今どこに
俺と桃音は部屋に足を踏み入れ、敵との戦闘を開始した。
ヤツは仮面のような顔を俺達に向けて、6本腕を広げて刀を構える。
俺は相手の出方を窺うことはせずに鎖を振るい上げて敵を狙った。だが、相手の動き出しの方が速い。
振り上げる途中で敵が懐まで踏み込んでいた。俺が反応を示すよりも速く、六刀を交差させるように振り下ろされる。防御も回避も間に合わず、あっさりと刻まれた。
身体を刃が通り皮、肉、骨を断っていく激痛が全身を襲う。心臓を含めた内臓まで切断され生命活動が終わっていく。
その途中で、身体がくっつき正常な肉体を取り戻した。
桃音の回復だ。俺は回復するとわかっていたからこそ、躊躇せず刀を振り抜いた敵へと鎖を振り上げることができた。鎖が敵の身体に当たり、雁字搦めに巻きつく。動きは封じたが鎖を解こうと力を込めて抵抗している。……鎖に縛られた瞬間から相手の力は下がっているはずだ。だが、鎖が引き千切られそうなほどに軋んでいる。早くしないと千切られるな。
俺は眉を顰めつつ右手の球体に魔力を込めて銀色の刃を複数伸ばした。そのまま敵の全身を刺し貫く。かと思ったら貫かずに止まってしまった。だが傷はつけられている。
しかし仮面のような顔は硬すぎて刺さる気配すらなかった。目も狙ったのだが仮面の一部なのか硬い。
数で手傷を負わせようと思ったのだが、敵が大きく飛び退いてしまった。鎖に合わせて引っ張られることはなく、鎖が伸びる。ある程度制限はされているが、致命的な不利にはならないようだ。
「桃音。俺がヤツの動きをどうにか止める。攻撃は任せた」
「はぁい」
俺が持っている様々な武器と比較しても、桃音のぱわーは最高峰だ。ミラージュカルムで攻撃した手応えからも相当な頑丈さを持っていることはわかった。桃音の攻撃力を頼らない手はない。
相手は鎖が伸びるとわかったからか動き回って俺の攻撃を半分くらい回避している。だが確実に傷は増えていた。
俺は銀色の縄を無数に作り、先端を槍のように尖らせる。そのまま一斉に突き刺し、間髪入れずに作り直して連打で突き刺し続けた。
これを続けていけば勝てる、と思ったが敵が急接近してくる。
ザク、と擦れ違い様に身体を切断された。
鎖で縛っているとはいえ刀を手放しているわけではない。だから体勢を上手く変えれば攻撃できないことはないのだ。
桃音の治療を受けて復活した俺は後ろになったことで、これまで突き刺していた裏側から攻撃。敵の身体を複数箇所貫いた。
「桃音!」
「えいっ」
俺が呼びかけるまでもなく、彼女は動き出している。敵の正面からメイスを思い切り振るい、身体に叩きつけた。俺も衝撃波に巻き込まれかけたが、敵が壁まで吹き飛び胴体が潰される。鎖もバラバラに砕かれていた。だが問題はない。この鎖は伸びるので、俺が持っている柄さえ無事なら壊れる心配はなかった。桃音にもそれを伝えてある。
だが、敵はまだ生きている。いや、動いているというべきか。
「桃音、追撃だ!」
「わかってますよぉ」
俺もミラージュカルムで攻撃を重ねて削りつつ、桃音が近づくまでの時間を稼ぐ。
そして、どごぉんといい轟音を響かせて桃音の一撃が炸裂。鎖で守られていない敵の身体がごしゃりと潰れた。ようやく事切れたようで、僅かに動いていた身体が力なく垂れる。
どうにか勝利、と思って振り向いた桃音と顔を見合わせたが、敵の仮面が身体から離れて浮遊し始めた。
「離れろ!」
桃音に忠告しつつ慌てて身構える。ミラージュカルムで攻撃してみたが仮面には傷1つつかない。
浮遊する仮面が光り始めると、潰れていた肉体が仮面の方に集めっていき、ぐちぐちと身体を再構築していった。
「再生能力まであるのか……!」
「あの仮面に秘密がありそうですねぇ」
仮面が本体、というモンスターなのかもしれない。俺は再生したての身体に鎖を巻きつけて動きを制限する。そこからはまた敵を攻撃して弱らせて、桃音が攻撃。倒したところで仮面を殴ってもらうということを繰り返した。
相手の身体能力、ギミック、仮面の頑丈さ。どれを取っても深層の第一階層よりも強い。個体数の限られる特殊なモンスターなのだとは思うが。
どうやらここは、深層の中でも後半、第五階層以降に当たるようだ。無論、第二階層でぐんと敵が強くなって実は第三階層くらいだったということも考えられるが。
「はぁ……っ! はぁ……っ!」
「疲れましたぁ」
仮面がようやく割れて敵の復活が終わったところで、俺達はへたり込んでしまった。仮面に攻撃できる時間がどんどん減っていって、非常に面倒な戦いだった。
重い身体を起こして歩き、通路の先を確認する。
「ここも敵がいるな」
通路の先はまた部屋があった。またしてもボスのような強大なモンスターだ。
部屋は先程のモノよりも広く、純白の鉱石――オリハルコンが壁に生えている。それも大量にだ。ここまでオリハルコンが多くあるしていることは珍しい。色々な鉱石があって、その中にオリハルコンは少量というケースが多いのだが。
そんなオリハルコンのある部屋の中央で、白銀のドラゴンが丸まって眠っていた。
……あのドラゴンの眠っている周囲にだけ霜が降りてる? 氷のドラゴンか?
ドラゴンは俺が見たことのない種類だったが、見た目である程度予想はできる。もちろん、第一階層にいたウミウシのように予想を外してくる敵もいるが。
腹部側の体表は黒く、背中側の体表は青白い。黒い身体の上に青白い鎧を着ているような姿だった。ドラゴンとしては小柄な方で、体長はおよそ10メートルほど。部屋の広さから考えて、ある程度自由に飛び回ってくると思われる。
俺はドラゴンと部屋内の観察を終えて1つ前の部屋に戻った。
「どうでしたかぁ?」
「この先にもモンスターがいた。多分氷のドラゴンだ。疲労もあるし、完全に回復してから挑もう」
「はい、わかりましたぁ」
それから素材を回収して疲れを取るために眠り、起きたら非常食を食べる、ドラゴンとの戦闘について話し合うなどして充分に回復してから、次の戦いへ挑むことにした。
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