【初配信】オレの名は牙呂! 最速王になる男だ!①

 ネタなのか真面目なのかわからないタイトルで、ある日配信が開始された。


 カメラには少年の姿が映っている。


 背景にはダンジョン前特有の看板があり、練馬と書かれていた。


「おっす! オレは牙呂! 今日からダンジョン配信者デビューするぜ! よろしくな!」


 金髪ツンツン頭の少年がカメラに向かって笑いかける。


 配信を開始してすぐということもあり、視聴者の集まりは悪い。視聴者の割合はやや男性が多めで、正直に言ってしまえば女性配信者の方が視聴者が集まりやすい。

 男女問わずではあるが、若く見た目のいい人の配信を観たいという視聴者が一定数いるからである。


 そういう意味で言えば、カメラに映る彼は見た目の良さはあるとしてもやや不利。しかも同年代に3年前からデビューしている化け物がいるのだ。

 多少は仕方がないとも言えよう。


「早速だが、練馬のダンジョンに挑戦してく。手早く攻略してくから観ていってくれ」


 牙呂は言うと、視聴者の反応を待たずに中へ入っていく。


「タイムアタックはしないが、ある程度速く進めていくつもりだ。撮影でドローン使ってっから、追いつけるぐらいの速さで走ってくぜ」


 牙呂はそう言うと駆け出した。一拍遅れるので離されるが、ドローンが最高速度で追いつきそこからは一定の速度でぐんぐんと進んでいく。


「ん、モンスターだな」


 しばらく進んで言い、速度を落として停止する。急停止するとドローンが激突したり画面が揺れたりするので、モンスターとの遭遇前に速度を落とすように工夫していた。


 彼が足を止めると、先の角から大きな影がのそりと出てきた。


 頭に角を生やした体長3メートルほどの緑色の巨躯。右手に木の棍棒を持っていた。


「オーガか。じゃあやるか!」


 牙呂は言うと、彼を見て吼えたオーガに向かって駆け出す。ドローンは敵を感知すると停止するようになっていた。


「ウガァ!」


 オーガが棍棒を振り下ろす。左に跳んで回避した牙呂はそのまま左側の壁を蹴ってオーガの頭上へ跳び上がった。オーガが睨み上げてくる頃には右側の壁まで到達しており、壁に足を突けて腰の二刀に手をやる。オーガが棍棒を振り上げるより早く壁を蹴って突っ込み、擦れ違う。

 交差した瞬間はカメラに映っていなかったが、擦れ違った後でオーガが×の字に切り裂かれて倒れた。


「へへっ」


 あっさりモンスターを倒して笑う牙呂だったが、視聴者はいても未だにコメントがつかない。内心悔しく思いつつもまだ上層と言い聞かせて進んでいった。


 上層を10分少々というスピードで攻略し終えて、中層も同じくらい。下層に辿り着いても速度が変わらず、ようやくコメントが投稿された。


“速いですね、おいくつですか?”


 待望のコメントに気づいた時、牙呂はパァとわかりやすいほどに顔を輝かせる。


「コメントありがとな! 歳は今年で13だ!」


 ただ年齢を聞かれただけだが、心より嬉しそうな様子だ。それもあってかコメントが増えていく。


“若っ”

“13ってなるとあの2人と同年代か”

“観てたけど下層までずっとさっくり倒してきてて凄いぞ”


 コメントなどは誰かがするとかなりしやすくなる。観ていてもコメントをしない視聴者も多数いるのだが、一気に増えてきたことで牙呂の表情はかなり綻んでいた。


“嬉しそうで草”

“可愛い”


 嬉しそうな彼の様子にコメントが反応し始めてから、ハッとして表情を引き締める。彼はカッコいいと思われたいのであって、可愛いと思われたいわけではないのだ。


「んんっ! そろそろ進むぞ。コメントは走りながらでも読むから、気軽に投稿してくれよな!」


 咳払いをしてから、牙呂は再び走り出す。

 モンスターと遭遇する時だけ止まるが、その時以外はずっと走り続けていることでサクサク進んでいく。更には敵の攻撃をかわして素早く攻撃を加えてあっさり倒していくので、観ている側としてもストレスなく見守ることができていた。


 そうして深層へ辿り着く。


「じゃあこのまま深層まで行くぜ」


“ソロで深層!?”

“マジかよ”

“単独で深層潜れる中学生なんてあの2人だけだと思ってたわ”

“下層も結構余裕そうだったし強いな”

“最近の中学生はよぉ……”


 前例が出来たとはいえ、深層ソロ攻略自体が珍しい。現役高校生探索者ですら話題に挙がるのだ。中学生ともなれば尚更である。


 牙呂は早々に深層まで辿り着き、なんの躊躇もなく深層まで下りた。


「じゃ、またモンスターと遭遇するまでは走ってくぜ」


 牙呂は恐れもなく、平然とダンジョン内を駆けていく。

 視聴者も麻痺してきているが、10代で深層をソロ挑戦すること自体がおかしい。ただ3年前にそれ以上をやってのけた化け物がいたせいで、視聴者がまだ123人という少なさではあった。最初から何万人にも観てもらえるのはほとんどないのだ。


「おっ? ……この気配、地竜だな」


 牙呂は立ち止まって告げる。


“いきなりか”

“さっきからカメラに映るより早くモンスターの気配感知してるっぽいな”

“速さだけじゃないってことね”

“それより地竜の気配知ってるってことは、だな”

“心強い”


 牙呂が練馬のダンジョンに挑戦済みであることを察する。通路の奥から4足歩行のドラゴン、地竜が現れた。牙呂の姿に気づくと、唸りを上げて向かってくる。


「ま、鈍重だし的は大きいからそう苦戦する相手でもねぇな」


 深層に来ても余裕は変わらない。地竜が口端から火の粉を散らし、火炎のブレスを吐く。ドローンが上へ回避する中、牙呂はダンジョンの壁へと走っていき、そのまま壁を蹴って地竜へと駆けていく。


“うおっ!”

“壁走りや”

“速い”


 牙呂は脚で戦うタイプの探索者と見て、動きに盛り上がる。ブレスを回避して接近した。が、地竜は牙呂を首で追うと短く息を吸って火炎の球体を吐き出した。壁を強く蹴って反対側へ跳ぶことで回避すると、ぐっと踏み込んで一気に迫る。擦れ違い様に斬りつけたが、傷がついた程度で倒せてはいない。

 その後も壁を上手く使いながら颯爽と駆け回り、時には蹴りも用いながら戦って、遭遇から1分後には地竜を倒すことに成功した。


「ふぅ。ま、こんなもんか」


“お疲れ様!”

“立体的な動きがあって観てて楽しいわ”

“運動神経良すぎ”

“地竜を1分で討伐”

“早い”

“やるやん”


 深層のモンスターが相手でも無傷の完勝。視聴者数も増えてきているが、コメントが結構なペースで流れ始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る