レベル1から

 各自序盤のストーリーとチュートリアルを終えて、同じ世界にいるので集合してみた。


「いぇーい!」


 画面の中の凪咲がなにやらポーズを決めている。そういう機能もあるらしい。


「結構装備品の種類が豊富らしいな。見た目にも拘れるように、実際の装備と見た目の装備を変える機能もあるみたいだぜ」

「いいですねぇ。ゲームの中でも可愛らしい服を着たいですからぁ」

「マサ、装備造って」

「ゲーム始めたてで全然素材足りんわ」

「採ってくる」

「集合して早々別行動取ろうとすんな!?」


“ゲームでも現実と同じようなことしてるw”

“空気が美味しい”

“なんだこいつら、最高かよ”

“この空気が5人の魅力でもある”


 折角のゲームだというのに現実と変わらないとはこれ如何に。


「とりあえず写真撮ったし、皆でどっか行こうよ。こういうゲームってパーティ組めるんでしょ?」

「ああ。パーティは5人上限で、組むと主にメンバーの位置がわかるって感じだな。ダンジョンに挑む時もパーティ単位にできるが。このゲームはそこら辺にプレイヤーがいるから、パーティで冒険してても別のプレイヤーが加勢することもある。逆にダンジョンでパーティだけの挑戦を選んで邪魔が入らないようにするってのもできるな」

「じゃあダンジョン行こうよ、この5人なら」

「おう。ってことでパーティ組んでからまとめて転移すっぞ」


“ゲームの中でもダンジョン”

“このゲーム自体がそういうコンセプトなとこある”

“現実を織り交ぜたファンタジーゲームってわけか”

“ダンジョンが出現してからはあんまり流行らなくなった昔のゲームみたいだな”


 ダンジョンの挑戦画面に遷移する。本来スミスは戦闘する職業じゃないからダンジョンに挑戦しなくてもいいんだが。


「ま、いつも通りか」

「だね。職業も変わらないし」

「斬るだけ」

「回復は任せてくださいねぇ」

「戦闘は任せた。素材採集してくる」


“おいマサw”

“いやスミスなんだからこれが正しい姿”

“5人の見た目なのに敵が一撃で倒れていかないの笑う”

“現実ではレベル上限突破してても、ゲームではレベル1からだからな”

“滅多に見れない連携が見れる貴重な瞬間”


 このゲームの戦闘はキャラクターを操作しながら通常攻撃やスキルなどを使用していく。

 スキルは最初に凪咲が言っていたスキルツリーで習得する。スキルツリーは今のところ種族と職業の2種類があり、始めたてなのでどちらも1種類しか解放できていない。ツリーは1つ習得すると次のスキルが習得できるようになる仕組みで、且つ最初に習得できるスキルは3つ。つまり主に3ルートのツリーがあるようだった。どのルートを通ってスキルを獲得していくかはプレイヤー次第。

 俺は戦闘に役立つスキルを獲得しなかったので通常攻撃しかできないのだ。戦闘ではあまり役立たなかった。


 ただ俺という足手纏いを抱えても4人は安定して戦っている。ゲームの中でも頼りになるヤツらだ。


“ってか皆上手いな”

“範囲攻撃以外全部避けてるぞ”

“ゲームあんまりやらないんじゃなかったっけ?”


 コメント欄が驚いている。


「プレイ上手いって言われてるな」


 コメントを拾って4人に振ってみた。


「そらお前、予備動作あるからわかりやすいだろ? タイミング良く回避すれば避けられるしな」

「ゲームはボタン1つで避けられるからアタシでもできるし」

「余裕」

「回復の手間いらずですねぇ」


 ということだった。まぁゲームの方が現実より動きが遅いし、俺でも見えるから避けられないはずもなかった。敵の攻撃の種類とか角度とかを考えずに回避の操作をするだけなので、本来苦手な凪咲や桃音でもできると。


“やっぱフィジカルか”

“操作慣れしてくるともっと強くなりそう”

“PS求められる系は探索者ダメだな、強いw”

