富士山のダンジョン踏破
黒と白のボスを討伐した。
奥へ続く扉が開いた。
のはいいが流石に疲れた。
ということで休憩と素材回収のため配信を止めた。
勿体ぶっても仕方がないので、万全の状態になったらすぐに再開して奥へと向かうことにする。
「つーわけで、いよいよ扉の奥に行くぞ」
“きちゃああああああああああ”
“待ち切れん”
“待ってた!”
“クリアか!?”
俺達もそうだといいなと思っている。
「またボスだったら嫌だけどね」
「終わりだといいですねぇ」
「どっちでもいい」
こうして見ると、長期間ずっと一緒にいても全然変わらないなこいつら。俺もか。
6人で揃って扉に近づいていき、顔を見合わせた後に近づいていく。
配信外でも扉の先は見ないようにしていたので、純粋に楽しみだ。
扉の先に入る――とそこは、通路ではなく部屋だった。つまり、ここで富士山のダンジョンは終了となる。
「おっ!?」
「終わりじゃない!?」
「長かったですねぇ」
配信者としてちゃんとしている3人が真っ先にリアクションする。配信画面でも扉の先が映し出されていることだろう。
最奥の部屋には、初回踏破報酬と思われる武器が、中央に鎮座していた。
神々しい輝きを放つ両手剣だ。切っ先に向かって藍色から白に近づいていく刀身も美しく、人の手ではまだ再現できない武器だとわかる。
いや、魔剣や聖剣よりも更に上か?
「……へぇ」
思わず口端が吊り上がってしまう。
俺は一応、魔剣なら再現できるようになったと踏んでいる。聖剣も同等の武器などで再現できるだろう。ただ目の前の武器は、どうだろうな。
最上だと思っていたモノの上を見せられた気分だ。面白い。
“終わったあああああああ”
“クリアだあああああ”
“おめでとう!!”
“長かったよホンマ”
コメント欄も大興奮。これまでもそうだったが大量のスパチャが流れている。瞬間金額いくつなんだ一体。数え切れないほどの最高額近いスパチャが飛びまくっている。この瞬間を待っていた人も多いだろうし、当然だろうか。
扉の先に進み、部屋に入る。と天から光が降ってきた。
立ち止まり、戸惑っていると光の中心から人影が降りてくる。
「――……」
人、と表現していいかはわからない。
一応人型ではある。
ただ浮世離れした美貌を持ち、背中に純白の鳥のような翼を生やした女性だった。身に纏う白装束はギリシャ神話に出てきそうなデザインで、女性自身が光を放っている。目は閉じており、ウェーブがかった金髪を揺らして地面に着地、せず空中で制止した。
“綺麗”
“誰……?”
“天使?”
“女神っぽい”
“敵ではなさそう?”
敵意は感じられない。だから急なボス戦ではなさそうだが、モンスターとも違う雰囲気に警戒せざるを得なかった。
「よくぞ此処まで辿り着きました、人の仔らよ」
舞い降りてきた女性は慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら口を開く。美しい声音は澄んでいて、すっと頭に入ってきた。
「……誰だ、あんた」
「警戒する必要はありません。私はただ、あなた方に称賛と加護を授けに参りました」
牙呂が尋ねると、彼女は答える。
「称賛は……わかるけど。加護ってなに?」
深呼吸して自分を落ち着けた凪咲が質問を重ねた。
「加護とは、我々が与える特別な力のことです」
特別な力?
一気に胡散臭さが増して眉を寄せてしまう。
「通常のダンジョンでは、最奥に1つの報酬のみを用意しています。ですがこの特別なダンジョンでは、1つの報酬に加えて特別な力を授けることになっています」
「具体的にはどういった力なんですぅ?」
「授けてしまった方がわかりやすいでしょう」
桃音が首を傾げて尋ねる、女性は両手を差し出すように伸ばした。その掌から金の粒子が放たれると、俺達の胸中へと入ってくる。
そして、入ってきた瞬間に彼女の言っていることが理解できた。
「あん? なんだこれ、どんな能力を授かったか一瞬でわかるぞ」
「はい。授けた力は授かった瞬間より、あなた方の力となります。名称、能力の詳細がわかるようになります」
「へぇ、面白いわね」
“能力?”
“なにそれ、形ないモノなのか”
“強くなるんか?”
“最高難易度のダンジョン攻略して能力授かって強くなるってなに目指すの?w”
“村正だけ妙に渋い顔してない?”
「オレの能力は『韋駄天』。速さの代名詞になってる神様の名前だな。効果は速さの上昇と速さに耐えられる身体……これがめっちゃいいな。最高速が1人でできるようになんぞ。あと空中や水中でも駆けられるようになる、と。これも便利だな。空中で方向転換できるようになるし」
牙呂は惜しみなく能力の詳細を明かす。
“更に速くなるのか!!”
