【初配信】奏&凪咲のダンジョン配信デビュー!!!①
約10年前。
ダンジョン攻略が活発になってから時が経ち、深層攻略に入るパーティも多くなっていた頃。
新しく設立されたチャンネルが唐突に、配信を開始した。
その配信画面には、1人の幼い少女の顔がドアップで映っている。
「これで映ってるのかなー?」
「さあ?」
「もっと興味持ってよ!」
「興味ない」
赤茶色の髪をツインテールにした少女と、彼女が振り返って離れたことで奥に映った白に近い灰色の髪を持つ無愛想な少女。
そして2人の後ろに映る背景は、整頓された石壁だった。
明らかに幼い少女2人が顔出しで配信をすること自体異常なことだが、なにより場所がダンジョンらしきところというのが異常さを増している。
初配信を漁る視聴者も多く、更には配信画面に幼い少女が映っているという事態に、初配信でありながら人が集まり始めていた。
「あっ。人が観に来てるよ、奏! ほら、笑顔笑顔!」
「いらない」
「もうっ! えっと、観に来てくれてありがとうございます!!」
奏は無愛想にそっぽを向くだけで、凪咲が笑顔をカメラに向けた。
“子供?”
“えっと……”
“なにこれ”
“子供が顔出しはマズいでしょ”
“見た感じ小学生くらいか?”
“親御さんはどこ?”
“保護者いないの?”
集まった歴戦の視聴者も、流石に困惑している。小学生で動画や配信をすることはあるが、保護者がプライバシーを守るために色々と工夫を凝らしている。インターネットは便利ではあるが、悪意ある者にも目につきやすいという問題がある。
ダンジョンが出現して技術が変化した現代においても、それは変わらないのだ。
「あ、あれ? なんか思ってた感じとちがうかも……。あっ、そうだ! 企画説明しないといけないんだ! 配信ではみんなやってるもんね!」
凪咲は首を傾げると、わかったとばかりに顔を輝かせた。
“なんか違くない?”
“2人共かわいいねぇ”
“危ないおじさんも湧くからとりあえず配信切って”
“場所特定される”
「えっと、ここは原宿のダンジョンです! タイトルってところに書いたもんね、ダンジョン配信デビューって!」
だがコメント欄の心配も他所に、凪咲は現在位置を告げてしまう。ただそれは、視聴者にとっては予想外のモノだった。
“え?”
“ダンジョン?”
“危ないって”
“マズいでしょ”
“お父さんかお母さんがいるのかな?”
「お父さんとお母さん? なんで? ダンジョンに連れてきたら危ないですよ?」
“そういうことじゃない”
“なんかさっきからズレてるな”
“今おじさんが迎えに行ってあげるからね!”
“こういう変態がいるからさっさと戻ってきて!”
「迎えなんていらないですけど、来れるなんて凄いんですね! 深層に来れる探索者って少ないって聞いてたのに!!」
凪咲は危険性も知らず、無邪気な笑顔でコメントを拾った。そこで更なる爆弾発言が飛び出す。
“深層!?”
“え?”
“どゆこと?”
“ダンジョンの深層に子供が?”
“流石に嘘”
“大人を騙そうったってそうはいかない”
だが視聴者も彼女の言葉を鵜呑みにすることはできなかった。
日本国内に限定すれば、深層に辿り着ける探索者はおよそ50人程度と言われている。日本の探索者の総数が数十万人規模であることを考えれば、1%にも満たない。選りすぐりの超エリートのみが、深層に踏み入れることを許されている状態だった。
「信じてもらえないみたい。どうしたらいいのかな?」
「モンスターとそうぐうすればいい」
「あ、そっか! モンスターの種類でどこなのかわかるもんね! じゃあ先に進めばいいんだ!」
“あ”
“待って待って”
“違う”
“怒らないから今すぐ戻りなさい”
“ダンジョンに入ってすぐのところなら出られるでしょ?”
“ヤバいヤバい……!”
視聴者に現在位置を信じさせるために、2人はダンジョンらしき場所を奥へと進み始めてしまった。
「って、奏!? ちょっと待ってよ!」
というところで奏が走り出してしまい、見えない距離まで離れてしまう。
“えっ?”
“はっや”
“もしかしてマジでダンジョン?”
“でも深層なわけはない”
“深層の探索者ならもっと速いはず”
奏の走る速さに驚くが、それでも信じることはできない。
「もーっ! カメラ持っていくのアタシなんだから! 置いてかないでよー!!」
奏のいなくなった画角に、凪咲の声が響くのだった。
それから凪咲が持っているカメラがダンジョンを進む映像が流れて、やがて奏の姿に追いついた。進む間もコメント欄は必至に凪咲を引き返させようとしていたが、奏が先に進んでしまっていることからも無理だった。
「はぁ……はぁ……! やっと追いついた! もう、置いていかないでってば!」
「凪咲が遅いのが悪い」
「アタシは奏と違って走るの苦手なんだからね!?」
ダンジョン内とは思えないほど呑気な会話をする2人。
そこでカメラが奏ではなく、奏の傍らに倒れ伏したモノを映す。
「モンスター見つけてたんだ」
「ん。ドラゴンニュート。しかもサファイア色だから、原宿の深層に来てる証拠になる」
「だね!」
“え?”
“は?”
“待って?”
“今倒れてるのって、サファイアドラゴンニュート、だよな……?”
“私にもそう見えます”
“宝石のように輝く鱗と2足歩行のドラゴンみたいな見た目、間違いない”
“マジかよ……”
“いや、でも倒したんじゃなくて元々倒されてた可能性もある”
“でも場所は確定じゃん”
“ヤバいよ、引き返さないと!!”
原宿のダンジョンは通常のモンスターからボスに至るまで、2足歩行で翼の生えたモンスターという特徴がある。
今奏の傍らで頭から真っ二つになって倒れている、サファイアの鱗を持つ人型蜥蜴に蝙蝠のような翼が生えたモンスターは、今のところ原宿のダンジョン深層でしか確認されていないモンスターであった。
「うーん……。やっぱりカメラに映ってるとこで倒さないと信じてもらえないみたい。奏が先に行っちゃうからだよ!」
「めんどう」
「そう言わないで、今度はいっしょに行こうよ! 素材取ったら今度こそカメラに映して倒してね!!」
「わかった」
“全然引き返す気がない”
“早く引き返してくれ”
“誰か迎えに行ってやれないか?”
“バカ言うな、深層に行けるヤツなんかほんの一握りだぞ”
“協会に連絡してはみた”
“ナイス”
“どうにか連れ戻さないと”
本人がコメントの忠告を聞かないとわかると、視聴者達は第三者の救援を期待する方針になった。
だが深層に行ける探索者は数が少なく、また協会は2人のことを知っているため頼まれても救援などする気はないのだが。
2人が進んでいく中で、
「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
遠くから男の悲鳴が響き渡るのだった。
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