので、早速開始した。
開始と同時に互いへ強化をかけていく。こちらも最初から全力のようだ。神狩さんと同じく攻撃役ではあるが、2人は技量寄り。奏より牙呂に近いと言うべきか。
2人は互いに剣を振り被ると、同時に振るい交差させるように斬りつけた。そこから絶え間ない双子の連撃が始まる。
ステップを踏んで小まめに位置を変えながら、利き手じゃない方の手で互いの身体を支えたり引っ張りして微調整もしていた。
“合図とか一切ないんよな”
“自然と息が合ってるらしい”
“アイコンタクトすらないの流石すぎる”
“どんどん速くなってね?”
双子の息もつかせぬ連続攻撃は、次第に加速していく。相手が動かないから遠慮なく攻撃できるというのもあるだろう。
戦い方は牙呂に近く、単純に2人で戦うからこそ手数も多い。なにより互いに一切邪魔せず動き続けているのが凄い。本人達にとっては当たり前のことなのかもしれないが、踊りながら戦っているかのような魅せる剣技でもあると思う。
そんな彼らの攻撃が3分間続いたところで、これまで利き手が外側になるような位置だったのを入れ替えた。
“おっ?”
“来るか”
双子は全く同時に、上段から剣を振り下ろす。互いに邪魔にはなっていないが、剣先はほぼ同じ軌道を描いた。盾に当たった時の音は先ほどより重い。
これが双子ならではの同時斬撃か。
全く同じ軌道で剣を振るうことで、威力を重ね合わせた強い攻撃ができる。
これまで大きな傷がついてこなかった盾に切れ込みが入っていた。
“おおおおぉぉぉぉ!”
“なんて呼んでたっけ”
“同時斬撃”
“シンクロ斬撃”
“ツインズエッジ”
“統一されてなくて草”
それから舞うような連撃とは打って変わって、踏み込みを強く同時斬撃のみを放つようにしていた。威力の高い攻撃をしなければ盾が時間内に砕けないと思ったのだろう。
切り替えてからは手数は減ったが徐々に盾を削っていき、真っ二つに割ったのは4分30秒が経過した頃だった。
「5分以内は達成かな」
「目標には届いたわね」
「「虎徹さん、いい盾だったよ」」
2人の攻撃役、2人での挑戦ということで俺が変更する前の5分を目標にしていたらしい。
「2人の攻撃も凄かったです!」
双子と虎徹ちゃんがそれぞれの手で握手を交わす。歳が近いので仲良くして欲しいところだ。
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