黒白の神像
俺が深層突入前に造っていた武器を使ったことで、形勢は傾いた。
牙呂の連撃も奏の斬撃も凪咲の魔法も当たるようになっていき、傷だらけの敵が遂に沈黙した。
“やったか!?”
“まだ変身を残してそう”
俺達もまだ終わるとは思っていない。
警戒していると、敵の真っ白な身体が額の水晶から黒く染まっていく。同時に傷も治っていった。部屋の壁全体まで黒く染まっていき、カッと開いた瞳は赤色に変わっている。
「第二形態か」
「武器がなくなった……?」
6本腕が持っていた武器が消滅する。素手で戦うのか、と思ったら6本腕を振り上げて掌から黒い炎を出し、6つの手で柄を握れるほど巨大な剣を形成する。炎のままの不確かな形だが、確かに剣だった。
「深海竜盾ドラガード!!」
相手が剣を振り下ろしてくる。俺は深い蒼の盾を取り出して構え、他の武器をしまった。
各々退避行動を取る中振り下ろされた黒炎の剣が爆ぜた。全身が焼き尽くされる激痛に苛まれて意識が消し飛ぶ。
気がついた時には地面に倒れていて、灰塗れになっていた。
「げほげほっ! なにが……」
俺は咳き込みながら立ち上がる。周りを確認すれば、ロア以外が同じような状態だった。桃音がロアの前に立っている。
“人体が一瞬で灰になった……”
“全滅してもおかしくないだろこれ”
“桃音ちゃんが自分を常時回復し続けて耐えたおかげで、ロアが助かったのか?”
「皆はちょっと燃え尽きて灰になっちゃっただけですよぉ」
「ちょっとどころの騒ぎじゃないでしょ!?」
「火力上がりすぎだろ」
桃音がロアを守ってくれたようだ。感謝しなければ。
俺達が忌々しげに見上げる中で、敵は6つの手にそれぞれ違うモノを持つ。
黒い炎の槍、黒い雷の斧、黒い氷の刀、黒い風の剣、黒い木の杖、黒い闇の棍棒。
「属性武器が主流になるってか」
「さっきのが連発されたら厳しいけど……」
凪咲は険しい表情をしている。もしそうなら防戦一方になるが。というかあんな攻撃がずっとできるならそれはもう勝負させる気がない。
炎耐性を持った俺の盾が灰になったんだぞ。威力がバカげている。
突っ込むに突っ込めない状況になり、様子を窺う。
そこで敵が黒い雷の斧を振り下ろした。全員身構え、俺も新たな盾を出して防御態勢を取る。
斧から強烈な雷撃が放たれるが、今度はさっきほどの威力はなかった。範囲も部屋全体に波及していない。俺は真正面に陣取っているせいで結構なダメージを受けてしまったが。離れていた前衛2人、後衛の3人は無事だ。
「わかったわ。手の本数ね」
「だな。武器を創った手の数だけ威力が跳ね上がるんだろうな」
凪咲と牙呂が口に出す。俺にも理解できた。先程のヤバい威力の攻撃は、形態変化の大技というところか。6本腕から放たれる攻撃はあれほどの威力を持っているのだろうが、6分の1ならどうにかなるレベルではある。
「マサ君! アタシとマサ君で相殺! できる!?」
「当たり前だろ」
属性攻撃が主体になったら、俺と凪咲が相殺での防御を担当した方がいい。攻撃の手は減ってしまうが、受け切れないよりはいい。
「任せたぜ、2人共!」
「ん」
そっちこそ任せた。攻撃しないと敵が倒せないからな。
それから役割分担をして黒くなった敵と更に戦い続けていく。
敵が雷の槍を投げてきた。俺は手を突き出して即興鍛冶の材料にできないかと思ったが、飛んでくる速度が速すぎて身体を穿たれてしまう。桃音の回復によってすぐに治ったが。やはりそう上手くはいかないか。
「あれは魔力っていうか、別の力も混じってるみたい。いくらマサ君でも無理だって」
「そうか」
凪咲が言うならそうなんだろう。俺にはその別の力ってヤツが感じ取れないのでわからなかったのだが。
まぁできないなら仕方がない。相手の属性に対抗できる属性武器をポーチから取り出して相殺することを繰り返していた。
「飛雷風刃!!」
牙呂が高速で駆け回りながら二刀から細かな斬撃を飛ばす。彼にしては珍しい遠距離からの範囲攻撃だ。
「んっ!!」
奏は名前を叫ぶことはなく、ただ剣を振るだけだ。魔力を込めた一振りで無数の斬撃を放つ。遠距離では一応これが最大威力の攻撃になるようだ。
下層ボス戦で使った概念攻撃はそう簡単には出せないか、出さないだけか。なんにせよまだ斬撃に乗せることはできないようだった。
凪咲は敵の攻撃と相克の関係にある魔法で相殺しようとしている。ただ相手の火力が上がっているせいか相殺漏れはあった。それをカバーするのが俺の役目だ。6つという数だけなら凪咲1人でも事足りるのだが。
