#双璧対談

 画面には2人の魔法使いが、それぞれソファーに座って映っている。

 同時接続視聴者数は500万以上。


 両者のチャンネル登録者数が多いというのもあるが、このタイミングでのコラボということで人が集まっているようだ。


 ロアが投影した画面で観ている俺も注目している者の1人。


『じゃあ始めよっか』

『いいよ』

『『魔法使い、双璧対談!』』


 2人の魔法使いが声を揃えて開始を宣言する。既に何回もやっていて、恒例となっているタイトルコールらしい。


『はい。ってことでアタシから。双璧から抜きん出て世界最強の魔法使いになった凪咲だよー』


 ひらひらと手を振って言ったのは俺の知り合い。一緒に富士山のダンジョンを攻略した凪咲である。


『ちょっと! 双璧対談始まって早々解散じゃん! あ、ボクはまだ双璧でいたい魔法使い、フラメルだよ』


 もう1人、凪咲にツッコみつつ名乗ったのが噂の双璧の片割れ。私的な付き合いはなかったがあの凪咲と張り合える人物がいると聞いて感心したのを覚えている。


 水色の髪をショートにした水色の瞳の華奢な魔法使い。色白で目も大きく、見える手足が細く、下がスカートにタイツにブーツと一見女性にしか見えない見た目をしているが、男性だそうだ。年齢は1つ上だったかな。実際声を聞いだけではわからなかっただろう。


