【雑談】ダンジョンTAの記録更新をしようとしたんだが
富士山のダンジョン攻略後、とある牙呂の配信にて。
「おーっす。早速だが本題だ。まずはこれを見てくれ」
牙呂を映す枠を右下に配置して、被らない位置に大きく別の枠を用意している。黒い背景に横向きの三角、再生マークがあった。
“おっすおっす”
“おーっす”
“いきなりだな”
“動画?”
コメント欄もやや困惑気味だったが、牙呂が妙に険しい顔をしていたのでとりあえず彼の言う通り動画を見ることにした。
流れるコメントで動画について言及する声が多くなってから、牙呂は再生ボタンを押す。
全体の時間からして短い動画だ。
ダンジョンの入り口、看板に書いてある原宿という文字を映したところから始まり、早速入っていく。音はなく、声もない。ただ映像を撮影していただけなのだろう。
「原宿のダンジョンは最速記録が15分24秒。オレが持ってるヤツな。これはTAの中でもモンスターガン無視の方の記録なんだが」
ダンジョンの攻略タイムを競う、
当然のことながら、速ければいいというわけではなくルール、枠組みが設けられている。
主に道中のモンスターを無視するか、しないで倒すかの2通りあった。
それ以外にも縛りを設けた部門はいくつかあるが、深層になるとそういった部門が達成できない可能性があるため部門すらないことも多いが。
動画でダンジョンの中に入った後、ぐっと溜めたかと思うとぐにゃりと映像が歪んで流れていき、まともな映像が映ったかと思えば巨大で荘厳な扉が眼前にあった。
その間10秒。
“ん?”
“え?”
“なにこれ”
“全然見えなかった”
“ちゃんと撮れてなかったの?”
“ボス部屋前じゃん”
“場面飛んでて草”
“撮影失敗かw”
コメント欄は動画が飛ばされたのかと思って笑う。
動画内ではボス部屋の扉を押し開き、奥にいるボス……の姿が完全に見える前に身体を滑り込ませてまたぐにゃりと映像が歪んだかと思うと、バラバラに切り刻まれたボスの無惨な姿があった。
“え?”
“またかw”
“いいとこでなぁ”
“これはダメですね”
“映像にちゃんと残してないと……”
そうして開いた奥の部屋の転移魔方陣で戻ってくる。
なんと、たった24秒での攻略だった。
ダンジョンに入ってから転移魔方陣で戻ってくるまでの時間で競うダンジョン踏破部門であればその記録である。
だが動画や配信の場合、きちんと映像に残っていなければ公式記録として登録できない。
途中にあった映像の乱れがなければ全てのダンジョンにおいて最速の記録となったのだろうが。
「見ての通りだ。実はな、これ遭遇したモンスターを倒す方の記録なんだよ」
牙呂は動画が終わって渋い顔をしながら告げる。
“えっ”
“は?”
“全然見えなかったが”
“ホントに倒してたんか?”
“事実だとしたら凄いが”
“映像に残ってないんじゃな”
視聴者はてっきりモンスターガン無視で高速移動をしていたのかと思ったのだが。
「しかも録画自体はできてたんだよ。動画時間もオレが測ってたタイムウォッチと一緒だったしな。……ただ、肝心の映像が追いついてなかった」
彼は眉を寄せて言う。
「『韋駄天』使って最高記録更新しようとしたらこれだぞ!? 最先端のゴーグルカメラ買ってウキウキで挑んで、時間見てやったぜと思ってたのにこれだ! 畜生ッ! これじゃあ本気の速さで挑めねぇじゃねぇか!!」
渾身の(机が壊れない程度の)台パンをかまして悔しがる。
“草”
“最先端のヤツって言ったらフレームレート何十万とかじゃなかったっけ?”
“それでも追いつけなかったかw”
“台パン助かる”
“実際10秒で上層から深層までモンスター倒しながら行けるんだったらヤバい”
“化け物すぎたかw”
“時代の先を行きすぎなんだよなぁ”
“技術が追いつけてない速さ”
新たに『韋駄天』という速度を手に入れた牙呂だったが、その力をカメラに収めるのはまだまだ先になりそうだった。
「つーわけで、癪だが『韋駄天』なしで記録更新してくわ。配信でやってくから通知をちゃんと確認しとけよ」
“了解”
“記録更新配信楽しみ”
“TA記録塗り替えまくったれw”
“『韋駄天』も見たかったな”
「『韋駄天』はカメラに映らねぇしまた今度な。ロアのカメラなら映るかもしれねぇから今度試してみるわ。まぁオレの場合能力の詳細明かしてるしいいだろ」
彼ら6人は、未だに加護を見せていない。『韋駄天』と『夜叉』は最初に説明したため判明しているが、他はまだ勿体振っているところだった。
「そういや、そろそろ加護の強さを見せるための配信をしようかって話になっててな。オレらの間では確認し合ってて大体知ってるんだが」
“おっ”
“裏で見せ合ってるんかいw”
“裏山”
“見たい”
“どれだけ強くなったの?”
“加護自体の強さを知りたいところはあるよな”
「これまでじゃ考えられないくらいになってるとだけ言っておく。最初は凪咲が見せるらしいし、ソロでダンジョン挑むってよ」
“凪咲ちゃんからか”
“双璧対談でも言わなかったし、見せたい場所が決まってたんかな”
“楽しみすぎるんだが”
“世界が大注目する新たな力のお披露目だ”
「因みに、今オレらは富士山のダンジョンで最新の素材集めとかしてるから。協会に素材提供して日本の技術を底上げしてもらってる最中だ。一般に普及するのはまだ先だろうが、その辺も楽しみにしてりゃいい」
“とんでもないこと言ってて草”
“今世界各国が攻略しようと躍起になってるダンジョンを周回?”
“インフレが進むぞぉ”
“協会も日本最高の状態を維持したいんだな”
“ロシアは絶賛下層攻略中らしいしな”
“アメリカはヤバそう”
“中国は内輪揉めが怖いとこ”
「世界情勢、政治的戦略とかはぶっちゃけどうでもいいからなぁ。他国の探索者は気になるが。早く攻略してオレらにも挑ませて欲しいぜ」
牙呂はボヤく。
世界最前線に立っているが故に、新たな目標がまだないのだ。最速記録を更新しまくって世界最速に名乗りを上げる! のはいいのだが。
……当分、オレらが苦戦することはねぇだろうな。
強くなりすぎて自分達以外に張り合える者がいない状況というのも、少しつまらないモノだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます