振り返り配信後編
俺とコピー体の戦いを映し出す。
「即興鍛冶も真似できるなんてねー」
「俺も驚いた。どこまで模倣してるのか気になった」
「お前だけ明らかに面白がってたもんな」
「昔造って壊れた武器が出てくるかもしれないんだから、楽しみになるだろ」
“相も変わらず武器マニア”
“マサはマサだったか”
「ほら、武器紹介の時間だぞ」
「おう」
牙呂に言われてそちらに集中する。
「まずは空間跳躍剣エルドミュア。剣を振ると持ち主が思った位置まで刃が跳躍して、離れたところにいる相手にも攻撃することができる。これは奏のラグなし斬撃を再現しようとして造ってた武器だな。もう1つあった振ると伸びる剣は伸びた後の耐久性が確保できなくて壊れちまったが」
“ここ一番の饒舌”
“武器語ってる時はうきうきしてんよなぁ”
「あー、オレ達の特技? を武器で再現しようとしてた時の産物か」
「よく覚えてるな。高校生の時か? あの頃は今より未熟だったから、結局ラグなし斬撃を完全に再現することができなかったから出来上がった武器だ。まぁ不意打ちにはいい武器なんだけどな」
今なら奏のラグなし斬撃を再現できるところまで至っている。ただ、切れ味が本物に劣るから再現する意味があるのかは不明だ。
「次が闇縛荊鎌ブラックローズ。これは植物を模しているが闇の武器で、地面から荊を生やして操ることができる。荊に捕まると各種能力低下やら状態異常がかかって、時間と共に累積していくから縛られれば縛られるほど相手は動けなくなっていく、と」
“闇深い武器な”
“あれ、牙呂君顔青褪めてね?”
“この武器のモチーフってあの子か?”
「この武器のモチーフは牙呂が昔追われてたヤンデレストーカーの子だな」
「思い出させんなよ。今でもゾッとするわ」
「牙呂って基本的に女運ないよね」
「うるせ!」
「そうですよぉ。信頼の置ける子にすればいいのに、ですよねぇ凪咲ちゃん?」
「なんでアタシ? ……まぁ、そうね。見ず知らずよりはいいんじゃない?」
牙呂はモテなくはない。誰かしら彼女がいることが多い。ただ、本人の運がな……。
因みに牙呂にトラウマを植えつけたその子は、牙呂を荊状の縄で縛って監禁、心が折れるまで色々としていたらしい。その時は凪咲の洞察力で監禁場所を割り出し、突撃して救助したという話だ。
俺は救助後の牙呂を治した桃音越しに事の顛末を聞いた。
“配信で聞いたことあったなw”
“ヤバいエピソードがぽんぽん出てくる牙呂の元カノの中で一番ヤバいヤツwww”
“そもそも牙呂を監禁してる時点で只者じゃねぇ”
コピー体の腕が増えたところまで動画が進む。
「あー……出た、一番の問題点。村正のコピー体だけ強化のし方おかしいんだよなぁ」
「腕が生えるとか狡くない?」
「私達にはなかったんですけどねぇ」
「誰にあってもおかしくないんだが、他4人の強化が足りない部分を補ってるってのに、村正だけ方向性がな……」
“意味わからんかった”
“他のコピー体見てもわからんかった”
“腕6本になったのなんで?”
理屈が通らない強化のされ方に困惑しているようだ。
「いや、足りない部分を補うっていう強化内容は合ってる。推測なんだが、俺達自身が『足りないと思っている部分』を強化してくるんじゃないか?」
「「「あー……」」」
なんとなく察したように声を上げる。
「俺は探索者じゃなくて鍛冶師。戦闘で足りないと思ったことはないからな。昔は造った武器を扱えなくて四苦八苦してたが、今では大抵の武器が扱えるし」
身体能力や魔力が足りないと思ったことはあまりない。
だからこそ、
「一番足りないと思うのは手かな」
“だから手が生えたと”
“手が足りないってそういう意味じゃなくね?”