“神様の名前使うとか贅沢な”
“時空間超えた移動速度がデメリットなしでできると?”
“ただでさえ化け物だったのにまた一段階化け物にw”
“空中で方向転換されたら捕まえられないやんwww”
「アタシのは『ソロモン』。凄いよ、魔法関連の能力がいっぱいあるね。もっと特殊なこともできるみたいだけど……またのお楽しみにしよっかな。奥の手になりそうだし」
ソロモンか。こちらも有名だ。牙呂もそうだが得意なことをより伸ばす、極めるモノになっているみたいだな。
“凪咲ちゃんが一番授かっちゃいけないんじゃない?w”
“ソロモンとか絶対ヤバい能力あるだろw”
“時間魔法を使えるようになって双璧から頭1つ抜けたかと思ってたけど”
“最早世界最強の魔法使い”
「『武御雷』。剣と雷の能力」
“えっ?”
“それだけ……?”
“やっと日本の神か”
“日本最難関のダンジョンで日本の神なんだから強いんじゃないの?”
“あんまり興味なさそうw”
奏も剣か。強い能力も持っているのだろうが、本人が一番興味なさそうだ。まぁ今でも充分強いか。皆もそうだが。
「私は『デメテル』ですねぇ。回復に関連した能力が多いですぅ」
桃音も簡潔に済ませた。やはり回復か。
“詳しく教えて欲しいな”
“戦闘能力はあるのかな”
“回復は今でも充分だと思うんだけどなぁ”
「私は『デウス・エクス・マキナ』です。戦闘面でも活躍できるようになりますね」
“ロアちゃんも貰ってたんかw”
“そういやカメラにも近づいてきてたな”
“万能アンドロイドがもっと万能に……?”
“ZONBYに許可取らないと違法改造にならんか?”
“草”
ロアも適した能力を授かったらしい。というか戦闘に参加していなくても貰えるのか。流石に富士山のダンジョンレベルの難易度でなんの関係もない足手纏いを連れていくことはないだろうが、連れていくだけで能力が授けられるならそういう金持ちもいるかもしれないな。
「忠告しておきますが、ただついてくるだけでは能力を授けることはありませんよ。特別な力は先程も申し上げた通り、此処まで辿り着いた報酬なのですから。ダンジョンの進行に貢献しない者には与えられません」
まるで俺の思考を読んだかのようにつけ加えた。
つまり、非戦闘員ではあるがロアの貢献がダンジョンの踏破に必要だと認められたということだ。
「で、お前は?」
最後になって牙呂が俺に聞いてくる。
「……『夜叉』」
俺は渋々答えた。
「夜叉? 鬼神のか? ……って、あぁそうか。“鬼”か」
「あらあらぁ」
「しかも鍛冶じゃなくて戦闘向きっぽい?」
「ああ。武器の扱いが上手くなるのと戦闘能力が格段に上がる変身があるくらいで、鍛冶にはなんの役にも立たん」
“鬼化が参考にされたんかw”
“がっかりしてて草”
“役に立たないとか言ったるなw”
“桃音ちゃんが『デメテル』だったし、『ヘファイストス』とかあり得そうだったのにな”
“鍛冶の能力じゃなかったかw”
ホントにがっかりだよ。俺も長所伸ばさせてくれ。
「あなたに関しては、近い内に神の武具にも並ぶ武具を鍛造できるでしょう。授ける能力はあなた方に適していて且つ、足りない部分を補う力となっておりますから」
俺が残念がっていたからか女性からフォローが入った。
まぁ確かに、最強状態になれる妖刀を失ったわけだからな。戦闘面の補助は有り難いと言えば有り難いが。
“授ける側から買われてて草”
“能力授けても伸びしろ少ないんかな”
“純粋に戦える能力なんだから喜んでくれw”
“困らせるんじゃないよ、プレゼントみたいなモノだからな?”