“本物の戦闘をしてきたヤツらだ、面構えが違う”


 そんなわけでダンジョンの攻略もスムーズに進んでいく。素材集めも順調なので有り難い限りだ。


 そうしてダンジョンの最奥に辿り着くと、広い場所にボスが鎮座している。

 緑色の巨体に金棒を持った怪物。見るからに強そうだ。


「おっ。ギガントオーガじゃねぇか。モンスターも結構現実のダンジョンを模してるんだな」

「道中もそうだったよね。まぁオリジナル要素もあるだろうけど、落ちる素材とかもわかりやすくていいし」

「ギガントオーガの素材なら剛力金棒とか巨鬼の腕輪とかが造れそうだな」

「マサのために頑張る」

「皆さん頑張ってくださいねぇ」


 ボス戦が開始され、牙呂と奏が突っ込み近接戦を仕かける。凪咲は遠距離から魔法を使い、俺と桃音は後ろから見守るだけ。

 ボスだけはあって体力が多く、順調に削っていってはいるが普通のモンスターと違い時間がかかる。


 金棒を振り回してきたり、地団駄を踏んで地面を揺らしたり、ボスだけあって色々な攻撃方法がある。

 ある程度体力が減ると第二段階になって強化されるのもお馴染みだ。


「結構迫力あるな」

「そうですねぇ。攻撃力も高そうで、避けられなかったらすぐ倒されちゃいそうですぅ」


 画面はプレイヤーキャラクターの後ろ姿を見ながらボスを見上げる構図だ。見上げることでより相手の強大さが伝わり、迫力も出ると。


「お前らも少しは戦えよ!?」

「もう魔力切れたんだけど! 回復あったっけ?」

「むぅ、しぶとい」


 戦闘で頑張っている3人を後ろから眺めるのはよくあることだが、こうして苦戦しているのを見ているのは新鮮だ。


“村正と桃音なにもしてなくて草”

“ヒーラーとスミスだからな”

“武器持っててもボス相手だとダメージにならなさそう”

“むしろ生産職連れてきてここまでできてるのが異常だろw”

“普通に上手いんだ、地団駄避ける時とか”

“桃音ちゃんは回復してるんだが、回避上手くて頻度少なく済んでるな”


 俺も一応片手斧を武器として持っているが、攻撃力に関係するステータスが高くないため戦闘には参加していない。参加するのはいいが、ダンジョンで死ぬと拾ったアイテムを失ってしまうので、極力戦いたくなかった。


 俺はほぼ観戦だったが、ほとんど3人でボスを倒してしまった。それぞれ貢献度に応じた報酬が獲得できる。俺は戦わなかったのでしょっぱいが、まぁこんなモノだろう。戦わない鍛冶師がダンジョンに行くことすら稀なので、素材は基本購入するところからかな。


「いぇーい! 無事ボス攻略!」

「初期装備だからか結構かかったな」

「まだ余裕」

「お疲れ様ですぅ」

「お疲れ」


 ほとんど3人の功績だ。俺は見ているだけで終わってしまった。


「流石に貢献度で報酬変わってくるな」

「そりゃ、平等だとサボるヤツ出そうだしな」

「私は村正君よりマシですねぇ」

「ヒーラーはダメージだけの貢献度だと報酬少なくなりすぎるからだと思う。ちゃんと考えられてるね」


“うん、やっぱ鍛冶師は戦闘で活躍できないのが普通だよな”

“ゲームより現実の方がヤバいってどゆこと?”

“やっぱおかしいんだ……”

“ゲームはバランスを考えてるから現実よりまともよ”

“草しか生えない”


 あれ、なんだかコメントの様子が。現実よりゲームの方がバランスを取っているとかなんとか。


「でも面白かったよね! 魔力量考えながら魔法使うなんて富士山の深層くらいかも」

「普通にダンジョン行った方が早く終わる」

「そらそうだけど、なんつうかさ。この不自由感って懐かしい感じしね?」

「探索者になる前を思い出しますねぇ」

「お前達は最初から強かっただろうが。一般人のフリするなよ」

「今より弱かった頃の話な」


“面白いと思うとこおかしくない?”

