凪咲の強さが日の目を見た日①

 災害大行進モンスターパレードという現象がある。

 ダンジョンが出現してから発生し始めたこの災厄は、ダンジョンを放置することが発生すると言われていた。


 モンスターはダンジョンの中でのみ生まれ、ダンジョンの中で蔓延る。

 だがある一定期間ダンジョンを放置し続けると、ダンジョンの中で発生するモンスターが多くなりすぎるせいか、モンスターが群れを成してダンジョンの外へ這い出てくることがある。


 それが災害大行進モンスターパレードという現象なのであった。


 故に探索者管理協会は自国のダンジョンがいつ誰に攻略されたか、どれくらいの頻度で探索者が入っているかを把握・管理しなければならない。


 この現象が判明した当初、突如として未発見のダンジョンからモンスターの群れが外へ出てきて通り道にあった村、町をいくつか滅ぼして阿鼻叫喚となった事態があった。

 それからいくつか繰り返した後、ダンジョンを放置しすぎるとそういった異常が発生することを突き止めた。


 ただそれでも、深層の攻略は難しい。歴戦の探索者パーティですら深層を突破してボスまで到達するには何度も挑戦を繰り返して調整していかなければならなかった。


 つまり、この災害を未然に防ぐだけの人手が足りなかったのだ。


 だから今こうして、災害は起こっていた。


 ダンジョンから溢れ出るモンスターの大群。彼らがどこを目指しているのかは定かではないが、モンスターは群れとなって行進する。

 通り道にあるモノは全て蹂躙して。


 ダンジョンの入り口にいる協会の職員が異常を察知して避難警報を発令してから約3時間。

 山奥にあることから探索者が寄りつかない傾向にあったため放置されていたダンジョンから、モンスターの大群が侵攻してきた。


 周辺に人里がなかったため人的被害は出ていないが、木々を薙ぎ払ってモンスターの大群が突き進む光景は恐怖でしかない。


 テレビ局はここぞとばかりにヘリを飛ばして、侵攻してくるモンスターの様子を映し出す。


「観てください! モンスターの大群が迫っています! またしても起きてしまいました! 災害大行進モンスターパレードが!!」


 テレビ局は地上波と配信サイトの両方で中継を流して、全国の人々に現状を伝える。

 それはテレビ局としての使命でもあるが、わざわざ危ない場所まで近づいて報道するのには別の理由もあった。


「探索者管理協会はなにをしていたのでしょうか! この最悪の事態を防ぐために存在しているのではないでしょうか!? 今正に、協会の失態が露わになっています! あのモンスター達が人々を襲い、犠牲者を出すようなことがあれば、探索者管理協会はどのようにして責任を取るというのでしょうか!!」


 ヘリに乗って叫ぶ女性アナウンサーがカメラの向こうに訴えかける。


 そう。彼らは探索者管理協会を非難したいのだ。元々テレビ離れの傾向はあったが、ダンジョンの出現とダンジョン配信の流行により一段と深まった。今やテレビは風前の灯とも言われている。それだけなら協会を目の敵にする理由は薄いのだが、テレビという都合上リアルなモンスターの死骸を映すことは難しい。子供や老人に対して刺激の強い映像となってしまうからだ。そういった都合を受けていながら、配信や動画は誰もが許可されている。そこに至るまでに探索者の総数を増やしたい探索者管理協会の戦略と配信に人を持っていかれたくないテレビ局の策略とが入り混じり、時代の敗北者となったのが現状だ。


 探索者管理協会にテレビ側の人員を送り込むか協会の権力を失墜させるか、といったところで躍起になっているのだった。


 しかも、今はテレビ局にとって絶好の機会。


 たった10歳の幼い子供2人をダンジョンという死地へ送り込むというとんでもないことをしでかしてくれたのだ。


 配信を観ていない者はその情報だけで協会を批判して、倫理観などを振り翳して炎上へ持っていった。それでも協会の主張は変わらなかったので、これを機に非難を集めて追撃しようという目論見があった。


「皆様、見えますでしょうか! この惨状を引き起こしているにも関わらず、協会は探索者を集結させておりません! 大群の進行方向には探索者の姿が……いえ、人影があります! 肉眼では見えませんが、2つの影があるようです! 探索者でしょうか!? この事態にたった2人の探索者しか派遣できないとは、協会の存在意義が問われます!!」


 大群に対抗するため、こういう事態に陥った時大勢の探索者が進行方向で待機しているというのはよくあることだった。しかし今回はぽつんと見えたたった2人のみ。


 テレビ局はチャンスと見て近場にヘリを着陸させ、探索者に話を聞きに行くことにした。


 彼らから協会に対しての不満などを引き出せれば、いい追撃になると考えたのだ。


「え……?」


 だがそこにいたのは、2人の幼い少女。


 今話題の炎上材料、奏と凪咲であった。


 思わぬ事態に驚きはあったが、逆に好機だと切り替える。もし協会が話題の2人をこの場に派遣したのだとしたら。この2人から怖い、無理矢理にといった言葉を引き出せたなら。


 間違いなく協会は失墜する。


 配信もされているため、いつも通りコメント欄も動いていた。


“あ、奏ちゃんと凪咲ちゃんだ”

“協会としても要請はするでしょう”

“流石にあの数は厳しそうだし、凪咲ちゃんが魔法で援護しながら戦う感じかな?”

“子供に戦わせるなんて!”

“協会は非道だ!”

“大人だからって奏ちゃんに勝てるとは限らないんだよなぁw”


 2人の配信を知っている視聴者と、知らないため協会を批判する者で分かれていた。


「ふ、2人はどうしてこんなところにいるの?」


 アナウンサーの女性は屈んで視線を合わせると、マイクを向けて尋ねる。最初に引き出したい言葉があった。


「? 協会のおじさんにモンスターたおしてって言われたから」


 凪咲はなんでそんなこと聞くの? とばかりに首を傾げて答えた。


「み、皆様! 聞きましたでしょうか!! なんということでしょう!! 探索者管理協会は10歳の子供をダンジョンへ行かせるだけでなく、災害大行進モンスターパレードにも向かわせようというのでしょうか!!」


“アナウンサーうっきうきで草”

“そら絶好の非難材料だからな”

“協会も火に油を注ぐようなことしなきゃいいのに”

“ふざけるな!”

“子供2人に任せるなんて!!”

“協会は非人道組織だ!!”

“うーんこの”

“まぁまぁ、見ててやろうぜ”

“折角2人が地上波デビューするんだし、度肝抜かれるところを見物してやろう”


 深層ですら苦戦する様子のない奏が戦うところが映されれば、嫌でも観ている人達は理解するだろうと思っていた。

 既に知っている視聴者は高みの見物をし始めている。


 ただ、全体の声としては目論見通り協会を批判する声が大きくなっていた。

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