盾砕きの試験①
虎徹ちゃんがパーティを組むために、盾を壊す試験が開始された。
制限時間10分の中、果たして神狩さんは達成できるのか。
彼女が一番名が知られていないので、視聴者の注目度も高いだろう。
「いくぜ。怪我しても知らねぇからな」
「はい、遠慮なく来てください」
時間は進むが、まだ動かない。ただ全力ではやってくれるようだ。
「
早速見れるらしい。
俺も初めて見る魔法。空間魔法や回復魔法など様々な魔法があるが、その中でも一際珍しく、存在を知らない者さえいる魔法の1種、憑依魔法。
魔方陣が神狩さんの足元に描かれると、髪が金色に変わり三角の突起物、耳が生える。尻には細く先で毛が膨らんだ尻尾が生えてくる。手足も肘、膝までを金色が覆っていた。それらは魔力で作られたモノなのでリアルではなく光で出来ている。
瞳も金色に輝き瞳孔が縦に開く。爪と犬歯が伸びて見た目の凶暴さが増しているようだ。
“!?”
“なにそれ”
“見たことない”
“どっかで見たような……?”
“あっ、あれだ”
“どっかのダンジョン配信でちらっと映った、素手で敵ぶっ倒す獣人みたいな人なんじゃね?”
コメントでピンと来ている人がいた。……とんでもないな、よく覚えている。実はフラメルさんの配信に過去1度だけちらっと映ったことがあったのだ。その時は許可を取っていなかったので配信では関わらなかったが、個人的なやり取りはあったらしい。
そんな彼女は、強さを求めて今回の挑戦に参加するそうだ。
鍛え抜かれた身体を憑依魔法で大幅に強化して戦う。深層籠もりなんてこともするから相当な実力者だと思われるが、どれほどのモノか実際に見せてもらおう。
「おらぁ!」
地面を蹴り虎徹ちゃんへと肉薄、勢いそのままに握った右拳を叩きつける。拳が盾に当たって轟音を響かせた。
「なっ……!?」
だが、ビクともしていない。
確かに通常の深層であればモンスターを素手で打ち砕ける、というのも納得な威力はあるようだが。
虎徹ちゃんの盾は推定でも純色竜の上位種と同等の硬さがある。その領域になると今のままでは足りないらしい。
「……チッ。
爪を立てて振るい、金色の斬撃を放つ。斬撃は盾に激突したが傷はつけられていない。
神狩さんはその後も攻撃を続けていたが、3分経っても盾に傷1つつけることもできなかった。
“すげぇ”
“攻撃の威力が高いはずなのに、虎徹ちゃん微動だにしてないな”
“あの猛攻を受け切れる盾ってなに?”
“村正の武器と比較してたから壊せるモノだと思ってたけど、マジで硬いんだな”
「……ふぅ。仕方ねぇか」
3分経って神狩さんは攻撃をやめて憑依を解く。あきらめたのではないが、もう少し奥の手に近い手札を切ってくれるはずだ。
「
今度はモンスター、若しくは伝説上の生物。
髪が白に変わり、背中に白い光の翼が生える。手足には鳥の脚らしき光を纏っていた。
「へぇ、なるほどね。憑依魔法ライカンスロープは獣の力を憑依させて自己強化をする魔法みたい。更に複数の獣を組み合わせることで強化幅を上げれるのね」
凪咲が感心したように言った。憑依魔法を知っていたわけではなく今見て理解した様子だ。
「はぁ!!」
翼を羽ばたかせて飛翔し、鉤爪のついた脚で勢いよく蹴りつけた。速度も威力も先ほどとは桁違い。より激しい轟音を響かせる。
「ハッ。これでも足りねぇかよ」
だが虎徹ちゃんの盾は傷ついていない。先ほどまでは苛立った様子も見えたが、今は笑っている。簡単に砕けるような防具を造る鍛冶師ではないと理解したからだろうか。
その後もグリフォンのまま攻撃を仕かけるが、2分経った今でも砕くことはできていない。徐々にダメージは蓄積されていると思うが、流石虎徹ちゃんの盾。頑丈さは折り紙つきだ。
「ハァ……。このままじゃ埒が明かねぇな。しょうがねぇ、とっておきを使うとするか」
神狩さんは再度解除すると、次を使用する。レオーネの時は全く疲れた様子もなかったが、今は少し息が乱れている。複数にすると消耗も激しくなるようだ。
「いくぜ……
紫の光が彼女の身体を覆う。
頭はレオーネと同じように、左肩には山羊の頭が現れ、手足も山羊のモノだ。尻尾は蛇となっていた。3体の獣の融合憑依魔法というわけだ。
強さもぐっと上がっているようで、単純に憑依させる獣の数で力が上がっていくらしい。とっておきとは言っていたが、まだまだ上がありそうだ。
神狩さんは拳を引くと、盾に向けて放つ。これまでの比ではない轟音が響き、部屋全体が振動した。
“うおぉぉ!?”
