凪咲の強さが日の目を見た日②

「お姉さん達だぁれ?」

「私達はテレビ局のスタッフなの。災害の状況を伝えるために来たのよ」

「ふぅん? でもここ危ないよ? モンスターいっぱい来るし、避難警報出てるでしょ?」

「え、ええ。でもあなた達みたいな子供がいることも危ないの。いくつか質問させてもらいたいんだけど、いい?」

「えぇ……。まぁ、モンスター来るまでならいいけど」

「ありがとう」


“凪咲ちゃんちょっと嫌そうw”

“モンスターと戦う前の探索者に話しかけるのはマナー違反じゃない?”

“集中切れるからな”

“アナウンサーに答えるよりもモンスターを倒す方が優先なんだよなぁ”


「探索者管理協会に頼まれてここに来たって言ってたけど、無理矢理に連れてこられたの?」

「ううん。ここなら人や建物への被害がほとんどないから思いっ切り戦っていいって言われたから来たの」

「……えぇっと、モンスターの大群が近づいてきてることに怖い、とか嫌だ、とか思うでしょ?」

「なんで?」

「えっ?」

「なんでそんな風に思うの?」

「だ、だって、あんなに怖くて強そうなモンスターがいっぱいいるのよ? 怖いと思うのが当然じゃない?」


 彼女が望む言葉はなかなか出てこない。

 そして、アナウンサーの言葉を聞いた凪咲はむすっとした顔をした。


“あ”

“あれ、このパターンって”

“初配信で見たな”

“怒った顔もかわいい”

“あーあ、逆効果だってそれ”


「ねぇ、お姉さん。それ、アタシ達があのモンスター達より弱いと思ってるってこと?」

「え? ち、ちが……そうじゃなくて、怖い場所に無理に連れてこられたんじゃないかって心配して……」

「怖いって、死ぬってことでしょ? それってつまり、あのモンスター達にアタシ達が負けると思ってるってことじゃん! やっぱり弱いと思ってるんだ!!」


 凪咲がなぜ急に不機嫌になったのか、彼女達には理解できない。いや大半の人には、だが。


「凪咲はカメラ持ってるだけだから、なめられてる」

「奏がいっつも先に倒しちゃうからでしょ!」

「凪咲がおそいのが悪い」

「もー怒った! 今回はアタシ1人でやるから! 奏は手を出しちゃダメだからね!!」

「ん、わかった」


 ぷりぷりと怒った様子の凪咲は言った。


“あれ?”

“奏ちゃん戦わないの?”

“凪咲ちゃん戦ってるとこは見たことないけど”

“魔法が使えるってことくらいしか知らない”

“てっきり奏ちゃんを配信に繋ぎ止めるために一緒にやってるんだと思ってた”

“誘ったのも凪咲ちゃんだって言ってたしな”


 この流れは視聴者も予想外で困惑している。これまで奏が戦うところを映すだけだったので、凪咲がそこまで強いと思われていないのは事実だった。


「ちょ、ちょっと待って! あの、戦うって君達が? 子供が戦うなんて危険よ? お姉さん達と逃げよう?」

「逃げる必要なんてない」

「そうそう。それに、もう射程内に入ったし」

「え?」


 未だ頭が追いつかないアナウンサーを置いて、状況は進む。

 次の瞬間、ずんと地響きが起こり地面が震動し始めた。


 地震ではなく、それと思ってしまうほどのモンスターの行進。足踏みの震動である。


「も、モンスターがこんな近くまで!? は、早く逃げないと……!」


 スタッフが慌てる中、モンスターは距離1000メートルというところまで近づいてきている。


「あ、そうだ。このままだと見にくいしカメラ揺れちゃうよね、っと」


 凪咲は言って杖を一振りする。すると、彼らの身体がふわりと浮き上がった。


「な、なにこれ!?」

「魔法だよ? 知らないの? 浮遊の魔法。人やモノを浮かす魔法。便利だからカメラもいつもこれで持っていってるの」


 2人は平然としたモノだった。


“魔法の発動はっや”

“というか普通に無詠唱で草なんだが”

“いつもってことは配信中もカメラずっと浮かせてたのか”

“1、2時間は持続させられるってヤバくないか?”