 配信が好きで探索だけでなく色々なことをやっており、人当たりが良く交友関係が広い。凪咲と仲良くなるわけだ。


『いやでも、ホント差がついちゃったよねー。時間と空間で双璧! とか力量も同じくらいで双璧! だったのになぁ』

『残念でしたー。でもおかげでアタシは強くなったわ。加護もあるしね』

『あ、そうそうその加護! ちょっとでいいから能力教えてくれない?』

『ダーメ。まだ勿体振る』

『えー!』


 2人のテンポのいいかけ合いから始まり、しばらく本題に入らず話し続けている。よく話題が尽きないな。仲のいい女子同士のやり取りを思い出すくらいだ。

 対談と言うより雑談だったが、途中気になる話も出てきた。


『そういえば、あれ観たよ。リゾート地の案件動画! 狡いよぉ、ボクも行きたかったなー』

『いいでしょー。カットされてたけど、1週間みっちり満喫してきたからねー』

『いいなぁ。予約しようと思ったらもう埋まってたからね……。宣言効果もあるだろうけど、人気ありすぎだよあそこ』

『もう1年先まで埋まったらしいからね。1週間貸し切りできたの良かったー』

『くぅ、これみがしに……』


 俺達のリゾート案件動画の話になる。……確かにあれは良かった。ただ休むだけでは取れない疲労の根がなくなったような、そんな感じだった。


『あ、であの動画の中で恋バナしてたでしょ!? いいなぁ、ボクも混ざりたかった……』

『もし行ってても別部屋でしょうが』

『えー? そうかもしれないけど言うだけならいいじゃん。ボクも恋バナしたかったなー』

『言うほど恋バナっぽくなかったと思うんだけど』

『凪咲ちゃんくらいしかまともに話せないみたいだったしね』

『そうなの! 話した後に言い出さなきゃ良かったって思ったくらいよ』

『あの場にボクがいればと思ったくらいだったよ』

『じゃあする? って言ってもあんたに聞くしかないんだけど』

『するする!』


 ノリいいなこの人。


『フラメルは男にしか興味ないんだっけ』

『うん!』


 即答、そして屈託のない笑顔だった。本心から男性が好きなのだろう。


『やっぱりカッコいい男の人がいいよねぇ。思わず抱かれたい! って思っちゃうような』

『それはないわ』

『あれ!?』

『いや、そこまでは思わないでしょ。前々から思ってたけど、欲望に忠実すぎない?』

『性別という区切りを超越したボクは自由を手に入れたのさ』

『よくわかんないわ』


 フラメル……さんでいいのか? 君の方がいいのか? まぁさんでいいか。年上だし。

 フラメルさんの熱い想いには応えず、呆れたように凪咲が告げた。


『で、フラメルは気になる人とかいるの?』

『もちろん! 最近はねぇ、村正くんかなぁ』


 おっと。思わぬところで俺の名前が。凪咲がいるからだろうか。


『あー……。マサ君は、うん。やめておいて』


 凪咲は微妙な顔をして言う。


『どうして?』

『アタシが怒られるし』

『怒られる?』

『奏に』

『あぁ』


 フラメルさんが納得していた。


『じゃあ牙呂くんとか! ボク結構いいと思ってるんだよねぇ。可愛いところもあるけどカッコいいし、芯が強い感じもいいよね!』


 おっと牙呂の名前も挙がったか。


『あいつは……やめといたら?』

『へぇ、微妙な感じだね。牙呂くんはあんまり誰かが好き! とか誰かがいるから、とか聞かないけど』

『あいつはしょっちゅう彼女変えてる、と言うかフラれてるだけよ。最近は聞かなくなったけど』

『ふぅん。随分、彼の動向に詳しいんだね』

『そういうわけじゃないわよ。耳に入ってくるだけで』

『そういうもんかなぁ』


 俺からしてみれば、そういう情報は調べようとしなければ耳に入ってこないと思う。俺は牙呂が誰かと付き合っているとか、後から噂で聞くくらいだし。興味ないからな。


『あとそういう運悪いから。感染るかもしれないわよ』

『確かに女運悪いとは聞くよね。でもボク男だし』

『そういう時だけ持ち出すのね……』

『所詮運なんて信じるか信じないかは別の話なんだし、都合のいい風に考えちゃえばいいんだよ』

『というか、だったらあいつ女にしか興味ないってことになるじゃない?』

『まぁね。でもボク、女の子より気持ち良くしてあげる自信あるよ』


 フラメルさんは妖しげな笑みを浮かべて言った。


『もうちょっと包み隠したら?』

『これもボクの良さ! 多分』


 凪咲は呆れた様子だが、フラメルさんは実際彼氏がいたこともあるらしいという。というかかなりオープンなんだな。


 恋バナだったのかはわからないが、話は終わりまた次の話題へと。


 配信の終了間際になって、また気になる話題が。


『ねぇ、フラメル』

『なに?』

『富士山のダンジョンに行くの?』

『……』


 おそらく視聴者全員が気になっているであろうことに、凪咲が切り込んだ。


 フラメルさんは固まったが、やがて真面目な顔をして言う。


『うん、行くよ』


 決意を秘めた瞳だった。

 今回コメント欄を見ずに観ているが、ここは大いに盛り上がっているだろうなとか考えてしまう。


『断言するのね』

『まぁね。もうメンバーには声をかけてるし、必要なモノは準備し始めてるし』

『いいじゃない、楽しみだわ』

『先に攻略した人は余裕だねー』

『もちろん。私のところまで来れるか、見ててあげる』

『うっわ、上から目線〜。でもそれでいいよ。すぐ追いつくから』


 2人の視線が交錯する。不敵な笑みを浮かべて張り合う2人は友達ではあるのだろうが、同時にライバルでもあるのだ。


『それで、足りないメンバーとかアイテムとかある? 手伝おうか?』

『ううん。君達の手は借りない。……あぁ、1個だけ。鍛冶師の伝手は、ないからね』

『なるほどね』


 ほう。どうやらフラメルさん達は虎徹ちゃんに声をかけるようだ。


『楽しみにしてるわね。どんなメンバーを揃えてくるのか』

『楽しみにしてて。君達に負けず劣らずの凄いメンバーだからね』


 笑い合う2人が言って、配信は終了した。


 その日の内に凪咲から連絡があった。

 フラメルさんと連絡を取って欲しいという内容だ。


 凪咲のライバル魔法使いがメンバーなら、力量はある程度保証されているようなモノ。これは期待できそうだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る