【初配信】奏&凪咲のダンジョン配信デビュー!!!③

 やがて、2人はダンジョンにいるモンスターを一刀の下に切り伏せてあっさりとボス部屋まで辿り着いてしまった。

 その頃には視聴者達も心配以上の興奮で染まっていた。


 自分達が歴史が変わる瞬間に立ち会っていることを自覚したのだ。


「じゃあボスとも戦ってみよー!」

「ん」


“ここまで無傷”

“というか一振り”

“奏最強! 奏最強!”

“奏ちゃん強すぎてヤバwww”


 ようやく凪咲が思い描いていた盛り上がるコメント欄に近づき、上機嫌にボス部屋に入っていく。


 ボス部屋で待つは、巨大なドラゴンニュート。道中でも出てくる2足歩行のドラゴンだ。

 黄金の鱗を持つ派手な見た目と、薙刀を持ち振り回す豪快な姿が人気のボスでもあった。


「えんごした方がいい?」

「いらない」

「そっか。じゃあよろしくね」

「ん」


 ここまで奏1人で戦ってきているが、ボス戦になってもそれは変わらない。


“やったれ!”

“ボス戦はここまでとは違うぞ”

“大丈夫かな?”

“本気の戦闘が見られるかも!”


 黄金の竜人、ゴルドラニュートと名づけられたボスは挑戦者を視認すると薙刀を構えて吼えた。


「うるさい」


 奏は一切怯まず、剣を一振りする。これまでならモンスターは一撃で切り裂かれて終わっていたのだが、ボスは格が違う。同時に薙刀を振るうと奏の放った斬撃と打ち合った。


“なに!?”

“奏ちゃんのラグなし斬撃を受けた!?”

“ソロ攻略できるような強さのボスじゃないだろ”

“凪咲ちゃん魔法使えるみたいだし、援護してあげて!”


 その後も剣を振るう奏だが、ボスは薙刀で受ける。更に肉薄してきて薙刀を振り回し攻勢に出た。奏はひらりと攻撃を躱しているが、攻撃は受けられ力で打ち合えるほどのパワーは持ち合わせていない。


“苦戦してない?”

“マズいって!”

“やっぱボスは1人じゃ無理だって”

“調子乗ったな”

“凪咲ちゃん!”


 コメント欄が騒ぎ出す。


「もーっ!! 奏ったら! してないで真面目にやってよ!!!」


“え?”

“……は?”

“今なんて?”


 彼女は何度目かもわからないが、コメントの心配とは別のことを言った。


「奏が真面目にやらないから苦戦してると思われてるじゃん!! さっきまで盛り上がってたのに今盛り上がってないもん! 奏が真面目にやらないからぁ! ちゃんと戦わないとダメなんだよ!!」


“待って待って”

“違う”

“誤解してる”

“深層のボスと1人で戦ってる時点でおかしい”

“奏ちゃんが強いのはわかってるから”

“苦戦してるから助けてあげてって言ってるだけだからね?”


「奏のバーカ! 弱いって思われても知らないんだから! こんなヤツさっさと倒してよ!!」

「はぁ」


 凪咲の子供っぽい罵倒に呆れたように嘆息してから、奏は剣の柄を両手で握った。


 その瞬間、ボスがなにかを察したように薙刀へと魔力を流し込んで金色のオーラを纏わせて振り被る。


「んんっ」


 奏は両手で剣を振るい、敵は薙刀を振るって黄金の斬撃を放った。


 だが奏の振るった剣の直線状にあったモノは黄金の斬撃であろうと、そしてボスの強靭な肉体であろうと両断され、血が噴き出す。


 呆気なく、一撃で、ボスは倒された。


“ええええええええ!!!?????”

”何度驚けばいいかわからん”

“異常”

“おかしいって”

“そんな程度じゃ収まらないくらいの化け物”

“これで小学生ってマ?”

“すご”

“ヤバい”

“イカレてる”


 単独で深層のボスを討伐した最年少記録は、この時から約40年前に深層ソロ攻略配信で人気を博した剣のみで戦う現役高校生探索者の15歳だった。

 深層ソロ攻略の最年少記録もそうだったが、今回は途中からだったため単独のボス討伐のみではあるが。


 最年少記録が塗り替わって10歳になった瞬間である。


「最初っからそれくらいやってよー」

「めんどう」

「そうやってサボるの良くないよ?」

「凪咲だって今回なにもしてない」

「カメラ回しててそれどころじゃなかったの! 今度はアタシが戦うから奏がカメラ持っててね!」

「やだ」

「なんで!?」

「めんどう」

「そればっかり!」


 そんな歴史的瞬間を生み出した2人は、呑気に言い合っていたのだが。


 これが日本の探索者の上位陣を一瞬にして食い破り、ダンジョン攻略の常識を塗り替え、一部深層探索者の心を折り、ダンジョン配信者にも引退者を出し、配信初日にしてチャンネル登録者数100万人を超えた。


 日本が誇る最強探索者コンビチャンネルに躍り出た化け物2人の初配信であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る