防御力も上がっているようでダメージを与えていくのにも時間がかかっている。第一段階の白かった時よりも倍近くの時間がかかっていた。
その上、敵は複数本の腕を使って力を増幅させた攻撃も使ってくる。腕3本までなら俺と凪咲で防御できるのだが、4本以上になると被害が出ることは避けられなかった。
だが今回は桃音には回復に専念してもらっている。負傷しても死んでも桃音が瞬時に回復してくれるからこそ戦いを続けられていた。
時折、おそらくダメージが一定以上蓄積すると6本腕による全滅前提の範囲攻撃をしてくる。
俺達人間は治せるが、ロアが故障してしまえば治せない。
俺の盾、凪咲の魔法、桃音の身体。これらの壁を介してようやくロアを守り抜ける。
こういう即死技は俺と桃音が通った道の敵しか使ってこなかったのだが、ボスともなればダンジョンの象徴だし使ってくるか。
攻撃を中断させようにもバリアを張って遮断してくるので、攻撃を受けるしかない状態だ。
既に戦いは数時間、十数時間にも及んでいる。戦いに集中していて正確にはわからないが、凪咲が魔力回復薬をいくつか使っているのが見えた。数時間の戦いであれば凪咲の魔力が尽きることはないので、かなりの時間が経っているはず。
だがまだ黒い形態を倒せていない。疲労も蓄積していき、呼吸が乱れている。
ボスにはいくつか形態があるのだが、今回が2回とは限らない。このまま戦いが長引けば厳しい状況に追い詰められる可能性もある。
その前にどうにかしたいが、敵が6本腕で雷を集約させ刀を創り出した。また最高火力の大技だ。
「……アタシがなんとかする」
凪咲が言った。突然のことに驚きはしたが、誰かがなにか手を考えているだろうとは思っていたので、それが凪咲だったというだけだ。
「任せたぜ」
「ん」
前衛2人は凪咲の思いを汲み取り、防御を一切捨てて攻撃の準備をする。
“凪咲ちゃん!”
“バリア割れるのか?”
“失敗しても繰り返しになるだけか?”
“いや、ロアちゃんの守りが減るからマズい”
「……えぇっと。思考加速、並列思考、魔方陣構築手順早送り、魔力急速充填……」
ぶつぶつと呟きながら魔法を構築していく。どうやら今までに使ったことがない魔法らしい。というか今「加速」って言ったか?
それは時間魔法の領分のはずだ。
“思考加速って……”
“まさか時間魔法!?”
“使えないんじゃなかったっけ”
“覚えたのか、いつの間に!?”
時間魔法は使えないはず。だが、凪咲が立ち止まっていないことくらい知っている。その1つだろう。
俺は防御の考えを捨てて、武器を取り出す。前衛2人の攻撃を援護しよう。
「……よし! これがアタシの、今できる全力! ありったけの魔力を込めたんだから! いくよ、広域殲滅時空間破壊魔法!!」
相手の技が放たれる前に、凪咲の準備が整った。
「――
彼女の新魔法が発動する。
敵の身体の真ん前に大きな時計が現れ、中心に空間ごとヒビが入る。そのまま広がったヒビは時計も空間も砕き、そして相手のバリアすらも粉砕した。
“うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!”
“魔法最強! 魔法最強!”
“やった!!”
攻撃が中断され、相手が大きく体勢を崩す。これ見よがしのバリアは破壊すると怯むということだったのかもしれない。ワールド・エンドで砕けないバリアをどう破壊するんだという話だが。
「瞬迅・絶無」
「――斬る」
「雷龍到来」
牙呂が放つ瞬く間の連撃。
奏が一振りで放つ無数の斬撃。
俺が取り出した雷の刀から放たれる雷で出来た龍。
それらが一斉に襲いかかり、敵に多大なダメージを与えた。
どうやらバリアが破壊されると弱体化する効果もあるらしい。
またしても、黒い身体が沈黙する。力なく垂れたが、完全には破壊できていないようだ。
“やったか!?”
“これで終わってもいい!”
俺達が固唾を飲んで見守る中、敵の身体が白く戻っていく。終わりなのか、と思ったが俺達から見て右半分しか白くなっていない。部屋も同じだ。丁度真ん中で白と黒が分たれている。
“第三形態!?”
“これまでにやってきたこと全部やってくる感じかな”
“でもこれで間違いなく最後だろ”
“やっちまえ!”
第一と第二を統合した形態。これが紛れもない最終決戦だとわかる。
「上等! 何度でもぶっ倒す!!」
牙呂が勇ましく、楽しげに笑う。
俺も同じ気持ちだ。当然、相手が倒れるまで倒す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます