長い階段の先に
“えぇ……”
“まだいんのかw”
“長い階段の先にラスボスが待ってないわけがない”
“ゲームの常識”
“ダンジョンの常識に沿えw”
俺達は仕方なく、長い階段をゆっくりと下りていく。階段から落ちて空間に放り出されたらどうなるかわからないので、それなりに慎重だ。
「ったく。意味わかんねぇな。深層のボス倒したら終わりってのがダンジョンの常識だろうがよ」
「まぁまぁ。最後のボスはマサ君と桃音で倒しちゃったわけだし、いいんじゃない?」
「最後の締め括りは全員での方がいいですからねぇ」
「ん」
愚痴を言いながらも、絶望や嫌気はない。おそらく全員が揃ったから大丈夫だと思っているのだろう。俺も同じだが。
「考えてみたんだが、他のダンジョンのボスって1体だけだろ?」
「え? うん。それがどうかしたの?」
「それってさ、“深層の最奥にボスがいる”んじゃなくて、“ダンジョンの最奥にボスがいる”んじゃないかな」
「あぁ、そういうことね」
“うん?”
“すまん、わかりやすく説明してくれ”
“凪咲ちゃん理解早ぇ”
「あー……。なんとなくわかってきたぞ。お前が言いたいのは、富士山のダンジョンは各層毎にボスがいる。それが他のダンジョンと違うところで、ダンジョンのボス自体は他にいるってことだな?」
「そういうことだ」
“なるほど”
“なんとなくわかってきた”
“上層、中層、下層、深層にそれぞれボスが増えると”
“この説が一番有力そう”
“まだ決まったわけじゃない”
“ここから更に四天王戦とかあるかもしれないだろw”
考えればキリがない。
俺達は色々話しながら階段を下りていき、扉の前に辿り着く。どう見てもボス部屋の扉と同じだ。
「一応備えとくが、疲労はねぇな?」
振り返った牙呂に聞かれて全員が頷く。扉の奥にボスがいるとしても、問題はない。
「じゃあ行くか」
ということで、牙呂が扉を押し開く。この先になにが待ち受けているのか。
扉の中は暗く、入っても全容が見えない。
だが全員が入ると扉が1人でに閉まり、壁にかけられた松明が順に灯っていく。部屋が明るくなったことで、奥にいるヤツが見えた。
神殿のような純白の内装の、奥の壁から敵の上半身が生えている。姿は巨大で中性的な石膏像とでも言うべき見た目をしている。額に赤い水晶のようなモノが埋め込まれていた。腕は6本あり、腕組みをするように折り畳まれている。武器は持っていないようだが。
“やっぱボス部屋だったか”
“強そうだな”
“神々しさもあるし、正真正銘のラスボスだと信じたい”
俺達が武器を構えると、相手が目を開いた。黄緑色の宝石のような瞳が俺達を見据える。
「最後に相応しい敵じゃねぇか。だが、勝つのは俺達だ」
「当たり前でしょ。アタシ達が揃ったんだから」
「ん。マサ成分は満タン」
「誰1人として死なせませんよぉ」
「どんな能力を持ってるか楽しみだ」
「ご武運を、皆様」
これ以上の敵はないだろう。仮にいたとしても俺達は全力で挑むだけの話だ。
相手は6本の腕を開き、手元に武器を出現させた。
左腕が上から球体、剣、剣。右腕が上から杖、メイス、剣だ。一番下の剣2本は形状が似ている。……この武器の種類。まさかな。
「いくぞてめぇら!!」
牙呂が威勢良く駆ける。最初から全力、しっかりと強化した上での動きだ。カメラ越しだとわかりづらかったが、牙呂がより速くなっている。身体能力も全体的に上がっているようだ。
俺達の中で最高速度を誇る牙呂が敵の顔目がけて突っ込むが、素早く振られた右下の剣によって弾き飛ばされる。
「嘘でしょ……!? あの大きさでこの速さなんて」
「明らかに深層のボスより強いな」
俺も暴走状態だったとはいえ戦い続けたことで多少戦闘力も向上している。ただ、こいつ相手に接近して戦うのは難しいと言わざるを得ない。
「斬る」
奏が魔力を込めた斬撃を無数に放った。
相手も左腕真ん中の剣を振り、同じように無数の斬撃を放ち相殺する。いや、相手の方が数が多く威力が高い。約半分ほどが残って俺達に襲いかかってきた。
「むぅ」
奏が不満そうに唸る。
“奏ちゃんの斬撃が返された!?”
