振り返り配信前編
「つーわけで、準備進める前に下層のボス戦を振り返ってくぞ」
翌日の夜から配信が開始された。
新たな技も出たことだし、下層ボス戦の振り返り配信をしようというわけだ。
“うおおおおおおおおお”
“きちゃ”
“よくわかんないのもあったから解説求む”
打ち合わせ通り牙呂の戦闘から映像が映し出される。
「この後5回出てくるけど、ホントにコピーされてたよね」
「ああ。最初は互角だったしどうにか倒せねぇかと思ってたんだが」
「ん。同じことしてきて、他にできることある? って感じだった」
「途中から変わりましたよねぇ」
こちらも相手の出方を窺っていたわけだが、相手もそうだったのだろう。相手は余裕があるわけだから、同等の敵にどう攻める? と。
画面の中で牙呂が苦戦していく。
「あー、ここだ。速さが一緒で力がオレより強かったらそら強ぇだろうが」
「なんて言うか、足りないところを補ってるって感じだったよね」
「だな。もっとパワーがありゃなぁと思ってたわけだし」
「だから、斬られて負ける」
「まだ負けてねぇよ!? ってか全員ぶっ倒れてただろうが!」
“今観てもひやっとする”
“ほぼ同じタイミングで全員倒れたからなぁ”
“あ、終わったって感じだったわ”
“どの配信でも一瞬コメント欄止まってたからなw”
“そら衝撃映像だしな”
今だから落ち着いて観られるが、視聴者からするとかなり嫌な場面だったろう。実際厳しかったわけだし。
「んで、ここで逆転ってわけよ!」
「カッコつけすぎ」
「カッコつけすぎてダサい」
「言いすぎだろカナナギ!?」
奏も凪咲も牙呂には辛辣だ。……セリフとかもそうだが、確かにカッコつけすぎな気はする。
「俺達と違って牙呂は新しいことをしたって感じじゃないよな。まぁ他全て置き去りにする極限特化の超スピードではあるんだが」
「おう。連発はできねぇし直進しかできねぇが、速さだけならトップだって自負があるぜ」
言うだけのことはある。
強いて言うなら速さに注ぎ込むリソースを変えた、といったところだろうか。筋繊維を酷使したので、形と性能だけをコピーした相手では真似できなかった、と。
「ただな、1つだけ問題がある」
牙呂は急に真面目な顔をして言い出した。
なんだと思ったら、
「技名が決まらねぇ!」
そんなことかよ。
“草”
“そんなことだろうと思った”
“いつまでも厨二チックよなw”
“それが健太のいいところ”
コメントからツッコミを受けていたし、女性陣からの視線は明らかに冷めていた。
「駆け足とかでいいんじゃない?」
「どうでもいい」
「テキトーすぎんだろてめえら! いいんだよ、わかんないヤツには!」
凪咲と奏の返答に返しつつ、牙呂が俺の方を向いてきた。俺かよ。
「村正。お前だけが頼りだ」
「いや、俺別にネーミングセンスあるわけじゃないし」
「いっつも武器の名前とか決めてんだろ?」
「まぁ。ただ武器名はそのまんまだしな」
風の剣だったらストームブレイドとか。捻りはないと思う。
「それでもいいから! なんかつけてみてくれよ!」
「えぇ……。まぁ、つけても採用するかはお前が決めることだしな」
牙呂に押されて、俺は少し考えてみることにした。
「それっぽくて、牙呂に刺さりそうなヤツか……」
フィーリングで決めることが多いので、悩む時間は少ない。
「
ぱっと思いついたヤツを口にしてみる。
「おぉ……!!」
……刺さったようだ。牙呂がわかりやすく目を輝かせている。
“気に入ったみたいだなw”
“それっぽくて牙呂が好きそうなヤツだわwww”
キーボードを投影してもらい、コメント欄に漢字で連携しておく。
「よっしゃ! じゃあ今度からアレは瞬迅・絶無だ!」
牙呂のテンションが上がりに上がっていた。……喜んでもらえたなら良しとするか。
「はーい。じゃあ次 アタシねー」
「もうちょっと余韻! くれ!」
「1人で浸ってれば?」
“凪咲ちゃん冷たくて草”
“牙呂ちゃんと浸ってるwww”
今度は凪咲の番になった。
最初は魔法の撃ち合いから。
