試験を経て
「ということで、全員盾砕きの試験突破。おめでとう」
攻撃もできる全員が見事に課題をクリアしてみせた。充分優秀なパーティだ。
俺達は惜しまず拍手を送った。
「ねぇ、思ったんだけどさ。この試験、虎徹ちゃんもやった方がいいんじゃない? ボク達の力は示したんだから、虎徹ちゃんも示して欲しいな。言い出しっぺの法則ってヤツ?」
フラメルさんはそんなことを言い始めた。……ふむ。確かに、一理あるか。
「じゃあはい」
「え?」
俺は試験で使ったのと同じ盾をフラメルさんに手渡す。
「ってことらしいから、虎徹ちゃん。急遽だけどあの盾砕いてくれる?」
「はいっ」
「ねぇ待って!? なんでボクが盾持つことになってるの!?」
「言い出しっぺの法則」
フラメルさんは慌て出したが、無駄だ。彼を置いて、他の全員は周囲から離れてしまっている。
“草”
“全員離れたとこに避難してるw”
“余計なこと言うから……”
“フラ虐助かる”
「虎徹ちゃん。両手、振り抜き、フルパワーね」
「はいっ!」
前回は片手の寸止めだったので、イマイチ威力が伝わらなかったのかもしれない。だから今回は虎徹ちゃんの全力を見せてあげよう。いや、味わってもらおう。
「ね、ねぇ! ちょっと! ボクが悪かったからやめようよ!」
「いやいや。不安材料は消しておかないと。だからほら、身体で味わっていいぞ」
「っ……!」
フラメルさんは怯え切った顔をしている。なぜだろう、俺はこんなにも笑顔で優しく語りかけているというのに。不思議だなぁ。
“ひぇ”
“オイオイオイ、4んだわあいつ”
“マサさん怖いっす”
“しかしいい笑顔だ”
“わかってはいたけど村正ってドSだよなw”
盾を両手で持ち上げて内股でガクガクと震えるフラメルさんのところでハンマーを持った虎徹ちゃんが行き、位置につく。
「じゃあ、スタート」
「いきますっ!」
俺の気の抜けた声とは裏腹に、虎徹ちゃんは気合い充分。両手で持ったハンマーを思い切り振り被り、フラメルさんが持つ盾へと叩き込む。
フラメルさんの虚ろで絶望した表情が印象的だった。
ドゴォン!! とこれまでにない轟音が放たれて盾とフラメルさんは仲良く消し飛んだ。ついでに床が大きく抉れて奥の壁が盛大に凹む。相変わらずとんでもないパワーだ。
“あーあ”
“こうなると思った”
“というかエグい威力だなw”
“これの威力でオリハルコン叩いてんのか”
“元が盾だったのかフラメルだったのか破片だったのかわからんが”
“ひぃ”
“もしかして虎徹ちゃん、現在パーティ最強?”
“最前線パーティ最強が鍛冶師ってなんだwww”
「桃音」
「はぁい」
桃音がすぐに元通り蘇生したが、フラメルさんは放心状態。
「マサさん! 盾砕けました!」
虎徹ちゃんが嬉しそうに報告してくる。
「うん。試験クリアだ」
「えへへ〜」
“そっちじゃねぇwwwww”
“かわいい”
“けどつよい”
“おそろしい”
“とんでもない子連れてきたなw”
「虎徹ちゃんの家系はその鍛造方法から、腕前とパワーが比例してる。だから弱いわけないんだよな」
「それにしてもイカレてんな」
「流石マサ君の知り合いの鍛冶師」
「どういう意味だそれ」
“そのまんまの意味だろ”
“類は友を呼ぶ”
“初配信からイカレ鍛冶師の称号を貰った鍛冶師は違うぜ”
どうやら俺と虎徹ちゃんが同類であるということのようだ。まぁ、否定はできんが。
「あ、フラメルさん。大丈夫ですか?」
「っ! ……は、はい」
虎徹ちゃんが治ったフラメルさんに屈み込みながら聞くと、彼はびくっと怯えた表情で返事をした。しかも敬語だ。……これはちょっと、やりすぎたかな。
“トラウマ確定”
“わからせられてて草”
“フラ虐いいぞぉ”
“怯えた顔かわいいねぇ”
“サドコメしか流れてこないんだがw”
とりあえず、無事虎徹ちゃんの実力に納得してもらえたということで良かった。
「じゃあ、これで虎徹ちゃん含めの新たな、富士山のダンジョンへ挑むパーティの誕生ってわけだ」
俺が言うと、ロアはいい感じに8人の姿を画角に映し出した。……肝心のリーダーが座り込んで消沈しているが、いい面子であることに間違いはない。様子見がなかったというのもあったが、一番短い時間で盾を破壊したのはフラメルさんだしな。
“いい面子や”
“期待大”
“リーダー……”
“まだ立ち直ってなくて草”
“今からワクワクが止まらん”
「フラメル? リーダーなんだから締めないと」
「キミ容赦ないね……。んんっ!」
凪咲に声をかけられて、我を取り戻したフラメルさんは立ち上がり、咳払いをする。
