【初配信】オレの名は牙呂! 最速王になる男だ!②

「へへっ、観に来てくれてありがとな。次からは戦うから、もうちょっと速く終わらせるわ」


“えっ?”

“強化?”

“してないんですか?”

“嘘だろ……”

“強化なしで深層のモンスターとやり合えるの?”


「魔力操作での身体能力強化くらいは普段からしてるけどな。魔法使っての強化もできるんだよ。武器効果も使ってねぇし」


“おいおいまだ上があるのか”

“これは楽しくなってまいりました”

“武器効果ってなに?”

“武器の中には特殊な効果を持つのもあるって言うから”

“なるほど、いい武器なのね”


 それから、強化魔法を使った牙呂は深層のモンスター相手でも容易く切り刻んで進んでいく。


“強い! 速い!”

“いいやん!”

“牙呂君カッコいい”

“動き速すぎて、軌跡だけが線みたいに映るのめっちゃいいな”

“どこのダンジョン?”


 あっさりと、牙呂は深層の最奥まで辿り着いてしまった。当然ながら、彼の目指すところ――追い越したい相手はこの程度の相手一撃で倒してしまう。

 視聴者も順調に増えてきていた。


「んじゃ、このままボスまで挑戦だな!」


“やったれ!”

“全然疲れてなくて草”

“観てる限りずっと走ってたんだよなぁ……”

“ダンジョン入ってから1時間経ってない”

“RTAじゃないのにめっちゃ早くて凄いな”

“練馬のRTA記録って確か45分くらいだったような”


 牙呂の強さが視聴者にも伝わってきていた。盛り上がりは充分。

 牙呂はボス部屋前の扉を押し開き、中へ入る。


 待ち受けるは長い刀を持った白銀甲冑の骸骨。練馬のダンジョンボス、剣骸翁である。


「へへっ。やっぱこいつカッコいいぜ」


 牙呂はドローンから離れて敵と対峙する。

 剣骸翁はいきなり攻撃を仕かけてくる。一足に踏み込み、長い刀を振るってきた。牙呂は上体を逸らして避けていた。


 剣骸翁の攻撃の手は続く。だが牙呂は全て見切り完璧に回避していた。そうしていると、相手が大きく飛び退いて距離を取る。


“来るぞ来るぞ!”

“大技の時間”


 両手で持った刀を真上に振り上げ、力を溜める。振り下ろすと斬撃の嵐が巻き起こった。


「ははっ! やっぱこいつと戦う時はこれ見なきゃな!」


 牙呂は迫る斬撃を見て笑うと、高速で移動して敵の背後を取る。


「けどま、オレには当たらねぇ」


 大技を放った直後の剣骸翁は動けず、牙呂の二刀で切り刻まれていく。途中どうにか跳んで正面を向いたが、牙呂と距離を空けることができず二刀の連撃を受けてしまう。


「そらそらそらぁ!!」


 敵に回避も防御もさせない連撃がどんどんダメージを与えていった。


“うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!”

“いけいけ!”

“斬嵐を避けた時の動きヤバい”

“範囲攻撃を回り込んで瞬時に背後取るって……”

“速すぎ!!”


 ボス相手でも圧倒的な実力を示し、コメント欄も大いに盛り上がる。

 ダメージが蓄積していくと甲冑が砕け散り、砕けた破片が翼を形成していく。第二段階に突入したのだ。


 飛び上がって斬撃を放ってくるが、牙呂は1つずつ丁寧に避けていく。


「形態変化後もカッコいいんだよな」


“避けながら言ってて草”

“余裕そうだなぁ”


 突っ込んできた攻撃も、間合いから離れることで回避してみせる。


「さてと。本気で決めるぜ!」


 牙呂は言って、二刀を構えて魔力を流し込んでいく。左手の剣から風が、右手の剣から雷が発生して全身を覆い強化する。

 相手も警戒してか刀を構えていた。


“風と雷!?”

“1本に1個ずつの能力だって!?”

“とんでもない武器だな”

“特殊能力武器2本はヤバい”


「いくぜ。――疾風迅雷ッ!!」


 牙呂と剣骸翁が同時に動き出す。瞬時に擦れ違った後の静寂は、無数の剣の軌跡と音によって切り裂かれる。剣骸翁の身体がバラバラに切り刻まれ、勝敗は決した。


“おおおぉぉぉぉぉぉ!!”

“あっさり倒した!?”

“あの一瞬でどんだけ斬ったってんだよ……”

“牙呂君強い!”


 武器効果を使っての本気で深層ボスは細切れになった。明らかに深層のソロ攻略が余裕な実力を持っていることがわかり、ずっと話題のあの2人にすら匹敵する探索者の登場だと盛り上がっている。


 ボス戦が終わり、1つの質問が投げかけられる。


“ところで叫んでたのはなんですか?”


「ん? 技名だ。カッコいいだろ?」


 牙呂はいい笑顔で答える。


“あっ”

“うっ”

“そういや中学生だった……”

“ひぃ”

“そうだな、カッコいいなw”

“そっかそっか”

“そういう時期よね”


 視聴者にとっては、刺さるモノもあった。探索者として配信するならなくはないことなのだが、やはり大人になってからでは恥ずかしいというのもある。そのため、学生でなければほぼできないのだ。

 視聴者の多くはそういう時期を過ぎているため、彼を温かく見守るコメントも多かったのだった。


 ◇◆◇◆◇◆


「今はまだ足りねぇが、絶対お前らに追いついてやる!」


 翌日のこと。牙呂は学校の教室で凪咲と奏に宣戦布告をしていた。クラスメイトにとってはいつものことだったが。


「チャンネル登録者数2104人じゃん。何倍差?」

「今は、っつっただろ。オレはいつかお前らを超えてやる」

「負け犬の遠吠え?」

「こっからだっつってんだろ!?」


 ただし彼とやり取りするのは凪咲で、奏は興味なさげだ。


「そうだ、村正。お前の武器もめっちゃ褒められてたぜ!」


 いつメンのもう1人、村正に親指を立てた。


「当たり前だろ。誰が造ったと思ってんだ」


 村正は不敵に笑って言い返し、牙呂と拳を突き合わせる。


「健太は2本。私は1本。……狡い」

「気にするとこそこなのね」


 奏のズレた発言に、凪咲が呆れる。

 学校1有名な最強のいつメンのいつもの光景であった。

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