リゾート地PR案件①
「海だ! 夏だ! リゾートだー!! ということで今回は、日本のあるリゾート地に来てるよー!!」
いつもは牙呂のテキトーな挨拶から始まるのだが、今回は違う。
涼しげな水色のワンピースという恰好の凪咲がテンション高くカメラに言った。
彼女だけでなく、全員が夏服と言っていい服装で並んでいた。照りつける太陽の日差しは強く、ここが常夏の島だとしても結構暑い。
「今回はなんと! 観光会社ヘヴントラベルさんから案件を貰いました! このリゾート地、というか島1つを貸切で楽しむ代わりに、宣伝動画上げようってことなんだよね」
そう、今回は案件だ。俺達6人を今後リニューアルオープンするリゾート地に呼び込み、楽しんでいる様子を撮影して動画を上げる。それによる宣伝効果という利益を得るのだ。
普通に予約しても高いリゾート島を貸し切るのだから相当な依頼料でもある。
まぁ、俺達は純粋に慰安旅行も兼ねてこの案件を受けただけなのだが。
「テンション高ぇなおい」
「皆が低いだけでしょ? なにせ完全予約制のリゾート地を島ごと貸切だよ!? 普通に来ようと思ったら1年前とかに予約しないといけないっていうのに」
「ふふ、凪咲ちゃんが嬉しそうで私も嬉しいですぅ」
「嬉しいけど桃音も楽しんでね!?」
配信ではなく動画なので、なにを言ってもある程度は編集でどうにかなる。俺達は自然に振る舞って思う存分リゾートを楽しめばいい。
ただ撮影の都合上、テレビ局のような大がかりな撮影スタッフが同行している。飛行機で島を訪れてから合流して、しっかり打ち合わせした後こうして撮影を開始しているというわけだ。
この案件を受けて一番喜んでいたのが凪咲だったので、凪咲が進行していく形になっている。
「とりあえず、アタシ達が泊まるホテルに行くよー」
凪咲が俺達を引っ張っていく形で進めていく。
「と、こんな感じで大丈夫ですか?」
が、くるりとカメラの方に向き直って尋ねる。
「はい、ばっちりです! カメラのことは気にせず楽しんでください」
女性のスタッフさんが応える。凪咲はこういう方面でもプロなのでしっかりしていた。
ただ、おそらくカットされるであろうホテルまでの道行きでるんるんにスキップしていたので、心から楽しみなのだろう。
「この面子で旅行なんていつ振りだ?」
「修学旅行振りですかねぇ」
「4年前くらいか」
道中はどうでもいい雑談をしておく。自然にしていいそうなのであまり撮影だと思わず気楽に過ごそう。
「ロアも、純粋に楽しんでいいからな」
「はい、マスター」
いつもは撮影、補助役のロアだが今回はメインに数えられている。ロアも楽しんでもらわないといけない。家事をやってもらったり配信周りのことをやってもらったりしているので、偶にはこういう息抜きもいいだろう。
ホテルの前に到着して、大きなホテルを見上げる。絢爛な外装で、道中の舗装された道もそうだがオシャレにまとめられている。高級感溢れるホテルは確か50階にも及ぶそうで。1階のロビーと2階の食堂、3階の大浴場を除けば全てが客室となっている。
因みにホテルの左にはレストランが集合している建物、右には巨大スーパー銭湯があり、ホテルに収容している人数を備えつけの食堂、大浴場で賄えない時のために利用できる。
この完全予約制のリゾート地では、“混み合わない贅沢な旅行を”がコンセプトとなっている。
ホテルに収容できる人数が決まっているので、最大の人数が一斉に浴場へ向かわない限りスーパー銭湯に行く必要はないのだが。
スーパー銭湯は湯の種類も豊富でのんびり時間を潰せる施設も充実している。気分によって変えられるのだ。ホテルは各部屋にバスルームも備えつけている。
「わ、キレー」
先頭を行く凪咲が目を輝かせながら入っていく。
自動ドアを潜り中へ入ると高級ホテルの豪勢な内装が出迎えてくれる。それだけでなく、スタッフさんが左右に並んでいた。
「「「ようこそお越しくださいました」」」
揃った挨拶とお辞儀。
「まるでセレブを迎えるような雰囲気だな」
「一応セレブだろ俺達」
「資産で言えばそこらのセレブより上だしね」
「今回は皆様を出迎えるため特別にご用意させていただきましたので」
金ならある。まぁ結構使っているわけだが。
ただ今回は画面映えのための特別な演出らしかった。
「えっと、今回はどの部屋に泊まっていいんですか?」
ホテルのロビー、受付前で凪咲が振り返り確認する。
「どのお部屋でも」
スタッフさんは笑顔で告げた。流石は貸切。
「おひとり様専用ルームから、2名様用ルーム、ファミリールーム、そしてスイートルームまで自由にお使いいただいて構いません。今回の期間、日によってお部屋を変えていただくことも可能ですよ」
本当に全ての部屋が使えるらしい。
「スイートルーム! ……滞在1ヶ月の金額が高いヤツだ」
凪咲が食いついていた。これはスイートルーム確定だろうな。
「お値段に恥じない設備とおもてなしをさせていただいております」
高いと言われても微動だにしない笑顔で断言した。流石はプロ、誇りを持って仕事をしているとわかる。
「じゃ、じゃあ最上階の温水プールつきスイートルームも……?」
そんなのがあるらしい。
「はい、もちろんです」
スタッフさんは笑顔で頷いた。凪咲の表情が面白いほど輝く。
「そこ! そこにします!」
「かしこまりました」
即決。いやわかっていたが。
「そんなのがあるなら見に行ってみたいな」
「では最初はそちらへ向かいましょうか。奥の転移魔方陣へどうぞ」