「ボク達は、この8人で富士山のダンジョンへ挑む。凪咲の役割はボクとマオー様で補って余りある。ヒーラーの桃音ちゃんは夜鞠ちゃんが。牙呂くん、奏ちゃんの攻撃力はナタくんとハルちゃん、神狩さん、補助で甘奈さん。牙呂くんの気配察知は神狩さん。ボクが思うに、この7人でキミ達と比べた時に足りないのは鍛冶師、桃音ちゃんのぱわー、牙呂くんの速さ、村正くんの手札の多さ、奏ちゃんの異常な剣技くらいなんだけど。それを虎徹ちゃんという鍛冶師が、パワーまで持ってきてくれた。足りない回復力を補うための防御力もね。あとは夜鞠ちゃんの強化と人手で補うって感じかな」
第二陣のパーティを結成するにあたって一番の不安要素は、桃音ほど死に抗える回復魔法の使い手が日本にいないということだった。
そこで、桃音に次ぐヒーラーと言われる夜鞠さんを加入させて回復力の差を極力抑えつつ、防具に強い鍛冶師を入れることで補助をすると。更に、本人も言っていたがパーティの総合攻撃力で言えば俺達より下がってしまう。……この点に関しては牙呂が速さと手数で世界屈指なのと、奏が異常なのと、桃音が妙なぱわーを発揮するのと、凪咲が魔法火力に秀でてるのと、俺が武器が得意な鍛冶師だというのとで仕方ない面もある。というか俺達は防御面が脆いのを桃音の回復で無理矢理補ってるだけか。
「――ボク達は、キミ達に負けず劣らずの最強パーティだと自負してるよ」
不敵な笑みを浮かべたフラメルさんが言った。
「ええ、そうね。アタシ達のところまで来てみるといいわ」
彼のライバルである凪咲も笑みを浮かべて応える。
“激熱”
“トータルで見たら同じくらいになりそう”
“人数が多い分総合では上かも”
“むしろ超えてなかったら最初の6人が異常すぎる”
“異常ではあると思う”
“草”
「精々胡坐を掻いてるといいよ」
「そんな嘗めた真似するわけないじゃん。アタシ達はもっと先に行ってるから」
「……ホント、生意気だね」
「出遅れたことを悔いるといいわ」
「悔いるわけないよ。おかげでボク達は万全の準備をして挑める。すぐ追いつくから、待ってる必要はないけどね」
フラメルさんと凪咲がバチバチに火花を散らしている。
「ま、いけるだろ。オレらより人数多くて、情報もあって失敗しました、なんてカッコつかねぇもんな」
「大丈夫ですよぉ。頑張ってくださいねぇ」
「興味ない」
「武器の依頼するなら早めにしてくれよー」
牙呂は発破をかける意味で煽り、桃音はいつも通りにこにこと、奏もいつも通りだがそっぽを向いて言った。俺は依頼するなら早くしてくれないとまた時間がなくなるから一応言っておく。
“牙呂の煽り草”
“桃音ちゃんはいつも優しいなぁ”
“奏ちゃんはホンマ……”
“マサw”
“実際依頼するなら早くしないと予約でいっぱいになるぞw”
「ってことで、今日の配信はこれで終わりにするか。今後の動向が気になる人はフラメルさんのチャンネル、SNSをチェックしましょう」
今回の配信のチャンネル主である俺が全体の締めを行う。ちゃんとした決意表明とかはフラメルさんの方でやっていくだろう。俺達はあくまで視聴者と同じ目線で、彼らの挑戦を楽しませてもらうとする。
“楽しみ”
“頑張れー”
“お前らならいける”
“関わり薄いから、仲良くなることも期待してるゾ”
“ナタハル以外のてぇてぇをくれ”
“草”
いい感じで配信も終われそうだ。
「あのー……。すみません、良ければ皆さんのサインが欲しいんですが……」
その時、1人が歩み出てそんなことを言い出してきた。口調からは想像もつかないが、マオーさんである。
俺は思わずロアと顔を見合わせてしまった。
「申し訳ございません。まだ音声を切っておりませんが」
配信終了後のエンディング画面というに差し替えてはいたが、音声は切っていなかった。ので、マオーさんの素の声が思い切り載ってしまったことになる。
ロアの言葉に理解が広がり、同時に顔が耳まで真っ赤になっていく。そして両手で顔を覆って膝から崩れ落ちてしまった。
「ぬおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」
マオーさんの羞恥の叫びが響き渡る。
“マオー様www”
“最初の6人のファンやったんかw”
“お労しや……”
“ポンで草”
配信終了間際に物凄いコメントが加速してしまった。まぁ知らない人は偉そうと思う可能性もあったので、丁度いいのかもしれない。あとオチとしても。
それから、今度こそ配信を切るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます