振り返り配信中編
奏とコピー体が斬撃をぶつけ合う動画が流れ始める。
「ここまでは互角。ってか奏が剣士と戦ってここまでちゃんと勝負になったのって初めてか?」
「アタシ達でも奏が苦戦してるところなんてあんまり見てないもんね」
それは同感。幼少期から強かったので弱い時期すらほぼないという。
“やっぱあんまりないのかw”
“あったことが驚きだよ”
“配信では初めてかな”
“冷や冷やしたわ”
配信史上初の苦戦に視聴者は気が気ではなかったのだろう。俺としてはそういうこともあるかくらいに思っていたんだが。付き合いの長さか。
「で、ボコボコにされると」
「むぅ」
「さっきのお返しよ。というか、奏の場合はやっぱり魔力なのね」
「ん。魔力あったらもっと楽できる」
「強くなれるじゃねぇのかよ!?」
「? 強くなりたいと思ったことない」
“とんでもない発言飛び出してて草”
“強くなろうとしてなってないのか……”
“これが天才”
“確かに熱はないよな”
“それで世界レベルってどんな才能してんだ”
奏本人はこてんと首を傾げていたが、こいつがおかしいだけだ。
「奏が探索者になったのってマサ君に素材あげるためだもんねー」
「ん。マサが欲しい素材あるって言ってたから、ダンジョン行って取ってきたのが最初」
「6歳の時の話だっけか。急に言われたからびっくりしたが、懐かしいな」
“小学1年生で探索者になってたのか”
“よく許可取れたな”
“その頃からマサ第一主義なのねwww”
“2人の馴れ初めが聞きたい”
「奏が探索者になれた理由か」
「そんなの決まってるわよ。奏は幼いからって言われた時、『わたしよりつよいたんさくしゃがいるならあきらめる』って言って大人の探索者を全員ボコっただけ」
“化け物で草ぁ”
“大人の探索者相手に全戦全勝www”
実際化け物じみた強さだ。
動画が進んだので奏の新技? に注目を集める。
「実際よくわかんねぇよなこれ」
「はい、斬撃を飛ばさず剣に全部を込めたっていうのはわかるんですけどぉ」
「? そう」
「えっ? それだけ? 他になにしたの?」
「なにもしてない。全部を剣に乗っけて振っただけ」
“3人が困惑してらwww”
“理屈はわかるが理解はできない”
“全部を剣に乗っけるだけであんなことなる?”
“困惑してないマサが解説してくれるって!”
いや無理だが。俺が困惑してないのは、だと思ったからで。
「俺に解説求められても困るんだが。奏としては本当にそれだけで、事象としては、そうだな。飛ばしていた斬撃が凝縮されて物凄い切断力になってる。で、。半分ぐらい概念攻撃に近いと思うんだが、無数の斬撃っていう1個の事象に対して“斬る”という行為をぶつけたから、一太刀で霧散するんじゃないかなとは思う」
「あ、なるほどね。剣を振った箇所だけじゃなくて、たくさんある斬撃そのモノを斬ろうとしたから」
「へぇ……ってなるかぁ!! なんだその無茶苦茶理論!」
俺が考えを口にすると、凪咲からは理解を得られたが牙呂からツッコミを入れられてしまった。
“概念攻撃ってなんだ……?”
“概念を押しつける攻撃なんじゃね、知らんけど”
“遂に概念の領域に足を踏み入れたのか”
“意味わからんけど超強いってことでOK?”
“それくらいの理解でいた方が良さそうw”
説明しておいてなんだが、心情としては牙呂側だ。ただそう思わないと説明がつかないだけで。
「マサ、強い?」
「強いぞ」
「ん。褒めて」
「よくできました」
「マサに褒められた」
こんなんで良かったらしい。奏がにっこにこになっていた。
“にこにこの奏ちゃんすこ”
“マサがいると奏ちゃんの色んな表情見れていいわぁ”
“カナマサてぇてぇ”
概念を押しつける攻撃。奏であればどんなモノでも“斬る”ことができるようになり、常時防御無視の攻撃ができる。……とんでもない領域に足踏み入れたな。
“奏最強!”
“世界最強剣士の地位も近いな”
“概念を攻撃にするなんて聞いたことないしなwww”
“わからんよ”
“もしかしたら概念を素材にして武器造るヤツが出てくるかもしれん”
“特定のヤツしかできないwww”
時間も概念みたいなモノだし、できなくはないのかもしれないが。きっとまだ先の話だろう。
「奏ならやりそうだしとりあえずそれでいいんじゃない?」
「概念攻撃……いいなぁ。オレもやってみてぇ」
「ふふ、凄いですねぇ」
驚きすぎないのがこいつらのいいところだ。
苦笑しているが、絶対同じところに辿り着く。
だって、雲の上を見る目をしてないからな。
「そういや、奏が元々これできたんなら、なんで真似しなかったんだ?」
牙呂が言い出した。確かに、それは思う。
「そんなの決まってるでしょ」
ただ、俺もよくわかっていないことを凪咲はわかっているようだった。
「奏、マサ君の前でしか発揮できないパワーあるし。マサ君スイッチ押さないとできないことはコピーしてもできないんじゃない?」
「なるほど~」
「いや、さっぱりわからんが」
「マサがいれば無敵」
「理屈がわからん……」
“男2人が困惑してらw”
“実際わからん”
“要はカナマサてぇてぇってことよ”
“草”
“マサスイッチを押さないとフルパワーが出せない、いやそれだと相手はコピーできちゃうのか?”
“マサスイッチを押すことで恋する乙女の不思議パワーを発揮して全力以上の力を出せるということだな”
“10年来のファンですら知らない新事実www”
冗談なのか本気なのか、とりあえずそういうことにしておこう。コメント欄が盛り上がってれば多分、配信的には正解だ。
「次はぁ、私の番ですねぇ」
奏の動画はとっくに終わっているので、桃音の動画に切り替える。
「ま、最初は互角と。つっても余波で人体消し飛ぶような威力の攻撃がぶつかり合ってるんだけどな」
「アタシはそれより、相手に表情がないから無表情の桃音を初めて見たかも」
「ふふふ〜。笑顔は大事、ですからねぇ」
最初のところはほぼ雑談。
「相手の動きが速くなってボコボコ」
「ボコボコっていうよりぐちゃぐちゃ?」
「惨い表現に直すな……。オレは今でも心臓に悪ぃんだから」
奏の言葉に凪咲が乗っかり、牙呂が顔を顰める。
確かに友人の身体が飛び散る瞬間なんて見たくはない。
“ここ凄いひやっとした”
“嫌な感じしてたな”
“治しても治しても吹き飛ぶ桃音ちゃんなんか見たくなかったよぉ;;”
“思いっ切りグロ映像だよな”
戦況として考えるなら絶望するのも当然の流れだ。ただまぁ、桃音の真髄はぱわーではなく回復魔法なのだが。
「これ! この魔法なに!? 見たことも聞いたこともない」
凪咲が桃音の魔法に食いついた。
凪咲はほぼ全ての魔法を暗記しているので、彼女が知らないということは、という理解が視聴者に広まっていく。本人が気になるっていうのもあるだろうが。
「この魔法は私が考えた新しい魔法ですぅ。回復魔法、生命回帰」
俺達はある程度わかっていたことではあるのだが、コメント欄は大いに盛り上がっている。
新たな魔法、というのが珍しいのだろう。そもそも魔法の定義が「魔力によって想像した事象を再現すること」なので、実は魔法を発動する方法については決まり切っていない。ただ魔力が世の中に現れた当時に魔法開発が進み、粗方網羅されている。それから体系化するために発動方法ではなく名前を統一する動きがあって、今に至ると。
だから凪咲は自分が一番その魔法をイメージしやすい詠唱を行い、皆が知る魔法を発動している。
「回復魔法? 攻撃じゃなくて?」
「はい〜。あれはただの回復魔法ですぅ。皆さんご存知でしょうけど、回復魔法と一口に言っても回復方法は大きく二分されるんですぅ。“巻き戻し”と“再生”ですねぇ」
桃音が視聴者に向けて説明していく。
「私が得意なのは再生の方で、傷を負った時自動で完全な状態に再生するようにしてますぅ。けど生命回帰はもう一方、巻き戻しでしてぇ」
再生は欠けた部位を新たに生やすような回復のし方をする。欠損も瞬時に治るが、今回のように血肉を撒き散らす事態にもなりかねない。
巻き戻しは欠けた部位があれば元の状態に巻き戻す。ある種の時間操作だ。ただし欠けた部位がなければ巻き戻せないという欠点があるため、桃音はあまり使わない。血など細かなところは補完してくれるが、喰われたら終わりだからだろう。
「生命って、生まれてから大きくなっていくじゃないですかぁ。この魔法はそんな生命の時間を巻き戻して、誕生する前の状態にしちゃう魔法なんですぅ」
「え」
「だから消滅してたんだな」
「はい〜。巻き戻しの回復魔法には巻き戻す状態の制限がありますけどぉ、生命回帰はその制限をなくした感じですねぇ」
にこにこと語っているが、実に恐ろしい内容だ。それを思いつく思考も、実践する実力もではあるが。
「それって対人戦最強じゃない!?」
「人は消えちゃいますねぇ」
“ひぇ”
“回復魔法の括りでいいんかそれ”
“生まれる前まで戻されて消える、と”
“怖すぎて草も生えない”
「でもダンジョン内のモンスターは基本的に突如生まれてきた存在なので、通用しないんですよねぇ。今回の子が最初に産み落とされていたので、通じたんですぅ」
「おおう……。流石にボスを瞬殺しまくれるような魔法じゃないか」
ボスを瞬殺できる手段なんて、圧倒的強さで相手が確実に倒せる攻撃を先に当てればほぼ一緒だろうに。
「でもこれでコピーの特徴がはっきりわかったね。桃音があの戦いの中で創った新魔法をコピーしてこなかったってことは、コピーしたのは戦い前までのアタシ達の性能だけってこと。つまり今回のボス戦と言うか試練は、戦闘前の性能足すなにかを持った自分と同じような相手に勝つために成長できるかっていうモノだったことだね?」
凪咲が結論を出す。
「だろうなぁ。しかも欲しいと思ってるモノを持ってきてやがるから、欲しいけどすぐには手に入らないモノを持ってる格上相手に今の自分がどう勝つかってのも含まれたと思うぜ」
「面倒だった」
牙呂の推測にも一理ある。
ここに辿り着いている時点で、探索者としては一流だ。他のダンジョンの深層をソロ攻略するなんて当たり前の次元に到達しているレベルだろう。正直なところ、金銭面だけを考えるならそれだけで充分すぎる。それより上に挑む理由は、あまりないと言ってもいい。
「じゃあ最後が俺の戦い、と。見所は……まだ紹介してない武器だな」
「そっちじゃねぇだろ」
牙呂にツッコまれてしまったが、動画が流れ始めたので観ていこう。
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