早めの奥の手
ボスとの戦闘は苛烈を極めていた。
牙呂の動きは見切られ対処される。
奏の斬撃は同じ斬撃で相殺される。
凪咲の魔法は魔法で相殺される。
俺の即興鍛冶も模倣され、相手の魔法を利用する形でなければ全て相殺される。
桃音には回復に専念してもらっていた。
相手の傷はあまり増えていないが、こっちは消耗している。深層の攻略でかなりの数アイテムを使用したようで、あまり余裕がある状況とは言えない。
この相手と耐久戦をするのは部が悪いと言える。
今回は俺も後衛として援護に回っているが、隙を見て攻撃するだけの比較的余裕ある状態だ。他4人が全力で事に当たっている今、俺がなんとか状況を変える手を打ちたいところだが。
後ろから見ているとわかることもある。それは、こちらの攻撃が効かないわけではないということだ。だから相手はこちらの攻撃に対して相殺という防御手段を取っている。
攻撃しなければ相手の空いている手が攻撃をしてくるので手を緩めるわけにはいかないのだが。
俺も球状のミラージュカルムから銀の触手を伸ばして、その先で即興鍛冶を行い絶え間なく武器を造り攻撃するようにしている。
こちらが攻撃することが相手の手を塞ぐことにもなるからだ。
とはいえ底が見えない相手と現状維持を続けていても仕方がない。こういう時は手札が多い俺か凪咲の番だ。
「……よし。相手の攻撃は俺がなんとかする。その間に攻撃してくれ」
俺は言って、敵の真正面に行き少し前へ出る。
少し早いが、奥の手を使うことにしよう。
「おう、任せた」
どうやってなどとは聞かずに、攻撃の手を止める。俺が対処している間に攻撃してくれるのだろう。話が早くて助かる。
“マサ、やれるのか”
“打開策ないと追い込まれると見て動くんだな”
“やるんだな、今ここで!”
全員が動きを止めると、相手が先手を打ってくる。敵が選んだのは剣の一振り。無数の斬撃を放つ奏の模倣技だ。
俺はポーチから1つの武器を取り出す。
「――斬戟を奏でる
片手両手兼用の両刃直剣。オーソドックスな純白の剣だ。
名前を聞いて奏がぴくりと反応していた。
“奏でる!?”
“まさかとは思うが……”
俺は剣に魔力を込めて一振りする。その一振りで無数の斬撃が放たれ、相手の斬撃を相殺した。
“うおおおぉぉぉぉぉ”
“やっぱり!”
“奏ちゃんの斬撃だ!”
“マジかよ”
“武器で再現しやがったwww”
「魔力を込めた分だけ斬撃の威力、数が増す武器だ。燃費は悪いから売る用には作れないが」
魔力量だけは多い俺だからこそ連発できるが、普通の人には扱えない。もちろん奏レベルの斬撃を再現しようとすれば、の話だが。
続いて相手はメイスを振り被ってくる。次は桃音の模倣と。
「――破砕音響く聖鎚」
俺は剣を地面に突き立てて、新たな武器を取り出す。淡い黄色をしたメイスだ。
敵がメイスを振り下ろして衝撃波を放ってくる。のに対して俺もメイスを振り下ろして衝撃波を放った。衝撃波がぶつかり合い、相殺される。
“桃音ちゃんのぱわーまで!?”
当然これも魔力を込めなければならない。
「へっ。昔は代用だったのに再現しちまうか。これなら、攻撃のチャンスが巡ってくるってもんよ!」
牙呂が言って駆け出す。その迎撃に2本の剣を使うので、その前に援護するとしよう。
「――神に牙剥く一対の二刀」
メイスを地面に突き立ててからポーチから2本の剣を取り出す。そして、放り投げた。
投げた二刀は込めた魔力によって高速移動を行い、敵が振るった二刀にそれぞれ激突、弾き返した。
「俺が移動するより、武器だけで飛ばした方が速い」
“牙呂だけ再現のし方がw”
“ただマジで速さは匹敵するくらいだな”
“これなら……!”
フリーになった牙呂が敵へ攻撃を当てることに成功した。
奏も攻撃を開始して、相殺しようとすれば俺が阻む形にする。もし奏の方向だけを攻撃するようなら、俺の斬撃は当たるのだ。
だが相手もじっとしているわけではない。近接中に杖を掲げて魔法を使おうとしてくる。
俺もポーチから杖を取り出すが、まぁ俺は魔法が使えないので魔法は再現できない。
「――凪へと変える魔杖」
杖は振るわず地面に突き立てた。相手からの魔法、プロミネンスフレアが放たれる。白い焔の大きな球体が迫ってくるが、それは杖へと引き寄せられていく。
そのまま魔法が杖に当たり、しかし炎が渦を巻いて中から白い炎を象った大剣が出現した。
「対魔法用自動即興鍛冶機能つきだ」
出来上がった大剣を掴み、振るう。白い炎の斬撃が放たれて敵を襲った。
“嘘やんw”
“自動で魔法を無効化、反撃の手立てが増える武器とか異常だろw”
「ねぇマサ君!」
「ん?」
「せめて魔法を吸収して返す武器にしてよ! それでも嫌だけど!」
「いや、俺魔法使えないから。武器をそうやって造れないし」
「あとさっきから魔法使いキラーすぎない!?」
「俺の前で魔法を吸い寄せて魔力に変換する技を見せたお前が悪い」
「うぐっ」
下層のボス戦で見せてもらったので、どうすればそれができるのかはわかった。ただ理解はしても同じことができないので、それなら即興鍛冶にしちゃえと。
“凪咲ちゃんは相手の立場になってるのかw”
“めっちゃ嫌そうw”
“見ただけで再現したの?”
“再現ってかアレンジ?”
“イカレてんなwww”
俺の即興鍛冶を真似されてもこれまでと同じように対処すればいいだけ。
これで互角から均衡を崩すことができた。攻撃役がダメージを与えられるようになり、優位を取ることができた。
だから俺は下層のボス戦後からこの武器達を造る過程でずっと言ってやりたかったことを告げる。
「腕が多い程度で俺に勝てると思うなよ?」
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