“凄いけどモンスター倒せないことには”


 驚きの連続で思考を停止したテレビ局スタッフと、俯瞰して観ているため考える頭が残っている視聴者。


「じゃあ始めちゃおう! 久し振りにいっぱい魔法が使えるよ! どれからいこっかなー」


 カメラにはにこにこ笑顔で言う凪咲が映し出されている。


「あれにしよっと! ――どっかん、ばっこん、ずどーん。おっきいおっきいお岩さん。飛ばしてぶつけてどかーんとしちゃえ」


 変てこな詠唱とは裏腹に、膨大な量の魔力が天へと昇っていく。それをカメラが追い、頭上に描かれていく巨大な魔法陣が映った。


“でっか”

“詠唱かわいい”

“岩をぶつける魔法?”

“あんな大きい魔法でそんなんあったか?”


「さぁいっくよー!!」


 魔法の準備が整い、凪咲が杖を掲げて魔法の名前を唱える。


「――いん石ぶつけちゃえデストロイ・メテオ!!!」


 直後、魔方陣から巨大な隕石が現れ、モンスターの群れに向かって落ちていく。


「え……?」

「隕石?」


“は?”

“デストロイ・メテオ?”

“知らん”

“確か歴代の魔法使いでも数十人しか使えない魔法”

“数十人いるならまぁ……”

“現在なら世界で10人程度やぞ”

“10歳が、世界で10人しか使えない魔法を……?”


 唖然として隕石が大群に着弾して爆散する様が映像として全国に流されていた。


「どかーん!!! 隙がおっきいけど、配信でみんなとどかーん! ってしたら楽しくない!?」

「興味ない」

「奏のバカ!」


 やった本人は呑気なモノだったが。


「お姉さん! これでアタシが強いって認めてくれた!?」

「え? えっ、えっと……」


 凪咲は笑顔で尋ねるが、目の前の状況が理解できていない彼女は答えられない。そのせいで凪咲はまたむすっとした顔になってしまう。


「……そうだよね。デストロイ・メテオじゃダメだよね。もっと難しい魔法にすればいいんだ。じゃあ次はあれにしよっと」


“充分だけどまだ上があるのか?”

“いや、流石に……”

“というか全然疲れてなくない?”

“デストロイ・メテオ使える人はいるけど、2発目撃つ魔力は残ってないことが多いから”

“じゃあ流石に大群全滅は無理か”

“魔力切れたら交代か、回復薬持ってきてるのかも”


 コメント欄は次第にワクワクが勝ってきていた。


「――いっぱい貫く狙い撃ちカラミティ・レイン!!」


 凪咲の次の魔法は、カラミティ・レイン。予め敵の魔力を捕捉して光の矢を放ち、急所を狙い撃ちする貫通力の高い魔法だ。

 狙い撃ちという都合上、数が多ければ多いほど制御の難しい魔法とされている。


 そんな光の矢が、100放たれた。


 流星のように向かう光の矢はデストロイ・メテオの余波で吹き飛び散らばったモンスターを中心に狙い撃ちして、仕留めていく。


“綺麗な魔法”

“制御が難しい魔法として有名だな”

“やったことあるけど1個制御するだけで精いっぱいだったから諦めた”

“使えるだけで凄いぞ”

“ざっと100、簡単にやってるんだよなぁ”

“奏ちゃんが剣の化け物だとすれば、凪咲ちゃんは魔法の化け物だったか”

“これは間違いなく奏ちゃんの友達”


 コメント欄は好き放題言っていた。


「これならどう!?」

「難しい魔法は見てわかりづらい。もっと派手なヤツがいい」

「文句ばっかり! しょうがないじゃない! 撃ち漏らしたらダメなんだよ! 協会のおじさんが言ってたんだから、今回は全滅させて欲しいって」

「じゃあ勝手にすれば」

「戦わないからってぇ!」


“草”

“全然危機感ない”

“やっぱりおかしいよ”

“小学生が使っていい魔法じゃない”

“イカレてる”

“メンタルもおかしいだろw”


 その後も凪咲は次々に魔法を使ってモンスターの大群を倒していく。

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