“www”
「で、腕が6本になった相手にボコボコにされると」
純粋な手数を増やされると対処しづらい。相手が自分より遅ければ問題ないのだが、今回は同等だからな。
「マサ頑張って……」
「感情移入しすぎじゃね?」
「本人ここにいるのにね」
動画の中の俺を応援する奏に牙呂と凪咲が呆れていた。
“草”
“発言少ないと思ったら、食い入るように観てるだけかw”
“本人いるとこで応援するの草なんだが”
「あぁ、マサ……」
「相手が取り出したのが破壊崩滅拳メトロノヴァ。当てないと効果を発揮しない代わりに、当てれば絶大な威力を発揮する武器だ。破壊力を詰め込んだ武器で、当たると凄まじい衝撃波が相手を襲い、粉砕する。咄嗟に魔力を装備に流して強化してなかったらバラバラになって死んでたなー」
“2人のテンションの差よwww”
“奏ちゃんしょぼんとしてて草”
“笑ってるけど普通に4ぬ可能性あったんかw”
“よく生き残ったわ、ホント”
「これは桃音のぱわーを武器で再現しようとした武器だな。強いから使ってたんだが、2年前くらいに壊れちまった」
威力もさることながら、造形も気に入っている。いつかリメイクしたいな。
「で、死にかけた後は手数を増やすために血で刃を造って操る方にしたと」
「これは即興鍛冶でいいのか?」
「ああ。やってることは一緒で、こっちの場合は形を与えない代わりに使えるまでが早いが、形にするよりも攻撃自体の威力を高めることは難しい」
「充分強いじゃねぇか。これまで使えなかったわけじゃねぇんだろ?」
「ああ」
牙呂に頷き、しかし眉を顰める。
「ただな、配信映えするのがどっちかって言うと」
「「あー……」」
納得してもらえたようだ。
“使い勝手より配信映えか”
“配信者やってるとそうなる”
“実際武器にした方がカッコいい”
“最難関ダンジョンに来てまで配信映え気にしてたんかw”
「血だから画面に映ったけど、よく使う空気になると映りが悪くてな。今まで使ってこなかった。だから相手も使えたわけだが、血は出てこない。相手が空気に魔力を流す時間より、俺が血液に魔力を流して攻撃する時間の方が速かったってだけの話だ」
「マサカッコいい」
“奏ちゃんは画面に夢中、とw”
「終わった感出してるが、オレが聞きたいのはここからだ。なにやったんだ、これ?」
牙呂に聞かれたタイミングでは、画面で敵に魔力を流し込む姿が映し出されていた。
「即興鍛冶だな」
「え、敵で?」
「ああ」
「敵が生きてる状態で?」
「ああ、今回はな。普段使うなら弱らせて、とかもあるが素材が無駄になるからあんまり使わないかな」
「いや、そうじゃなくてだな。これができるんなら、敵を無条件で武器にできるんじゃねぇか?」
「ん? いや、素材にできなくなるから基本使わないが」
「……あ、そう」
“そういうことじゃねぇwww”
“できないとは言ってない”
「それより新しい武器? だ。変幻自在大器ミラージュカルム」
俺は今回手に入れた戦利品をカメラに映す。見た目はただの銀色の玉だが。
「即興鍛冶と同じ容量で自在に形を変えられる。形状なしの即興鍛冶をしてもこれなら画面映り気にしなくてもいいし、単純に幅が広がるな」
「嬉しそうなマサ可愛い」
「特殊能力を持たない代わりに形状に縛られない武器か。いいんじゃねぇか」
「ここに来ての戦力底上げはいいね」
“奏ちゃんは武器よりマサ、か”
“相変わらずで草”
“村正以外に使えるヤツがいるか微妙な武器”
“逆に言えば専用武器ってことか”
“深層に挑む前の強化ヨシ!”
振り返りは終わったので、次の配信の予告だが。
「配信はこれで終わるが、深層挑戦まではちょっと間を空けるつもりだ。思ってたより武器の消耗が激しいのと、ぶっちゃけ今回かなり苦戦したからな。色々と話し合いたい」
「そうね。前みたいな雑談とかゲームとかもあんまりしないかも」
「私もちょっと考えたいことがありますぅ」
「素材がいっぱいあるし、ひたすら鍛冶だな」
「ん。マサ頑張って」
“乙”
“また1つ強くなったってのに一切油断しないのがいい”
“お疲れ”
“次も楽しみにしてる”
“深層攻略頑張れ!”
いよいよ富士山のダンジョンも佳境に迫っているということで、コメントの盛り上がりも凄まじい。今回のシリーズ配信、累計スパチャ額はまだ見てないが、凄い額になっていそうだ。
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