少し残念だが、とりあえず良しとしようか。
「では、私の役目はこれで終わりですね」
「ちょっと待って。聞きたいことがあるんだけど」
「はい、構いませんよ」
意味深に現れた謎の女性相手に聞きたいことなど山ほどある。凪咲が呼び止めると、意外と素直に応じてくれた。
「えっと、いくつかあるんだけど……」
「あなたが今思い浮かべている質問内容にお答えしましょう」
凪咲がどれから聞こうか悩んでいると、相手から申し出られた。少なからず驚く、というかやはり心が読めるのか。
「特別な能力を授ける理由ですが、今後のためとしか今はお伝えできません。今はまだ、いずれ役に立つ時が来るでしょうとしか」
意味深な答えが返ってきた。
「加護についての質問に答えていきましょうか。加護に同じモノはありません。唯一無二の能力となっています。加護は特別なダンジョンを踏破した報酬として与えられますが、1度加護を得たダンジョンからは複数回加護を得ることはできません。また加護は初踏破の方々のみでなく、これ以降踏破された方にも授けます」
「加護がなんで神話に関連する名前を冠してるのかの答えは?」
「そちらの質問には答えらえれません」
「じゃああなたのことは?」
凪咲が質問攻めにしていく。わからないことが多いからだろう。ただし、女性のことなら1つわかることがある。
「あんた、神の1柱だな」
俺が遮って口にする。
「ええ、そうですよ」
「わかるの、マサ君」
「ああ。お前達もわかると思うが、加護を授かった瞬間からあんたの力の種類が知覚できるようになった。魔力とは違う。言うなれば
「あっ、そういえば! 最後のボスから感じたのと同じ力かも!」
「その通りです。神力は魔力とは異なる、別種の力となります。つまり加護とは言うなれば、あなた方に適した神力の形となります」
加護ってのは能力と言うか、神力を授けるためのモノってことか。魔力ですらこの世界に突然現れたモノだってのに、そこに神力まで。なにをさせたいかがまるでわからないな。
“はえー”
“どう違うかわからん”
“強くなるのかも”
“魔法みたいなヤツできるようになる?”
“強いヤツ更に強くしてどうすんだw”
「此度はこれまでとしましょう。また、別のダンジョンの最奥であなた方が加護を授かる時、我々と相まみえることでしょう」
彼女はそう言うと光差す天へと昇っていき、やがて姿を消した。……一体なんだってんだか。
ただ日本屈指から世界屈指まで跳ね上がった俺達に更なる力を与えるとは。
来たるべき時ってのがちょっと、気になるな。
「色々あるだろうが、とりあえず報酬の武器見ようぜ」
牙呂が切り出す。とりあえず配信を終わりに持っていくようだ。
「そうだったわね。剣みたいだけど、奏が使ってるのよりちょっと大きいかな。どお、マサ君」
凪咲に言われて前に出る。入った時にある程度見ていたが、近くで見てもやはり素晴らしい。
「霊峰神剣・大和か。能力は『風林火山』、『救い主』、『和ノ国ノ神ニ奉ル』、『世界を背負う者』の4つ。知らない効果ばっかりだな。『風林火山』は有名なフレーズだが、速度、技術、攻撃、防御に物凄い強化が常時かかる効果。風、木、火、土の四属性も自在に使えるようになる。『救い主』は窮地になるとめっちゃ強くなる。『和ノ国ノ神ニ奉ル』は……日本の神様を降ろすことで超強化されるみたいだな。『世界を背負う者』は世界の命運を懸けた戦いで強くなるそうだが。意味あるんかなこれ」
“とんでもない武器で草”
“疑似加護ができるってことか?”
“言葉だけで聞くとあれだが、実際の強化幅がめっちゃ大きそうだな”
“世界の命運を懸けた戦いは来ないでいいよw”
「で、誰かいる人ー?」
俺が尋ねる、が誰も手を挙げない。
「オレは二刀流だし」
「アタシ剣使えないし」
「マサの剣じゃなきゃやだ」
「私もいりませんねぇ」
「私では扱えないようです」
5人からの答えはそんなところだった。
「村正以外いらないんじゃないか?」
「俺もいいや」
「えっ? いいの? 神剣ってことは聖剣とか魔剣より上っぽいじゃん」
「俺、そういうの収集してたことあるか?」
「ないですねぇ」
「マサは集めるより造る方」
「あ、そっか」
凪咲も理解したようだ。
そう。俺は武器が大好きだが、聖剣や魔剣を集めているわけではない。
つまり、
「性能と装飾は見たから、自分で廉価版神剣造るし。今でも『風林火山』くらいなら再現できるんじゃないか?」
自分で創りたい。
「だな。つーことは、だ」
牙呂が楽しげに笑う。
「オレら全員いらねぇから、報酬の神剣は売っちまうか!」
彼の大胆な発言に、俺達は思わず吹き出してしまう。
“ええええええええええええ”
“草”
“wwwwwww”
“まさかとは思ったがw”
“マジかぁ……”
“【悲報】世界初の神剣、売買でバイバイ”
“誰が上手いこと言えと”
“盛大なオチがついたなw”
一頻り笑った後、俺が回収して協会に売り払うことが確定した。
折角の希少な武器なのだが、まぁこれはこれで俺達らしいか。
その後部屋の奥に現れた転移魔方陣に乗ってダンジョンの外へ出た。
さて、久し振りの外界はどうなっていることやら、だな。
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