“魔力量考えて魔法使ったことがほとんどない魔法使いってなに?”

“三日三晩大魔法撃ちまくってても魔力切れないくらいだからな”

“弱い頃がない……?”

“意味わからん”

“天才的化け物共が努力し続けた結果がこれか”

“ゲームって段々強くなっていくのを楽しむモノだと思ってたわw”


 どうやらゲームの面白さを見出す観点が普通とは違うらしい。俺はゲームでもいい武器が造れればそれで満足なので、戦えないことに不満を覚えることはない、と思う。素材が足りなかったり買えなかったりしたら自分で行きたくなるかもしれないが、まぁそこまでやり続けるかという問題もあるにはある。案件だから口にはしないが。


「とりあえず、どんなゲームかってのはこれで見えたよな。プレイの配信はこんなところで終わりにして、告知っつうかお知らせといくか」


“待ってました!”

“やっぱりただのゲーム紹介だけじゃないよな”


「なんと! リリース開始から期間限定でアタシ達の衣装が入手できるガチャが開催されるんだって!」


“ガチャ!?”

“ソシャゲ系MMORPGだったか……”

“ガチャ要素なんてあったんやな”

“でも衣装集めたい……”

“戦略に嵌まるヤツ多すぎ”


「このゲームでは装備の見た目を変えられる。その見た目だけを入手できるガチャがある。そこにロアも含めた6人の衣装が入手できるガチャが出てくるみたい」

「プレイは不参加でもちゃんとロアちゃんをパーティメンバーとして入れてくれるのは嬉しいですねぇ」

「この期間限定ガチャでは俺が即興鍛冶で造ってる武器の見た目もおまけで入手できるから、欲しいなら頑張ってくれ」


“ロアちゃんの分もあるのか”

“6人分揃えたいが、金がな……”

“クソ、集金の上手い運営め!”

“悪態吐きつつ引く気満々で草”

“村正の武器スキン欲しいよぉ”

“フレアブリンガーを寄越せ”

“これ、ワンチャンどっかの魔王様が廃課金になりそうだな”

“言ってて草、だが解釈一致w”


 ガチャは、ゲームを進めることで入手できたり金で購入することができたりする結晶石というアイテムを使用する。1連と10連があって、10連だと星4以上が確定だとかなんとか。俺はよく知らなかったが、ガチャというのはこういうモノらしい。

 ただ性能関係ない見た目だけの装備にお金を使ってくれるのかと思うところはあったのだが、どうやら見た目カッコいい需要は存在しているらしい。


 こういうのって男性用と女性用があることも多いのだが、このゲームはそういう括りがない。女装も男装もし放題らしかった。だから、例えば牙呂の見た目で女装させて遊ぶ、なんてこともできると。多分フラメルさんをキャラクターで作れるようにっていう配慮かな。


「アタシ達の装備もマサ君の武器も実装されるモノ以外にいっぱいあるから。好評だったら第二弾とかもあるかもしれないし、皆も楽しんでくれると嬉しいな」

「リリース開始日になったらまたオレらでやるかもしれないし、サーバが落ちるからやるなって言われるかもしれねぇし、わからねぇが。プレイはするだろうからゲームが気になった人は公式サイト、SNSをチェックだ」

「マサの装備はコンプリートする」

「私は皆の装備を集めたいですねぇ」


“マサガチ勢さん草”

“沼って躍起になる奏ちゃんが見たいw”

“こいつらにとってはソシャゲの課金なんぞはした金だからな……”

“ワイらにとっては大金ぞ”

“コンプ目指します!”

“これを機にゲーム側も盛り上がってくれるといいな”


 ということで、俺達のゲーム紹介配信は好評で幕を閉じた。武器の見た目については俺も全面協力しているので、実装される日が楽しみだ。


 ――これはリリース後のことだが、奏が俺の装備をコンプリートしようとして他のヤツの装備を引きまくり、荒れに荒れたガチャ配信をすることになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る