【初配信】奏&凪咲のダンジョン配信デビュー!!!②

「だれかいるみたい。助けに行った方がいいかも!」

「めんどう」

「いいから行くよ!」

「わかった」

「え、ちょっとー!!」


 凪咲から言い出したことだが、奏が凪咲の手を引いて走り出したせいでぎゅんとスピードが上がる。


“速い”

“うっそ……”

“マジでか”

“車乗ってる時みたいに景色流れてくんだが”

“手に持ってるにしては揺れ少なくて助かった”

“ドローンとか?”

“小学生で持ってるわきゃない”


 奏の走る速度に驚いているコメント欄に、凪咲は言う。


「奏もけっこう速いよねー。アタシ達の学年では2だけど」

「うるさい」


“これで2番目?”

“なに、君達の学校って化け物小学校なの?”

“そんな小学校はねぇw”

“最近の子供は身体能力が上がってるとは言うけど、ここまでじゃないよね?”

“うちの子は中学生だけどここまでじゃない、他の子もそう”

“やっぱこの子達おかしいんじゃ……?”


 視聴者が2人の異常性に気づき始めた頃、ようやく悲鳴の発生源に到着した。


「クソッ!! こんなところでツインズデビルが出るなんて、なんてツイてないんだ!!」


 そこには、2体のモンスターと5人の男女がいた。

 モンスターは瓜二つの姿をした、白い悪魔と黒い悪魔。常に一緒に行動することから双子の悪魔と呼ばれていた。

 5人の男女は武装した探索者のパーティ。年齢は20代半ばほど。しかし内男女1名ずつが負傷して倒れている。その1人が法衣を纏っているため、ヒーラーが倒れてしまっている状況のようだ。


“あれって……”

“深層攻略パーティの1つ、八咫烏じゃね?”

“5人しか揃ってないのか”

“気紛れ星人も混じってるしな”

“5人ならギリ深層いける感じだったんだけど”

“ツインズデビルって極稀にしか出現しない、深層でも強いモンスターだったような”

“逃げて2人共!!”


「すみませーん。大丈夫ですかー?」


 コメント欄が騒然とするのも構わず、凪咲が声をかけた。


「…………は?」


 だが、前線にいた男性はこの場ではあり得ない少女の声を聞いて、振り返り、そして唖然とした。


“気持ちはわかる”

“そらそうなる”

“余所見は危ないって!!”

“避けろ!!”


 そんな隙をモンスターが見逃すわけもなく、彼に双子の片割れが襲いかかる。ハッとして身を躱すも、顔を浅く切り裂かれてしまった。


「き、君達! 子供がこんなところになんでいるのか知らないが、早く逃げるんだ!!」

「子供!? え、なにこれ!?」

「話は後だ!! 私達が時間を稼ぐから逃げなさい!!」


 彼が気づいたことで他のメンバーも気づき、驚愕を露わにする。彼らは深層攻略を生業にする探索者パーティの1つであるが故に、深層の危険性を充分に理解していた。だからこそ、命に代えても逃がさなければという思考が働く。


「きっていい?」

「ダメだよ、奏。探索者のルール。横取りはダメなの。あの人達が戦ってるから」


“逃げてって言われてるだろ”

“逃げろって!!”

“あれが危険なモンスターだって知らないのか?”

“やっぱり迷い込んだ子供なんだ”


「いいから逃げなさい!」

「なんで逃げないとダメなんですか?」

「なにを言っているんだ! このモンスターは危険だ! ……ぐっ!」

「えっと、もしかして助けてもいいのかな?」

「なにを言っているんだ!?」


 パーティのリーダーを務める彼であっても、2人の言葉は意味がわからなかった。いや、頭が理解しようとしなかった。

 そんな時、奏が凪咲の袖を引っ張る。


「凪咲、たおれてる人いる。そろそろ危ないかも」

「うん、だよね。ごめんなさい! 先にあやまるから横取りなんて思わないでください!」

「だから早く逃げろと言って――ぐぁ!!」


 2人との会話で集中が削がれていることもあってか、遂に彼が悪魔の爪に裂かれて倒れた。


“マズいマズい!!”

“クソ、相手が悪い!!”

“八咫烏には悪いけど、犠牲になってもらってる内に逃げて欲しい”

“子供優先は、流石に恨まないだろ”


 前衛が彼のみだった状況のため、残るは後衛2人となり絶望的な戦況となった。

 双子の悪魔は互いに手を翳してそれぞれ炎と氷を放出し、ぶつけ合って溶け合わせることで1つの魔法として構築する。炎と氷の融合魔法、フレイムブリザードだ。


 パーティも、そして見ている2人も巻き添えにして消し飛ばす威力を持った一撃が放たれようとしている。


 視聴者も、もう終わったという絶望ムードに包まれていた。


「凪咲」

「うん。ばっちりカメラに映ってるよ」

「ん」


 だが、2人は違う。

 凪咲が映しているカメラは完璧に奏の姿を後ろから映していた。


 奏は腰に提げた剣の柄に手をかけて構える。そして、振り抜いた。


「んっ」


 剣が届く距離ではない。だが彼女の振った剣の軌道上にいた2体の悪魔は、剣を振った瞬間に呆気なく切断された。


「は……?」


“え?”

“は?”

“理解できん”

“意味わからん”

“1発……?”

“ってか今の斬撃?”

“違うだろ、飛んでなかったじゃん”

“じゃあなんだって言うんだ?”

“飛ばないのに届く斬撃”

“ラグなし斬撃……ってコト!?”


 深層探索者も視聴者も、等しく呆然とした。

 齢たったの10しかない少女の放った斬撃が深層のモンスターを容易く両断したことに、そして斬撃が剣の振りから一切のラグを生んでいないことに。


「やった! 今度はちゃんと映ってたよ!」

「ん」


 2人は倒したことではなく、カメラに映っていたことを喜び合っている。

 まるで、モンスターを倒すこと自体はなんの苦労もいらないとばかりに。


「あ、そうだ。応急処置しないと。アタシ、あんまり回復の魔法使えないから完治はできないかもだけど……」

「……えっと、いや、充分だ。彼女を先に治してくれ。彼女がいれば、完治させられる」

「そうなんだ。じゃあ先にあの女の人を治しますね。――治ってヒール


 現実を受け止め切れていなかった彼だが、染みついた探索者としての思考が自然と返答させていた。


 その後、目を覚ましたヒーラーの女性が驚く間もなく回復をして、彼らパーティは撤退していく。


「じゃあアタシ達は行きますね! ばいばーい!!」


 平然と先へ進んだ少女2人を置いて。

 彼らを責める声は、なにも知らない者達からたくさん届くことになる。

 だがなんの弁明もできなかった。しなかった。


 探索者としての実力差がありすぎて、守る側であるなどと口が裂けても言えなかったのだ。


「……俺達、解散するか」

「……そうね」


 圧倒的な才能を見せつけられた彼らは、すぐに八咫烏の解散を発表することになる。

 いや、彼ら以外にも上を見ていた者の何人かは2人に、と言うか奏の強さに心折れて引退する者までいる始末だったのだが、それはまた別の話。

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