エレベーターホール、と並ぶ転移魔方陣。エレベーターと違って瞬時に目的の階へ行ける優れ物。機械と連動して待ちなどもわかるようになっている。ただし設置費用諸々が高く希少でとんでもないらしい。ロアとどちらが高いかと言ったところか。
「では参りましょう」
転移魔方陣の上にスタッフさん含めて全員が乗る。一気に数十人を転移させられるので、時短になる。加えてエレベーターと違い電気代はかからないので、魔力さえ使えれば維持費は安く済むという利点があるのだ。
一瞬の浮遊感と共に転移して、豪勢なホールが目に入った。
廊下はなくホールのみ。目の前に扉があるだけ。
「こちらのスイートルームは最上階と屋上の利用が可能となっております。そして見ていただいている通り、最上階は1部屋のみとなっております」
やはり1階を丸々1部屋にしているらしい。セキュリティの都合で扉をつけているだけなのだろう。
「では、どうぞ」
カードキーを翳すと、両開きの扉が自動で開いた。
「おぉ……!」
垣間見えた内装に牙呂が感嘆の声を上げる。
早速中へ入っていくとその全貌が明らかになった。
大きなソファ、テーブル、壁かけテレビ。窓際に置かれた小さなテーブルと椅子。天蓋つきのキングサイズベッドが鎮座している。パッと見て見えるのはそれだけだが、上に向かう階段や扉があるのでもっと広いのだろうが。
当然、それだけの施設があって尚充分すぎる間隔が空いている。
「ベッドや椅子などは予約されたお客様の人数に応じて調整させていただいております。またこちらを含むスイートルームのみお食事を運びすることができます。ベランダへどうぞ」
スタッフさんが説明しながら、まずは奥のベランダへ。
向こう側は青い空が見えるだけだが、庭のような造りをしており、ここにも椅子とテーブルが置いてある。
ベランダの縁に寄りかかって外を見れば、これから向かうであろう数々の施設が見えた。観覧車やジェットコースターが目立つ遊園地もあるので、夜イルミネーションを楽しむこともできると。
他にも広々としたシャワールームというか最早浴場があり、サウナまで完備していた。飲み物は冷蔵庫から自由に取り出せるので、サウナ上がりに1杯だろうが全然できる。
「それでは屋上へ参りましょうか」
部屋を一通り回った後に最上階へ。階段を上がって屋上に出ると、開放感溢れるプールが備わっている。ビーチパラソルなどもあり、少人数で過ごすには充分すぎる広さだった。1人でここ泊まったら優雅な日々を過ごせることだろう。充実しすぎてて戻った時支障を来たしそうだ。
「これが致せり尽せり……!」
「1人とか2人で泊まるヤツいるのかこれ……」
「豪華ですねぇ」
「誰にも邪魔されない贅沢な空間ってことだな」
「素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
最上階のスイートルームに入ってから思っていたことだが、やっぱりヤバいな。
「こちらは最大で4、5名まで宿泊可能ですが、どなたが泊まられますか?」
「アタシ絶対ここ!」
聞かれて、凪咲が即答した。まぁだろうな。一番楽しみにしてたしここは譲ろう。
「じゃあ俺達は別部屋にするか」
「だな」
俺と牙呂が言うと、
「では2名様用のお部屋にご案内しますね」
とスタッフさんが申し出てくれたので部屋を出ようと向かう……のが4人。
ぴたりと足を止めて振り返ると奏とロアがついてこようとしていた。
「マサと同じ部屋がいい」
「マスターと同じ部屋でお願いします」
揃って同じことを言い、顔を合わせて睨み合う。だがそんな彼女達を後ろから腕を掴み引き止めてくれる。
「はいはぁい。こっちは4人にしましょうねぇ」
桃音である。桃音のぱわーからは逃れられないのか、ずるずると引き摺られていった。
「マサと一緒がいい……」
「マスター……」
しょんぼりされると心苦しいが、流石に男女同室は良くない。2人用の部屋はそういう関係の人も泊まるだろうが、今回は別だ。案件だし。そういう紹介をしたいならカップルや夫婦の人を呼べばいい。
というわけで俺と牙呂は2人用の部屋へ。
ワンフロアに複数部屋があるが、扉の間隔からすると相当に広いか。
中に案内されると、高級ホテルでよく見る内装が露わになった。2人部屋ということだが、子供連れでも充分な広さだと思う。
「スイートルーム見た後だからあれだが、やっぱ広いな!」
「ああ。荷物を置いたとしても広々としてるくらいだ」
ベッド2つにテーブルと椅子2つ、ソファと壁かけテレビもある。スイートルームのモノよりは小さいが、のんびり過ごすのにこれ以上ない広さだ。
「お部屋は全てインターネット、無線Wi-Fiが使用可能となっており、ルームサービスも利用可能です。ただお食事はスイートルームのみ可能となっております。飲食は可能ですので、軽食や菓子類はルームサービスで注文してください」
因みにそれらサービスは無料。というかこの島全体の利用料が決まっているので金さえ払ってしまえば島全体のサービスを金額気にせず利用可能となっている。もちろん、その分初期費用が高いのだが。
まぁこういう旅行中は財布が緩くなってしまうモノだ。先に払って後は楽しむだけ、という形もいいだろう。
荷物もほぼないので少しのんびりしてから1階のロビーへ向かう。
凪咲達もちゃんと来ていた。居心地が良すぎて腰が上がらないことにはなっていなかったようだ。
「それでは、当施設を案内しましょう」
全員揃ってからスタッフさん案内の下、ホテルを出る。
今日はいきなりだが、遊園地に行く予定だった。
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