【神回】凪咲が絶体絶命の時に駆けつける牙呂①

 カメラに映る、1人の少女。とんがり帽子を被り、赤茶色の髪をツインテールにしてローブを着込み杖を持つ彼女は、見た目からわかる通り魔法使いだ。


 齢17歳にして、ダンジョン配信者としてもトップ。コンビチャンネルではあるが個人でもトップレベルの実力を誇る、歴とした化け物探索者の1人であった。


「はい、配信開始ー。皆、映ってるー?」


 そんな彼女、凪咲はカメラに顔を近づけて笑顔で手を振る。ツインテールなど幼く見える要素はあるが紛れもない美少女。


“なぎスタ!”

“待ってた!”

“凪咲ちゃんかわいい”

“映ってるよー”


 配信歴が7年にもなるベテランだが、その人気は留まるところを知らず、多くの視聴者が観に来ている。


「映ってる? じゃあ始めちゃおっか。今日はねぇ、なんと未攻略の深層ソロ攻略チャレンジ第二弾!! ということで、五反田のダンジョンに来てるよ!」


“またやるのか”

“気をつけてね”

“頑張ってください!”

“前回余裕だったし今回もいけるいける”

“深層のボス相手に魔法でゴリ押しできる探索者なんてほぼいないwww”

“それができる凪咲ちゃんは最強”


 そう、第二弾。ダンジョンでは情報が命とされており、未攻略のダンジョンに入るのは危険度が跳ね上がる。ダンジョンには罠があり、様々なモンスターがいる。

 どんなに強い探索者でも全部はできない。だからこそ未踏破のダンジョンをソロ攻略するなど言語道断の自殺行為なのだが。


 この凪咲は実際に一度攻略してしまっている。


「じゃあ早速深層から攻略してくよー」


 凪咲が背中を向けて歩き出す。彼女のカメラはドローン型で、持ち主の後方から追尾していくタイプだった。魔法使いという動きの少ない戦闘スタイルだからこそこういうドローンが役に立つ。後ろ側から魔法を撃つ凪咲の姿を映し出すわけだった。


“相変わらずの威力www”

“深層のモンスターって硬いんだよな?”

“初めて下層から深層に行った探索者が、深層は次元が違うって言って撤退してた”

“刃が通らない、魔法が効かない、速くて強い”

“だというのにこの子は……”

“魔法1発で吹っ飛ばしてますwwwww”


 凪咲と奏のコンビチャンネルは、配信デビューが10歳というイカレっぷりも話題だったが、双方共に探索者として異常な実力を誇っていることが人気の要因となっている。


「五反田の深層が攻略されてない理由は簡単だね。面倒だから! だってそれぞれ無効耐性持ってるんだもん、色んな魔法を考えて使わないとだからね」


“いやいやいやいや”

“そもそも魔法って多い人でも5属性くらいじゃなかったっけ?”

“普通の探索者は3属性が限界よ”

“深層いけてても全属性満遍なく使えてる頭おかしい魔法使いが数が少ない”

“凪咲ちゃん含めても日本で4人しかいない”

“魔法使い四天王”


 この頃はまだ5人揃っていなかったため、日本魔法使いの頂点と言えば4人のことを差していた。


「代わりに弱点がはっきりしてて弱点に対しては極端に弱いから、どんな属性でも斬撃でも銃撃でも使えたらソロ攻略は簡単って言われてるね」


“理論上不可能”

“できるヤツが目の前にいるんだよなぁ”

“魔法で斬撃も銃撃も再現できて全属性使える化け物魔法使い”


 五反田のダンジョンは完全無効耐性を持つ代わりに弱点があるモンスターしか出てこない。更に深層の奥に進むと3つの耐性と弱点がある敵、5つと耐性の数も増えていく。

 そうした結果、非常に面倒だということと行っても最悪詰むため攻略しようとする探索者が少ない傾向にあった。


 生きた炎のようなエレメント系モンスターも多く、倒しても素材が美味しくないというのも人気がない理由の1つではあったが。


「よしっ。これでボス部屋まで来たね」


 そんなダンジョンであっても、凪咲はあっさりと攻略してしまう。初見でなにが耐性かわからない敵にも、ということで苦戦する様子も見せていなかった。


“耐性持ってても複数同時にぶつけられたら弱点突かれるんだわw”

“ダンジョン君なりの優しさが利用されとる”

“これが五反田のダンジョン攻略方法かぁ……”

“真似できるかこんなもんwww”


 1発で深層のモンスターを葬る威力がある魔法を耐性になっていそうな全部ぶつけられて、それを繰り返して続けても魔力が切れないだけの膨大な魔力量を持っていないと実現できない。


 ただダンジョンにとって理不尽とも言える対処法を実践できるからこそ、凪咲にとっては余裕だったのだ。


「ちょっと雑談で休憩してから挑戦するよ。今回のボス予想はねぇ、段階で耐性が変わる! 若しくは受けた攻撃で耐性が変わってく! とかかなぁ」


 それでも勢いでボス部屋に乗り込まない辺り、探索者としての慎重さが窺える。気楽そうにしていても、凪咲はその辺りがしっかりしていた。


 ただの雑談をしている風に、彼女は想定されるボスの特徴とそうだった場合の対策を頭の中で組み上げていく。


 凪咲は昔からずっとそうだった。喜怒哀楽の感情表現が豊かで幼く見られがちなところもあるが、攻略に関してはドライで徹底している。それが彼女の強さとも言えた。


 しかし、そんな彼女の強さは「魔法が使える」という前提条件があればこそである。

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