“すげぇ威力”
“跳ね上がってるな”
“これはいけそう”
ぐら、と虎徹ちゃんが押されるほどの威力だった。盾は砕け散らなかったが、確実にダメージが入っているようだ。
「ハッ。これならいけそうだな」
神狩さんは確かな手応えを感じたようで、ニヤリと笑った。
拳を引いた後、ぐっと力を溜めてから一気に解放する。ズドドドドと両の拳が連打された。1発1発がかなりの威力を持っており、間違いなくあの盾を砕くだけの力がある。虎徹ちゃんも頑張って踏ん張ってはいるが、徐々に押されていっている。そのため、拳を連打しながら前に進み間合いを維持していた。
連打開始から30秒開始した頃には盾の破片が飛び散るようになり、着実に壊れていった。
バキィンという大きな音を響かせて盾が砕け散ったのは、試験開始から約7分後のことだった。
虎徹ちゃんが持っていた盾は砕け散り、神狩さんは拳を振り抜いたままの姿勢で笑みを深めた。
「いい、盾じゃねぇか」
魔法を解き汗だくの息を乱した状態で、彼女は言った。盾を砕いたことの喜びよりも、自分の全力を耐えていた盾の性能を称えた。握手を求め手を開く。
「はいっ!」
虎徹ちゃんの装備を心から褒めることが、彼女と距離を詰めるコツの1つでもある。神狩さんにそういった気はないだろうが、ないからこそ嬉しいそうだ。神狩さんとの握手に応じていた。
“とりあえず1人目、だな!”
“素性不明の探索者っぽいけど、実力は証明されたな”
“あの盾ってかなりマジで硬いんだな……”
“村正の武器ってスゲー!”
“かかった時間は7分くらいだけど、キマイラを使ってからは2分くらいだから最初に設定した5分でも結構余裕があった感じか”
確かに、キマイラを発動してからは早かった。最初からああしていれば2分くらいで盾を砕けたのだろう。
だがおそらく彼女は火力で言えばパーティでも随一というところだ。ゴリゴリの近接アタッカーという役割なので、当然のように攻撃力が高い。5分が切れるのはいい実力だというところか。
「まず1人目、クリアだな」
「7分で結構疲労してるのはちょっと不安要素かもね。まぁそこは否応なしに底上げされてくでしょうけど」
「オレらも上位の純色竜に何時間もかかってたからな……。その分攻撃力に振ってるって考えたら、問題は下層深層か」
俺が結果を告げ、凪咲と牙呂が神狩さんの強さについて真面目に評価する。
確かに、中層以降は長期戦になる傾向が強い。1体の憑依であれば長時間戦えそうだが、それだと若干物足りない。やや短期戦向きって感じみたいだな。
「……わかってる。普通の深層は1体の憑依でも余裕だけどな。富士山のダンジョンに挑むなら、最低でも2体、3体を維持できるようになってかねぇと」
本人も懸念事項は自覚しているらしい。真剣な様子で応えてくれた。
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