凪咲の強さが日の目を見た日③

「――太陽みたいなあっつい焔プロミネンスフレア!!」


 白い焔の球体を敵頭上に出現させ、落とし、範囲内のモンスターを焼却させる魔法。


「――お星さま、いっぱいあったら嬉しいよねシューティングスター・レイン!!」


 星型の隕石が無数に降り注ぐ魔法。


「――雷は神さまが怒った証拠なんだってボルテックス・ハンマー!!」


 広範囲に上空から叩きつけるように雷を降らせる魔法。


「――なんかすっごいぶっといビームグレイテストレーザー!!」


 頭上の魔方陣から直径数十メートルの光線を放つ魔法。


「あはははっ! やっぱりいっぱい魔法使えると楽しい!!」


 彼女の放つ魔法は1つ1つが強力で、その内4つ5つを使用しただけで一流の魔法使いであっても魔力が尽きそうなほど。


 だが凪咲は一切の疲れを見せず、楽しそうに、嬉しそうに、魔法を連発していく。


 ダンジョンから溢れ出るモンスターがどれほど多かろうが関係ない。

 圧倒的な火力で大群を薙ぎ払っていた。


「……」


 目の前で行われている光景が理解できず、アナウンサーが口をぽかんと開けて呆然としている。

 大の大人が数人がかりで倒すようなモンスターを、その大群を、たった10歳の少女が圧倒しているのだ。


 ダンジョン探索がどれほど難しいか理解していない彼らでも、目の前の光景の異常さは本能で理解していた。


“えっぐ”

“数時間魔法撃ち続けて、出た感想が楽しい?”

“楽しそうでかわいい”

“いや恐ろしいだろこんなん”

“実力疑っててごめん”

“日本最強に初戦で躍り出た小学生”

“実際マジでヤバいな”

“魔力量の時点で化け物”

“こりゃ協会から任されますわ”


 完全に心配する声が消えていた。これを見せられて「子供に任せるなんて非道だ!」と言える者は多くなかったのだ。

 子供だとかどうとか関係なく、彼女達は強さを示した。


 だからこそ、協会も安心して対応を依頼できるのだ。


「ねぇねぇ奏! まだ試してない魔法あったっけ!?」

「凪咲うるさい。……一番強いヤツ」

「あっ! そうだった、アレ使ってないじゃん!」


 とんでもない魔法を連発しておいて、一番強い魔法を使っていなかったという衝撃発言の後。


「――破壊、亀裂、空間。世界がそこに在るなら、きっと空間ごとこわしちゃったら世界もこわれちゃうよね。ついでに敵だってこわしちゃえたらラッキー。全部まとめてくだけちゃって欲しいな!」


 どの魔法も直接魔法に繋がる魔法なのかどうか怪しいような変てこな詠唱ばかり。カッコ良さなんて一切ない詠唱だが、この魔法については詠唱の時点でなんの魔法かわかるようだった。


“は……?”

“この魔法ってまさか……”

“いやいや、ないって”

“世界でも使える人、今いないんだけど”

“「空間」、「世界」、「壊す」”

“え、なに? なんなの?”

“そもそも空間魔法の使い手ですら少ないってのに”

“希少な空間魔法の中でも最強の魔法”

“単独で使用した例が世界でも3人じゃなかったっけ”


「――世界だってこわしちゃえワールド・エンド!!!」


 凪咲の口から、視聴者が理解していた通りの魔法が唱えられる。


 侵攻してきたモンスターの群れの中央で空間にヒビが入った。突如、危機を感じたモンスター達はそのヒビから背を向けて逃げ出し始める。だが群れを成している都合上移動は難しく、混乱していたら逃げられるモノも逃げられない。

 と言うか、逃げた程度で避けられる魔法ではなかった。


 空間のヒビはどんどん広がり、群れの広範囲に及んだ。逃げ出そうとするモンスターすらヒビの範囲に入っているほど、広い亀裂。


 盛大な破砕音を響かせて空間の破片が飛び散ると、亀裂の範囲内にいたモンスター達も一緒になって砕け散った。


“うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!”

“やっぱりワールド・エンドかよ”

“おかしいって”

“すっげ……”

“化け物なんていう言葉で納めていいのか?”


 これまで以上の広範囲殲滅魔法にコメント欄も盛り上がっている。なにより、現状世界にいる超一流の魔法使いが誰1人として使えない魔法を使ったのだから。


「初めてちゃんと使ったけどやっぱり強いね! 次はどの魔法にしよっかなー!!」


 だがそれをした凪咲は、にこにこの笑顔で次の魔法を唱え始める。


 そうして、彼女はダンジョンから溢れ出る無数のモンスターを、魔法を撃ち続けることで殲滅し切るのだった。その間魔力回復薬を1つも使わずに。


「あー、楽しかったぁ!」


 ダンジョンからモンスターが出てこなくなって、災害大行進モンスターパレードが終わると凪咲は大きく伸びをして言った。一睡もしていないというのに疲労の影すら見せていない。


「ねぇ、お姉さん」


 それから凪咲はアナウンサーの方に笑顔を見せる。モンスターの残骸と魔法の跡を映した光景からカメラが移動して、凪咲に向く。


「アタシ、弱くないでしょ?」


 満面の笑みだというのにどこか圧を感じる。


「え、ええ。凄く、強い、のね……」


 そんな次元でないことは理解していたが、それだけしか言えなかった。


「ふふんっ。あ、そうだ! 素材は全部貰っていいって言われてたら回収しとかないと」


 凪咲は満足したようで、得意気に鼻を鳴らすと散らばったモンスターの残骸を浮かせて集めていく。三日三晩殲滅し続けるほどの素材量だったが、その全てを浮遊させてまとめていた。


「地形も直しといてって言われてから、えっとこうして……」


 強力な魔法は地形にすらダメージを与える。故に見る影もないほどボコボコになっていたのだが、土の魔法で均していった。


「じゃあアタシ達は帰るから」

「え、ええ……」


 凪咲は最後にアナウンサーへと手を振ってから、2人の足元に魔方陣を描いて姿を消した。それがテレポートの魔法だと気づくのに時間がかかることはなかった。


“ワールド・エンド使えたらテレポートも使えるよな……”

“無詠唱だったぞw”

“へんたいふしんしゃが湧かないわけだわ”

“返り討ちで済めばいい方”

“生きて帰ってこなくていいが、これないだろうな”

“流石に命が惜しいだろ”


 こうして凪咲は異次元の強さを世間に見せつけて、世界最強の魔法使いに名乗りを上げるのだった。

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