“なんだこのデジャヴ”
“そういや武器が5人のと同じだよな”
“また真似っこパターンか!?”
やはりと言うべきか、俺達がやれることを模倣、昇華して攻撃してきている。
敵が杖を掲げた。今度は魔法か。
「ッ! ワールド・エンドが来る!」
逸早く察知したのは凪咲だ。いきなり凪咲の最強魔法かよ。
「凪咲、位置は?」
「アタシ達の真ん中だけど」
「わかった。俺がなんとかする」
俺は以前からやりたかったことをすべく、後衛4人の真ん中辺りに移動する。
パキ、と空間にヒビが入った。発動までが早い。詠唱なしの発動時間短縮までできるようだ。
“容赦ねぇ魔法”
“初っ端からこっちの最強魔法とかありかよ!?”
“マサどうするんだ!?”
俺はヒビが広がっていく箇所へと両手を伸ばし、集中する。
「材質――魔法。形状――大剣」
ヒビが広がり続けていく中で相手の魔法を素材にして、即興鍛冶を行っていく。
空間が割れて俺の身体も砕け散る、ことはなく割れた空間から黒い大剣の柄が現れた。俺はその柄を握って引き抜いていく。
「構築完了――
そうして無事、黒い大剣を創造した。
“うおおおおおお!!”
“最強魔法の一角すら素材にするかw”
“なんで凪咲ちゃん渋い顔してんの?”
“自分の最強魔法が破られたからじゃね?”
“草”
“味方やろw”
俺は大剣を振り下ろして空間に亀裂を入れる。亀裂からヒビが広がっていき、相手の方まで瞬く間に辿り着く。空間が砕けると同時に敵も真っ二つ、とはいかなかったが切れ込みを入れることはできた。
「硬すぎんだろ。ワールド・エンド圧縮斬撃だぞ」
再生はしていないが、少ししか傷がついていない。凪咲が使える最強魔法の1つワールド・エンド。その破壊力は物凄く、もし今の魔法を食らった場合全員砕け散ることになるだろう。その威力を斬撃の範囲に狭めて高め、俺の魔力で増幅させたというのに大した傷になっていない。長期戦になるのは避けられないな。
「メイスが来るぞ!」
牙呂の忠告が飛んでくる。確かに相手はメイスを振り下ろそうとしていた。牙呂が忠告してきた理由はわかる。俺達を模倣しているのなら、桃音の一撃が最も高い威力を持っているからだ。
メイスが地面に振り下ろされた瞬間、衝撃波が放たれる。衝撃は部屋全体に波及して俺達を襲い、全員漏れなく踏ん張れずに壁まで吹っ飛ばされた。
「ロア、大丈夫か?」
非戦闘員であるロアにも衝撃波が届いている。一緒になって壁まで飛ばされた彼女の様子を確認した。
「はい、大丈夫です。損傷はありません」
「それは良かった」
“めっちゃびっくりしたw”
“画面揺れまくってたな”
“真似は一緒だけど、1つ1つがより強くなってる”
配信画面でも吹っ飛ばされる視界になっていたことだろう。ロアには安全のため、壁際にいてもらうことにした。必要に応じてズームを使って追ってもらう。
「相手にとって不足はねぇな」
牙呂が笑う。深層では苦しい状況が続いていたからか、相手がこれまで以上の強敵であるというのに笑っている。
「強い。けど、問題ない」
「どうやってダメージ与えようかな」
「存分にどうぞぉ」
「さて、なにから試すか」
俺達もそうだ。分断されていた時よりも精神に余裕がある。やっぱり仲間がいるというのは心強かった。
さて、どう反撃していこうか。
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