やる気なし『武御雷』

「はーい。今回は奏の加護お披露目配信だよー!」

「面倒」

「いいじゃん、見せてあげてよ!」

「……はぁ」


 カメラには凪咲と奏が映っている。今回もいつも通り、嫌がる奏を凪咲が引っ張り出してきたのだ。


“待ってた!”

“奏ちゃんの加護回!”

“楽しみにしてた”

“相変わらずやる気ないなぁw”


「加護の内容は最初に言った通り」

「剣と雷の能力ってだけじゃわかりづらいでしょ! どんなことができるか見せないと!」

「面倒」


 全く以ってやる気のない様子だったが、それでも彼女はここまで来ていた。


「というわけで、今日は渋谷のダンジョン深層に来てるよ! ここはやっぱりモンスターが多いから見せやすいよねー」

「帰っていい?」

「ダメに決まってるでしょ!? ほら、戦って!」

「……はぁ」


“やる気なさすぎて草”

“応援したってくれ村正”

“マサが動けばどうとでもなる”

“マサスイッチオフ状態で草なんだ”


「――『武御雷』」


 奏は終わらせた方が早く帰れると思ってか、加護の名を口にして発動する。


 身体に白い電気を纏い、バチバチと弾ける。髪が白く発光して少し浮いていた。


「ちょっ、急に――」


 凪咲が言うよりも早く、奏は掌を前に突き出す。白い雷撃を広い階層全体に放った。雷撃が当たったモンスターは消し飛んでいき、全滅する。


「これでいい?」

「急にやらないでよ!」

「次行く」

「ちょっと、もうっ!」


“えぐ”

“奏ちゃんが剣使わないとこ初めて見た”

“雷を放つ能力があるってことね”

“絶対早く終わらせて帰ろうと思ってるwww”


 なんの説明もないため、視聴者が見たままを能力の詳細として覚えていく始末だった。


 次の階層に辿り着いてからすぐ、奏は剣を抜く。刃に白い雷を纏わせて振り抜くと、奏のラグなし斬撃と共に雷が敵を襲っていた。敵は切り裂かれるだけでなく雷撃によって消し炭になっている。


「次」

「ちょっと待ってってば! 今のは斬撃に雷を乗せたってことでいいの?」

「ん」

「せめて止まってってばぁ!」


 奏は一撃で一階層の敵全てを全滅させることで、さくさく進めることにしたようだった。


“奏ちゃんの斬撃にも応用可能、と”

“斬撃が効果薄い敵にも対応できるようになったってことね”

“なんかもう、深層一振りで突破くらいじゃ驚かなくなってきた……”

“当たり前のように化け物すぎてなw”


 次の階層に行く。と早速奏が剣を抜いたまま動き出した。瞬時にモンスターの傍に移動して、雷のような軌跡を残す。剣を振るっても斬撃を飛ばさないよう加減して次の敵へとまた雷のように移動して攻撃、というのを敵を全滅させるまで繰り返した。


「終わった。次」

「説明くらいしていってよ! 今のは、雷みたいな速度で動けるってことでいい?」

「ん」

「動きながら攻撃はできないの?」

「できない」

「なんで? どういう仕組み?」

「……面倒」

「こんなことで!?」


“質問を繰り返すことで説明させる手法”

“素気なくて堪らん”

“奏ガチファンはよぉ……”

“せめて凪咲ちゃんの質問にくらいは答えてあげてw”


 このコンビチャンネルの視聴者なら見慣れた光景。

 凪咲は視聴者のことを思って配信するが、奏は配信に興味がないため素気ない。ツンデレ説を唱えて一縷の望みを懸けていた視聴者が消え去り、奏は素でこうなのだと理解したのだ。


「で、なんでできないの?」

「身体を変化させてるようなモノだから。感覚的にはテレポートに近い」

「あぁ、そういうことね。身体を雷に変化させて移動はできるけど、戻さないと剣が振れないってこと。じゃあ雷になって突撃! とかならできるんじゃない?」

「できない。攻撃用と移動用で違う」

「あぁ、攻撃力はないのね」

「ん」


“凪咲ちゃんのおかげでどんどんわかっていくw”

“今6人の加護についてのまとめサイト出来てるから”

“詳細がわかっていくのいい”

“もっと教えて!”


 凪咲の巧み(?)な誘導に従って、奏の能力の詳細が明かされていく。長年の付き合いだけあって、扱いを心得ていた。


 その後も落雷のように頭上から雷を落としたり、刃を通して雷を流し込み感電させたりできるようだ。


「後は普通の状態でもできる剣の能力」

「って、解くの!? もー、普通小さい変化から見せていくもんじゃないの?」

「面倒。それに、凪咲ほどいっぱい能力ないから」

「それはそうかもしれないけどね……」


 6人全員の加護を比較しても、凪咲の『ソロモン』は明らかに異常だ。加護としての性能がずば抜けている。次いでロアの『デウス・エクス・マキナ』。他はとんとんくらいの能力なのであった。


「んんっ」


 奏が両手で剣を振るうと、無数の斬撃が放たれて瞬時に階層全体の敵をバラバラに切り刻んだ。いつも通りに見えるが、これも強化されている。


「射程が長くなった? 切れ味……はわかんないか」

「ん。射程とか切れ味とかもそう。1回で斬れる回数も増えた」

「良かったねー。まぁでも切れ味良くなってもあんまり意味ないんじゃない? 奏にはあの、なんでも斬れる概念攻撃? があるんだから」

「あれはマサがいないとできない。マサがいないとやる気出ない……」

「やっぱマサパワーないと無理かぁ」


“www”

“待ってw 思い出させないでw”

“最終戦の切り抜きは大量に上がってるけど、マサパワー全開の話題性はエグいwww”

“やっぱ村正がいないと力が発揮できないか”

“当然のように通常仕様扱いで草”


 そうして結局、ボス戦は加護を使わずに雑魚とボス、それぞれ剣の一振りで呆気なく終わらせてしまうのだった。


「ホント、奏は配信だと釣れないよねー」

「興味ない。それより帰ってマサに会う」

「はいはい。じゃ、お疲れー」


 凪咲はカメラに向けて手を振り、奏はカメラの方すら向かない。いつも通りの配信画面だった。


“何年経っても変わらないこの空気感よ”

“カナマサてぇてぇ”

“クソ、羨ましい”

“配信にいてもいなくてもてぇてぇを生み出していきやがる……!”

“もう付き合っちゃえよ”

“またカナマサ巡りの旅に出るとする、か”

“草”

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