鍛冶師対談①

 俺にしては珍しく、単独でのコラボ配信を開始することになった。


 以前話には出していた鍛冶師との対談を、今日配信するのだ。


 事前の宣言の甲斐あって待機している人数も物凄く多い。俺以外で表に出る初めての鍛冶師だからな、そら注目もされるか。


 ただし今回は画面に映さない。少し緊張しいなところがあるので、今日は俺と一緒に話すだけとなっている。

 マイクなどは準備しているが、一応ロアにも離席してもらっていた。


 配信場所は俺の家。対面にコラボ相手が座っている状況だ。


「よし、それじゃあ配信始めまーす」


 いきなりだが、音声を配信に載せる。


“きちゃーー”

“対談待ってた!”

“外部コラボ初か?”

“外部と言っていいのかこれw”


 配信を開始するとコメントが一気に加速する。画面は鍛冶場の画像を貼っただけだが、事前に画面なしとは伝えてある。


「前々から宣伝はしてましたが、今日は知り合いの鍛冶師との対談コラボになります。緊張するということで、最初はカメラなしにしてます。音声だけですけど、どんな人かわかるようにできればと思いますので」


“どんな人なのか気になる”

“一体どんなヤバいヤツなんだ……?”

“ヤバいこと確定しててワロタ”


 コラボ相手は流れるコメント欄を物珍しそうに眺めていた。


「それじゃあ、鍛冶師対談第一弾、早速始めていきましょう」


 俺は言って、早々に相手に振る。


「俺の知り合いの鍛冶師、防具においては右に出る者がいない腕前を誇る、虎徹ちゃんです!」

「えへへ〜。そんな風に言われると照れちゃいます」


“え”

“かわ”

“超かわボやんけ”

“女の子か”

“かわいい”

“絶対かわいい”

“画面出なくてもわかるかわいさ”


 虎徹ちゃんの声が入ってコメント欄が騒然としている。声の印象に対するコメントが多いようだ。


「良かったね。皆虎徹ちゃんの声可愛いって言ってくれてるよ」

「ホントですか? えへへ〜」


 虎徹ちゃんはにこにこと笑っている。


“かわいい”

“マサの声がいつになく優しいな”

“年下なのかな?”

“妹分か”

“小柄な女の子と見た!”


 声からの印象で見た目まで想像している人もいるようだが、まぁ当たるわけがないんだよな。


「さてさて。これから、皆に虎徹ちゃんのことを知ってもらおうと、いくつか質問を用意してきました。虎徹ちゃんはそれに答える形で、まぁ緊張せずのんびり話したらいいよ」

「はいっ、よろしくお願いします」


“礼儀正しい”

“ええ子や”

“まだなにも始まってないんだがw”


「とはいえ最初にさらっと概要だけ。虎徹ちゃんは代々防具を得意とする鍛冶師の家系で、現役の鍛冶師。両親共に鍛冶師で、3人共が協会に所属していて協会経由でしか依頼を受けない、と」

「はいっ。まだ未熟者で、お父さんには及びませんが、精いっぱい頑張ります!」

「虎徹ちゃんはもうお父さんにも匹敵するくらい凄い鍛冶師だから大丈夫だよ」

「えへへ〜。マサさんに褒められちゃいました〜」


“かわいい”

“親子3人鍛冶師かw”

“しかも上位数%”

“とんでもない家系や”

“褒められて嬉しそう”


 実際、世辞抜きでそう思っている。むしろ今回のダンジョン探索を経たら間違いなく超えるんじゃないだろうか。


「虎徹ちゃんの家系は防具を得意としているんですけど、防具の造り方が特殊でして。頑丈さはピカイチです。その造り方っていうのが、多重構造。薄くした素材を幾重にも重ねて頑丈な防具を造るっていう鍛造方法ですね」

「はいっ。マサさんみたいに凄い能力がつくわけじゃありませんけど……」

「いやいや。俺のあれは壊れる破ける前提で造ってるわけだから。防具なんだから、壊れない破けないが一番いい。そういう意味で言っても、虎徹ちゃんは防具において俺の上をいってる」

「えへへ〜。また褒められちゃいました」


“かわいい”

“村正がここまで手放しに褒めるのは珍しい”

“しかも装備のことで明確に上と断言した”

“褒められて嬉しそうなの可愛い”

“可愛いが、褒められて否定しないところにプライドを感じる”


「まぁ実際の性能を見てもらった方がいいんだが、映像つきでやる時にな」

「すみません……」

「いいって。虎徹ちゃんが配信に慣れるのも大事なことなんだから」


 もし本当に富士山のダンジョンへ挑むなら、長期間配信することになる。配信に慣れておくことは重要だ。配信の映りを気にして本来の力を発揮できないのは危険だからな。


「装備に関しては……あぁ、あと武器についてか」

「はい。と言ってもマサさんには到底及びませんので……」

「ははっ。武器でも防具でも上回れてたら俺の立つ瀬がないって。防具専門の鍛冶師ってなると長期間のダンジョン攻略はできないことになっちゃうからさ」

「あっ、そうですね。えっと、普通の武器くらいなら造れます! 防具の方が得意ですけど、武器の頑丈さも高いと思います!」

「虎徹ちゃんの言う普通のレベルは、そうだな。最近造った武器の値段が確か3000万くらいだっけ」

「はいっ。私まだ適正な値段がわからないので、お父さんにつけてもらいました」


“普通のレベルが高ぇw”

“値段だけ聞くとマサの方が高いから性能いいのかなって思う”


「防具は当たり前ですけど億超えするので悪しからず」


“たっかw”

“武器より防具の方が相場が高いイメージ”

“そう聞くとやっぱり武器は得意分野ではないのな”


「?」


 虎徹ちゃんがコメントを眺めてこてんと首を傾げている。なにか不思議なコメントがあったのだろうか。変なコメントは流れていないと思うのだが。


「装備品は命を守る大切なモノですよ? 高くなくてどうするんですか?」


 彼女はきょとんとして言った。思わず笑ってしまう。

 どうやら装備の値段が高いという発言が引っかかっていたらしい。


“草”

“村正と同じこと言ってるw”

“虎徹ちゃんもやっぱり鍛冶師か”

“武器より防具の方が命を守るのに必要だし、防具特化の鍛冶師ならその辺の想いは強そう”


 ただこの時点で変な発言をする人達は、悪いが事前に排除させてもらっている。

 大半の視聴者は俺という鍛冶師を知っているので、これくらいならなんの問題もなかった。


「まぁ、観てる人が全員探索者ってわけじゃないから。収入にも違いはあるし、モノの価値は人それぞれだよ。じゃあ次、今回対談しようと思った経緯を聞いておこうかな」

「はいっ」


 ここは本人に語ってもらおう。配信開始前は緊張しているようだったが、普通に話せているように思う。この調子で続けていこう。

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