突破後

 どうにか、俺達は下層のボスを倒すことに成功した。


 とはいえ、障壁が消えた瞬間桃音以外の4人はばったりと倒れてしまったわけだが。


「今回復しますねぇ」


 どんな状況に陥っても生還することにかけては世界一とも言われる桃音は、にこにこと回復を振り撒いてくれる。かなりこっ酷くやられたのだが、一瞬で完治してしまった。


「はぁ〜っ。つっかれた〜」


 凪咲が地面に寝転がって言う。


「ん。これはマサに撫でてもらわないといけない」

「奏ちゃん狡いですぅ。私もお願いしますねぇ」

「お前ら元気かよ……」


 疲れていてもマイペースな2人に、牙呂が呆れていた。


 正直なところ、俺だって元気がなかった。普通にしんどかったし。


「皆様、お疲れ様です。休息の準備をします、ゆっくり休んでください」


 ロアが声をかけてきて、いそいそと支度を始めてくれる。こういう時に、戦闘に参加しない人員がいると非常に助かる。一番助けて欲しい時に率先して動けるから。


「下層突破! つーわけでオレらはちょっと休むわ。流石に疲れた」


“お疲れ!”

“冷や冷やしたけど勝てて良かった”

“最強! 最高!”


 視聴者のコメントも祝福の声が相次ぎ、スパチャが大量に飛び交った。


 一旦配信は止めて、休息の準備を進める。


 順番に入浴して装備を脱ぎ、軽装に着替えて今後の方針を話し合う。


「とりあえず、思いの外苦戦しちまったからな。回復に努めるしかねぇ」

「だね。深層で罠がある可能性も考えて1人予備2つは装備確保しておいた方がいいかな」

「了解」


 なにがあってもいいように、準備は進めておくべきだろう。これまでは罠がなく嫌らしさはあまりないダンジョンだったが、深層がそうであるとは限らない。なにより今回のボスは嫌らしさがあった。


「マサ、撫でて」


 今後の方針とか興味ない奏が近づいてきて頭を差し出してくる。……相も変わらずマイペース。


 仕方なく、頭を撫でてやった。小さい頃からずっとこんな感じだったので、特に躊躇いはない。


「あ、奏ちゃんだけ狡いですぅ」


 桃音まで近寄ってきて、同じように頭を差し出してきた。なんでこんなところで張り合うんだか。


 ただ断る理由もなかったので空いている手で頭を撫でることにした。


「えへへ〜」

「むぅ」


 桃音が嬉しそうに笑い、奏は少し不満そうにしている。


 奏はいつも通りといった具合だが、桃音にはちゃんと理由がある。

 桃音は今回何度も何度も身体を砕かれて、ほぼ死に体まで追い詰められていた。生憎と、俺は何度も身体を弾け飛ばされる痛みを味わったことがない。それがどれほど辛いことか、俺は知らないのだ。

 だから桃音には優しくしてあげたい。


 どんな痛みであっても彼女の心が折れることはないとわかってはいるが、痛くて苦しいのは事実なのだから。


「マスター。私にもご褒美を要求します。魔力充填と合わせて、失礼しますね」


 2人の頭を撫でているとロアが後ろから抱き着いてきた。


「む。狡い、私も」

「私もそっちがいいですぅ」

「ちょっと待て。疲れてるんだから!」


 揉みくちゃにされそうになり抵抗しようとするが、疲れていてどうにもならなかった。


「……あいつ、モテんなぁ」

「あんたはモテないもんね」

「モテねぇわけじゃねぇよ!?」

「新しい彼女と別れた癖に?」

「うぐっ!」


 残った2人に助けを求めようにも、2人は2人で言い合っていた。


 結局、配信外だからという理由で川の字になって寝ることになってしまった。

 唯一の救いは、疲れていてすぐ眠れたことか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る