「凪咲ちゃんの相手は最初から別の魔法も使ってましたよねぇ」
「ん。凪咲が使える魔法の中で使ってた」
「うん。使った魔法だけだったら初見殺しの魔法でどうにでもなったのにさー」
“ダンジョンが皆の性能を読み取ってるんだなってわかった”
“声に出して情報連携するとこすこ”
“1人で戦ってても他の4人のこと考えてるんだよな”
戦法の幅広さで言えば俺と凪咲が挙げられる。だから初見殺しができるなら早々に決着しただろうが。
「しかも、アタシが持ってない身体能力を引っ提げてきて」
凪咲が膨れっ面になる。
「近接魔法なんて接近された時の不意打ちにしか使わないし、風の魔法で高速移動だって! アタシもやりたい!」
「やって怪我したの知ってる」
「私が治すんですから、やんちゃしちゃダメですよぉ」
「……はぁーい」
“凪咲ちゃんぶーたれてて可愛い”
“叱られた子供みたいw”
「で、ボコボコにされる」
「言わなくていいじゃん! 奏の時覚えてなさいよ」
「いや、でもここがあっての逆転だったろ? 倒れている間に空間支配進めてたわけだし」
俺が苦笑しながらフォローすると、凪咲が弾けんばかりの笑顔になった。
「そう! そうなんだよ! やっぱマサ君はわかってるわぁ」
「いや、わかってねぇわけじゃないだろ」
「私もわかってますよぉ。凪咲ちゃんは頑張ってましたねぇ」
当然、言った奏本人もわかってはいるだろうが。
「あの時、このままじゃ負けるなぁって思って。1回気絶して無意識下で空間支配を進めるように切り替えたの」
“え”
“あの瀕死って実際気絶してたんか”
“その間に攻撃されたらヤバかったじゃん”
“怖いことするなぁ”
コメント欄もそうだが、凪咲の思惑に全員がぎょっとしていた。
「あぁ、違う違う。えっとね、あたし普段無詠唱で魔法使う時って、どの魔法使おうって考えてなくて。こうしたいって思ったらいくつかの魔法を自動で発動するようにしてあるの。だから気絶中、意識がない時は事前に設定していた魔法が発動するようにしておいてるのを、空間支配に費やしたって感じ?」
凪咲の説明はなんとなく理解できる。ただそれを実現できるのが彼女のみというところがあり、五本指に数えられる他4人に同じことを説明しても理解を得られるかは微妙なところだろう。
「よくわかりませんねぇ」
「凪咲の言ってることがわからないのはいつものこと」
「なんでよ!?」
桃音と奏が言って凪咲が驚き、そして俺の方を見てくる。
「俺だってわからんけど」
「そんなぁ……」
「凪咲の魔法理論は特殊だからな。理解しろって方が難しい」
今はちょっと浸ってるが、牙呂もこちら側だ。特に俺は魔法を使わない組なので、専門家の理論など理解できるはずもなかった。
「おっ! 来るぞ、凪咲の新技!」
戻ってきた牙呂が食いついた。
「
技名も凪咲らしからぬモノだと思っていた。誰に影響を受けたんだか。
「魔力弾な。魔法が確立する前の魔力での攻撃方法だな。今ではもう魔法の方が強いから使われなくなっちまったが」
「魔力弾と決定的に違うのは、自分の魔力だけじゃなくて周囲の魔力すら使うってところだな」
「そう! アレは対魔法使い用に改良した魔力弾みたいなモノよ。相手が撃った魔法すら魔力に変換、吸収できるんだから」
凪咲の新技は魔力を超込めて撃つというシンプルなモノではあるが。
「魔法使いとの戦いで無敵じゃねぇかよ」
「対策はあるけど言わなーい。どっちにしても魔力操作の延長線上なんだからやりようはあるって」
それはそうだろうが、あの戦闘を観ていた魔法使いはいい顔しないだろうな。
“やっぱ凪咲ちゃん天才よな”
“そら日本魔法界の双璧だからな!”
“頭おかしいことしてて草”
「次は問題の奏いくとするか」
「ん。見てて、マサ」
「はいはい」
催促されたが、ある程度知っているので改めて見る必要があるのかと言えば、よくわからないが。
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